虹のおと 4.いつくしみの里
ふたご山のを越えた先には、<いつくしみの里>があった。<いつくしみの里>はエルフたちが住んでいた。里にはたくさんの花が咲いていて、畑や田んぼが手入れされていた。たくさんの作物や花がいきいきと育つのは、慈しんで育てているからなのだ。エルフは料理が好きで、自分たちで育てた作物でおいしい料理をつくっては、客人に喜んで振舞ってくれるのだった。
里についたティナとホビーは、里の長に会いにいった。
「ようこそ<いつくしみの里>へ」
里の長ボンズは、齢4000歳のエルフで、炎の使い手だった。がっしりとした腕には、炎と太陽のマークが刻まれている。それは強い戦士の証だ。その瞳には強い意志と深い愛情とが宿っていた。長いあごひげは3本に結わいていた。
「こんにちは。私はティナです。こちらはホビー。わたしたち、虹のかけらを拾ったので、長老様にどうしたらいいのか会いにきたんです。長老様のところまで、道案内を頼みたいんですけど、いいでしょうか」
「よろしい、うちの里から一人道案内を出しましょう。あなたたちのいつくしみの心はすばらしい。これからも大切にしてください」
「ありがとうございます」
「リュー、こちらへ」
「はい」
リューと呼ばれたエルフは若い男のエルフだった。腕のマークは木の葉と音符を象っていた。癒しの力を扱う能力のしるしだ。
「話のとおりだ。リュー、おまえが案内しなさい。ティナ、ホビー、決して長老様に敵意を向けてはならない。汚れた心で接してはならない。素直でいなさい。長老様にはすべてお見通しだ。わかったね?」
「はい、わかりました」
「とりあえず食事を食べてから行きなさい。うちの里の食事は美味だからな。はっはっは!」
「いただきます」
ボンズの言った通り、出された食事はとてもおいしかった。魚の塩焼きに、根菜を炊き込んだご飯、釜焼のパン、野菜たっぷりのシチュー、燻製肉、芋の煮っ転がし、甘酸っぱいリンゴのコンポート、野いちごの砂糖漬け、香りの良いハーブティー、薬草酒に果実酒…。里のみんなはリューとティナとホビーの旅立ちを祝って、宴は夜まで続いた。ホビーが歌を歌い、ティナはそれに合わせて舞を踊った。宴が終わると、安らかなひととぎだった。寝床を貸してもらい、ティナとホビーは羽毛に包まれて眠った。リューは里の長ボンズに呼び出されていた。
「いいか、リューよ。いざというときが来たらこれを使うのだ。これは魔除けの黒水晶だ。盾となりそなたを守ろであろう。長老様は長いこと<閉ざされて>おられる。その封印を解こうというのだから、何があってもおかしくはない。私たちエルフは、遠くまでみる目、小さい音も聞き逃さない耳を与えられた種族だ。だからこそ、近くにいる者や大きな音を逃してはならん。注意深く注意深く進むのだ。わかったね」
「はい、長。わかりました。気をつけます。お守り有難うございます」
「健闘を祈る」
「はい」
まだ朝早く、日が昇りはじめたころ、ティナとホビーとリューは<いつくしみの里>から旅立った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?