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絶食系男子とアセクシュアル

他者に性的な惹かれを抱かないアセクシュアル(アセクシャル)と絶食系男子。これらには、とくに繋がりがないような感じで語られている。なぜなら、絶食系に恋愛させれば、両想いになれるような言説が多くて嫌になるからだ。たとえば、Googleで「絶食系男子」と検索すれば、おそらく検索結果に恋愛コラムがズラーっと並ぶ状態になるだろう。そのような恋愛コラムには、絶食系男子に再び恋愛に興味持って振り向かせる方法が書かれており、「絶食系男子といっても、現時点で興味ないだけでやっぱり恋愛するのか…。」と感じるような言説もある。それなら、アセクシュアルと似たもの同士にされたくない。だから、絶食系とアセクシュアルは繋がりのない感じになってしまっているのだと思う。

だがしかし、色々と調べていくと、絶食系男子とアセクシュアルを繋げて語らなくてはならないある人物がいることに気づく。そう、その人物とはモデルのこんどうようぢだ。

こんどうようぢを知らない方に説明すると、原宿系読者モデル・ジェンダーレス男子の代表格として活躍。1992年生まれ。2015年頃から、こんどうようぢは「恋愛にセックスはいらない」などの発言により、アセクシュアルのような自身の恋愛観が注目されるようになる。以降、恋愛や性に「絶食系男子」としてメディアに呼ばれるようになっていった。

ならば今回は少し過去に遡って、2015年から2018年のあいだで、恋愛や性について語る「絶食系男子」のこんどうようぢの言説と過去のアセクシュアルの関係性について語っていこうと思う。


ノンセク男子のインタビュー

ある日、アセクシュアルについて色々と調べていたら、モデルのこんどうようぢへのインタビュー記事が検索に引っかかった。タイトルに「ノンセク男子の本音」と書かれた2018年頃のインタビュー。そこには、こう書かれていた。

「そのくらい[引用者注: 高校生]の年齢って、みんながセックスに興味を持ちはじめて、男同士でそういう動画を見たりするじゃないですか。そこで性行為を綺麗なものとして認識できなかったんです。ましてやそれが最大の愛情表現だとも思えなかった、僕は」

[★1]

「僕が抱く『好き』は、プレゼントを贈り合って、ハグして、一緒にいたいと思うこと。そういうのじゃダメなのか。きっと女性は『セックスしないなんて私のこと好きじゃないんでしょ』とか思うんだろうな。でも、そういうことじゃないんです」

「僕の恋愛にセックスはいらない。『ノンセク男子』の本音」
マイナビウーマン、2018年12月26日、
https://woman.mynavi.jp/article/181226-2/

私がこのインタビュー記事を知ったのは、今年2022年になってからだった。そういえば、たしか前にもこんどうようぢは恋愛についてどこかで語っていたような気がする。ほんの僅かな記憶を頼りにインターネットで調べていくと、こんどうようぢがアセクシュアルやノンセクシャルという言葉を使わずに、テレビやラジオなどの様々なメディアで自身の恋愛観を語っていた記事がたくさん見つかった。

そうしてもっとインターネットの記事を調べていく。すると、2015年あたりからこんどうようぢが「絶食系男子」として、自身の恋愛観を語り出したことが記事でわかった。


2015〜2016年、絶食系男子

なら、時代を遡ることにしよう。2015年はアセクシュアルという言葉がメディアなどで話題になることが滅多にない時代だった。アセクシュアルのメディア取材などを受けるNPO団体にじいろ学校も、2016年に設立される。

そのような時代でこんどうようぢは、2015年にあるテレビ番組でアセクシュアルやノンセクシャルという言葉を使わずに自身の恋愛観を語る[★2]。それが話題となり、以後こんどうようぢがメディアで「絶食系男子」として恋愛や性について語っている様子を伝える記事が増えていく。

だが、正直なところ、この頃のこんどうようぢの恋愛観に対してのメディアでの反応はあまりよくないものだった。

たとえば、2016年のある記事では少子化とセックスレスについてディベートするAbemaの番組にこんどうようぢが出演していた様子が書かれていた。それによると「セックスがないと愛がないというのが不思議。結婚してからセックスして子供を産みたい」とこんどうようぢが言う。すると、番組MCが「人としては真面目だけど、動物としては不真面目」と評したということが記事に書かれていた[★3]。そして時には、こんどうようぢが出演したバラエティー番組の様子を伝える記事のタイトルの一部に「同居生活開始 全裸、タオル一枚…“肉食マナミ”が迫る『いつ童貞を捨てるの?』」と書かれたものまであった[★4]。

この頃の記事に恋愛至上主義的なものを強く感じるのは、まだアセクシュアルなどが広まる前の時代だからというのもあると思う。おそらく、今の時代でこれをそのままやるとSNSですぐ炎上になるだろう。けれども、この時代はまだ「恋愛で相手とのセックスはいらない」恋愛観なんて語ると幼稚なものとか不真面目とか馬鹿にされるのが普通だった。そういう時代だった。


2018年、変化の訪れ

だがしかし、2018年辺りから様子が変わり始める。こんどうようぢがいつもと同じように恋愛について語っていても笑いのネタとして消費せず、しっかりと話を聞いているように見える記事が多くなる。

「『もっとたくさん恋愛したほうがいいよ』とアドバイスをもらうこともあったけど、他人と比べて自分を変えようとは思わなかったですね。だって、僕の価値観では経験がないこと=恥ずかしいこと、ではないんです。ましてやいっぱいヤッてるのがカッコいいという価値観でもない。童貞ってそういう基準で捨てるもんでもないしね」

「僕の恋愛にセックスはいらない。『ノンセク男子』の本音」
マイナビウーマン、2018年12月26日、
https://woman.mynavi.jp/article/181226-2/

以前なら、このような語りをしてもまともに相手されなかった記事ばかりだった。いや、もしかしたら、本人が仕事を選ぶようになったのかもしれない。それも十分あり得る。けれども、こんどうようぢについて触れる記事でアセクシュアルやノンセクシャルなどの言葉が出てくるのは、この2018年からなのだ。

そして、先ほども引用したノンセク男子のインタビュー記事も2018年に公開されている。そして、翌年2019年にはAbemaでアセクシュアルについて特集を組んだ番組にも出演していたと書いてある記事もある[★5]。また、アセクシュアルの当事者などに対してのメディア取材も2018年から増えていく。こんどうようぢへの対応の変化、アセクシュアルの当事者などに対してのメディア取材の増加。これには、何かあったに違いない。少し考えてみよう。


そうして、アセクシュアルが注目されるようになる

2018年。平成最後の年。いったい2018年に何が起きたのか。これはあくまでも私の推測だが、2015年から2018年の間にLGBTの認識度が上がったことで、LGBTに関心を持つ層が増えた結果、アセクシュアルを知ってもらう機会が多くなったのかもしれない。少なくとも、私はそう考えている。

では、もっと具体的に語ってみよう。「LGBT」という言葉の浸透率に関しての電通が行ったLGBT調査2018によると、2018年の調査では68.5%となり、2015年での調査の37.6%から30.9ポイントと大幅に上昇した[★6]。2015年から2018年の間で、人びとのLGBTへの認識度が大幅に上がったと言っていいだろう。

また、私が調べた限りだと2017年まではアセクシュアルの大手メディアでのインターネット記事の本数は片手で数えられるほどだったが、2018年になってから2倍以上増えている。そして、2018年には立憲民主党の市議会議員がアセクシュアルだとカミングアウトしている。やはりここでも、2018年という年はアセクシュアルが注目されるようになった年に見える。

さて、これまでに述べたことを整理しよう。2015年から2018年の間にLGBTの認識度が上がったことで関心を持つ層が増える。そして、メディアが徐々にアセクシュアルを注目するようになる。そうして、アセクシュアルを知ってもらう機会が多くなる。2018年からのこんどうようぢへの対応の変化、アセクシュアルの当事者などへのメディア取材の増加。その変化が目に見える形に起きたのが2018年だと私は考えている。


絶食系男子とアセクシュアルの関係性

過去のアセクシュアルとこんどうようぢ、絶食系男子。絶食系男子と検索すると、恋愛コラムで絶食系男子を振り向かせる方法などが書かれているせいか、距離をとって語ろうとしてしまう。しかし、いざこうやって繋げて語ってみると、面白いことが分かったりする。

しかし、今のアセクシュアルはどうしても突然変異で出てきたかのように見えてしまう。その理由はアセクシュアルに歴史がないからではなく、過去に繋がる物語が見えないからだ。それらの破片はあっても繋げるようとする語りなどがなければ、破片は破片のままだ。

こんどうようぢはアセクシュアルなどの言葉を使わないで、自身の恋愛観をブレずに語り続けた。時にはバカにされても、めげずに貫き通した。絶食系男子として語り続けたこんどうようぢの活動は、過去のアセクシュアルを考える際に大切なことのように感じる。そして、アセクシュアルが世間に広まりやすくする土壌を作ったひとつとして捉えてもいいのではないだろうか。

アセクシュアルが広まる前から、草食系や絶食系などの恋愛に消極的な傾向がある人たちを表す言葉があった。けれど、アセクシュアルはしばし草食系や絶食系と混同されるため、どうしてもそれらと距離を置いてしまうところがある。でも、アセクシュアルの歴史について考えていく上で、草食系や絶食系などの恋愛に消極的な、恋愛至上主義において恋愛弱者な言葉と向き合う必要があると前から思っていた。それらとアセクシュアルがどう関係しているのか。どこかしらで繋がりがありそうだ。漠然と思っていたそんなとき、こんどうようぢのインタビュー記事と出会った。

今回、絶食系男子と過去のアセクシュアルで語った理由は、これらを繋げて言葉にする必要性を感じたからだ。このまま、何もしないのはよくない。埋もれたままになってしまう。そう思って、書くことにした。もし叶うならば、この記事がキッカケとなって未来のアセクシュアルに繋げられればいいなと願っている。



【注釈】

★1  「僕の恋愛にセックスはいらない。『ノンセク男子』の本音」、マイナビウーマン、2018年12月26日
https://woman.mynavi.jp/article/181226-2/

★2 「こんどうようぢの“絶食”な恋愛事情 中居正広も驚愕『いつも嘘って言われる』」、モデルプレス、2015年11月12日
https://mdpr.jp/news/detail/1541794

★3 「ジェンダーレス男子が“若者の性離れ”を語る『童貞が恥ずかしいと思わない』」、Abema Times、2016年9月27日
https://times.abema.tv/articles/-/1362348

★4 「橋本マナミ×こんどうようぢ、同居生活開始 全裸、タオル一枚…“肉食マナミ”が迫る『いつ童貞を捨てるの?』」、モデルプレス、2016年6月14日
https://mdpr.jp/news/detail/1591528

★5 「恋愛感情や性的欲求が無い…なかなか理解が進まないセクシュアルマイノリティ『アセクシャル』とは」、Abema Times、2019年3月4日
https://times.abema.tv/articles/-/5810292

★6 「電通ダイバーシティ・ラボが『LGBT調査2018』を実施」、電通、2019年1月10日
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2019/0110-009728.html



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