見出し画像

虹のおと 3.あおやまどん

左の山は静かだった。濃紺の木々がうっそうと茂っていて、さやさやひそひそティナとホビーを見つめていた。斜面はゆるやかなカーブの連続で、なかなか頂上へつきそうになかった。だんだんと日が暮れ始めていた。
 夕暮れはそれはそれは美しいものだった。山の中腹からながめる景色は、<しずく森>や<ふしぎ沼>、それから<たいこ岩の谷>も見えた。やがて夜のベールが幕をおろし、星達がきらきらと演奏を始めた。

 夜だ 夜だ 静かな夜だ
 星のウィンクが聞こえるよ
 闇夜のなかで耳をすませば
 月のなみだがふってくる

 ティナとホビーが景色を楽しんでいると、後ろでがさっと音がした。ふりむくと、そこには悲しそうな目をしたあおやまどんがいた。
「こんばんは」
 ティナが声をかけると、あおやまどんはそろりそろりと静かに近づいてきた。あおやまどんはあかやまどんよりは2まわりも小さかった。とはいっても、ティナとホビーからしたら十分大きく感じられた。あおやまどんは木々と同じ濃紺の肌をしていて、目は悲しげで、物憂げな表情だった。
「夜は美しい。でも眠っちまうとすぐ朝になっちまうんだ。夜の星がおらぁ好きだ」
「そうね。ここの眺めはとても綺麗だわ」
「虹のかけらをもっているんだろう?」
 あおやまどんはティナに尋ねた。
「さっきあかやまどんのやつがでけぇ声出してたからきこえただよ。ここを通って長老様んとこ行きなされ。おらぁ、通してあげるだよ」
「ありがとう、あおやまどん。優しいのね」
「月の涙がふってくるだ」
 あおやまどんが空に手を伸ばした。月からぽたあん、ぽたあんと雫がふってきて、地面に落ちて光ってきえた。そこにホタルバナが咲いた。青白くひかるホタルバナは月のなみだでできていたのだ。
「わあ、すてき!」
「ホタルバナは一晩しか咲かないんだ。おまえら、ラッキーだぁな」

 きらきら 月のなみだ
 花になって咲いてひかるよ
 一晩だけの夢をみて
 月のなみだ 咲いてひかるよ
 美しい夢を みているのかな


 ホビーが歌った。しばらく黙っていたあおやまどんはティナに小瓶をくれた。中には月のなみだが7滴入っていた。

画像1


「これさ、おまえにやるだ。この先は険しくなるだよ。長老様は会う人をお選びなさるからだ。でもきっとおまえは大丈夫だぁよ」
「ありがとう。わかったわ」
 あおやまどんは現れたときと同じく、そろりそろりと静かに去っていった。いつのまにか眠ってしまっていたホビーのとなりで、ティナも花のブランケットにくるまり、いつしか深い眠りにおちていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?