虹のおと 2.あかやまどん
2.あかやまどん
ティナが選んだのは、右のあかやまどんが住む山だった。急な斜面も、久々にきたお客を通すために道を開けた。真紅の木々がざわざわしている。そのくらい、あかやまどんに会いにくるお客が少ないのだ。あかやまどんは山の頂上に住んでいた。いつも怒っているような大声を出すので、恐れられていた。あかやまどんの背は山と同じぐらい大きくて、雲にも届きそうなくらいだという噂だった。爪はのびてとがっていたし、眉毛はぐわっと盛り上がって怒っているように見える。口は小人を3人同時に飲み込めるように大きく、お腹はたべた小人たちでパンパンに膨らんでいるらしかった。
ティナはまっすぐあかやまどんを目指して山をのぼっていった。その後ろをホビーは内心こわごわついていくのだった。
あかやまどん あかやまどん
うわさのあかやまどん
どうかぼくたちを 食べないで
「まさか、小人を食べやしないわよ。ホビーは怖がりなのね」
「怖がりなんかじゃないよ」
あかやまどん あかやまどん
大きな大きな あかやまどん
ぼくたちは長老に会いにいくんです
だからここを通してください
ホビーが歌っていると、大きなあかやまどんが急に現れた。といっても、すぐそこにいたのだが、大きすぎて山との違いがわからなかったのだ。あかやまどんがしゃがんで二人を見たので、急に現れたように思ったのだ。
「だれだあ、ちっこいの」
あかやまどんはギョロリとした目をむけてティナとホビーを見た。
「私はティナ。<しずく森>からきたこども妖精よ」
「ぼくはホビー。吟遊詩人さ」
あかやまどんは目をぎらぎらさせた。
「おらぁ、あかやまどんだ。何をしにきたんだ?おらと遊びにきたのかぁ?」
「長老様に会いに行くのよ。ここを通してもらいにきたの」
あかやまどんは手の上にティナをのせて、よく見ようと顔の高さまで持ち上げた。ティナは旅の荷物を背負っていたので、ぐっと両足をつっぱり、顎をひいてあかやまどんの手の上で転びまいとした。
「長老様のとこいくんか?あそこに行くには確かにここを通らなきゃならん。あおやまどんのとこには行ったんか?おらのほうが先か?」
「あら、もちろんあかやまどんに先に会いにきたわ」
「そうがぁ。そりゃ、まちがってないな。よし、通してやろう。そのまえにいっぱいお茶しねぇが?」
あかやまどんはティナを地面に下ろした。
「ええ、ぜひいただくわ」
「おおい、おまえら、お茶だぁ!準備をしろぉ!」
あかやまどんが大声を出すと、こどものあかやまどん達が木々の後ろからたくさん出てきた。ずっと様子をうかがっていたのだ。
お茶だ お茶だ お客様だ
あかやまどんに お客様だ
お茶いれろ いれろ あつあつだ
おいしいショウガ茶をいれるんだ
歌とともに、木のテーブルが用意され、その上においしいあつあつのショウガ茶がならんだ。ティナとホビーの分は小さなコップに、あかやまどんの分は大鍋にいれられた。
「そうだわ、私の焼いたおいしいビスケットをどうぞ」
「そらぁ嬉しいだ」
あかやまどんは尖った爪でちょんとビスケットをつまんで食べた。ホビーはあつあつのショウガ茶は苦手だったのだが、頑張って飲んだ。体がぽかぽか温まり、ほおも赤く血色よくなった。
あかやまどん あかやまどん
おいしいショウガ茶が大好きだ
あかやまどん あかやまどん
お客様がお通りだ
「ごちそうさま!」
お茶を飲み終わったティナとホビーがお礼をいうと、あかやまどんが何かを差し出してきた。
「これもっていくといいだ」
それは赤い木をに文字を書いた木札だった。表には「汝紅き山を通りし者」、裏にはあかやまどんの顔の絵が書いてあった。
「おまもりだぁ」
あかやまどんがにっこりと笑った。長い牙がむき出しになったので、ホビーはびっくりしてティナの後ろに隠れた。
「ありがとう。いってきます」
「気をつけていくだぁよ!」
ティナとホビーはあかやまどん達に見送られながら、左の山を目指して歩き始めた。
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