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時間内に災害が起きた地下都市からドローンで1名救助しろ『アリアドネの声』読書感想

まさにミッションインポッシブル

突然ですが問題です。
公共施設・ショッピングセンターなど人の生活の営みに不可欠な施設から、工場・企業など経済的な営みをしている施設がすべて地下に収容されている未来的な地下都市で巨大地震が発生しました。

施設内は壊滅、地下下層部は洪水、上層部は大火事になったものの、地下で生活しているほどんどの人は地上に避難できました。しかし、たった1人地下に逃げ遅れ、取り残されてしまいました。
残された1人を何としてでも救助しなければいけませんが、施設の倒壊や火事・大洪水と人が立ち入る事が危険な状況で唯一救助に使えるのはカメラやセンサーなど付けられた災害捜索用ドローンです。

あなたはそのドローンを操作して地下にいるどこにいるかも分からないたった1人の逃げ遅れた人を見つけて救出できますか?
また、遭難者は『見えない・聞こえない・話せない』の障害を持った方とする。

まさにこの小説『アリアドネの声』はドローンの製作から操作講習まで行うベンチャー企業に勤めている主人公ハルオがドローンを操作して地震が起きた地下都市から1人の遭難者を救出する話です。
もうこの設定からすでに面白いです。

倒壊してあちこちから物が落ちる可能性が高い場所、火事が起きている場所、洪水が起きている場所など潜入する先には様々な難関が立ち塞がり、まさに攻略不可能の地下迷宮と化した場所で3つの障害を持った女性を救助します。

ハルオが操作するドローンは様々な災難に襲われ、救助するために不可欠な機能を失いながらも大切にしている「無理だと思ったら、そこが限界」という亡くした兄の言葉を信じて諦めずに救助に取り組みます。
めちゃくちゃ手に汗握る展開が多く、一気読みしてしまいました。

昨年読んで歴代でも私が読んだ本の中でお気に入りの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』のようなインポッシブルなミッションを達成しようとする作品系統で今年の小説ベストに入りそうです。

こちらもめちゃくちゃおすすめです。SF小説で専門用語も多いですが凄く読みやすいです。

主人公ハルオの過去

主人公のハルオは過去に兄と海へ釣りに出かけ、そこで兄は足を滑らせて深い海になっている大きな穴に落ちたために溺死してしまいました。
ハルオは近くにいたものの兄が危険な目にあっていることに気づけず、気づいた時にはもう亡くなっていたことを自分の罪だと感じ、その贖罪の意味もあり災害用ドローンなどを開発する企業に就職します。

実際に大災害が起きてしまい、救えるのは社内で一番ドローンの扱いが上手なハルオに任されるというトラウマを乗り越える過程を丁寧に描いた物語でもあり、話題にもなっている『ゴジラ-1』に通じる話にもなっています。

しかも、彼は地下にいる遭難者を救うというミッションに最大限集中したいところですが高校の同級生と再会して、その妹さんが災害の混乱もあり地上で迷子になってしまったという問題も抱えており、はやく地下にいる遭難者を救出して、妹さんを捜索しなければならないというダブルタスクを抱えています。また、この妹さんも話すことが出来ない発声障害を抱えています。
妹さんが迷子になる問題は物語で必要なのかなと思いましたが、しっかりとそれが本筋と交差して最後もの凄い展開になります。

地下で遭難している中川博美さん

地下都市で遭難している女性は中川博美さんという紹介した通り『見えない・聞こえない・話せない(会話できないものの話すことは可能)』という3つの障害を持っています。

舞台となる地下都市は年齢や障害の有無にかかわらずすべての人が利用可能であるユニバーサルデザインをコンセプトに開発されており、市長の姪でもある博美さんが参加者代表として選ばれています。

主人公1人視点で話が進みますが、彼女もただ救出を待っているだけではなくどうにか糸口を探そうとしており、この物語のもう一人の主人公とも言えます。

YouTubeで普段の生活を見せたり、参加者代表としてウィットな会話で地下都市開発の講演では盛り上げる明るい性格です。
この物語はユニバーサルデザインを取り上げていることもあり、障害がハンデという描かれ方をしていません。
障害を持つ人が遭難者だから普通の人を救出するよりもハンデがあると吸湿チームは思いますが、健常者は周りの情報をすべて取り入れられるあまり、未知数や多寡の情報には出来ずパニックに陥ってしまうけど、耳と目が不自由な博美さんは冷静に現状を把握して、駄目な時は大人しくじっと待っていたり、待っている中でも自分が出来ることをしているという描かれ方をして災害に遭った際のメンタルの持ち方として勉強になりました。

あまりに冷静な博美さんは地上にいるハルオなどの救出サイドからは『障害があるのはそもそも嘘なんじゃないか』というミステリー要素もあります。
この本の作者は井上真偽さんという『その可能性はすでに考えた』や『探偵が早すぎる』などの特殊ミステリー系の作品を生み出しているため気が抜けません。

様々な障害を乗り越えて救出する過程が熱い

この作品は救出までに災害を乗り越えていく障害と、災害が起きた際障害のある人に対してどうコンタクトを取って安全へと導くかという2つの障害がテーマになっています。
あまり話しすぎるとネタバレになってしまいますが、ドローンで博美さんを見つけた時、普通ならドローンに取り付けられているスピーカーやマイクからコンタクトを取れば救出する方法を伝えられますが、障害のある博美さんにはそれはできません。
そこで救出チームがとった作戦はドローンに博美さんをいつも介助している人の使っている香水を持たせて、それをドローンが操作して博美さんを見つけたら噴射することで助けがきたという合図を送ります。
そして、詳しい内容は点字で記されたメモで最低限の連絡を取るというものです。
そうやって救出チームが目まぐるしく変わる現場を臨機応変に対応していくのがこの作品の面白い所です。

『アリアドネの声』まとめ

主人公視点で地下都市にいる遭難者をドローンを操作して救出するというのはなかなか文章からではイメージしにくい設定だと思って読みましたが、ドローンが潜入する先で待ち受ける火事や洪水などの試練をハルオがモニター越しからドローンを操作して救出するという表現で描かれているため臨場感がもの凄く伝わります。

また、兄から言われた「無理だと思ったら、そこが限界」という言葉を作中何度も繰り返すハルオはその言葉がポリシーにも呪いにもなっていますが、その言葉の別の意味を博美さんから与えられ、博美さんを救っているハルオが彼女に救われているような結末にもなっており、話としてすごく面白かったです!
是非おすすめです。

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