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今年最高のボーイミーツガール作品『アリスとテレスのまぼろし工場』映画感想

9月15日(金)この日は『グランツーリスモ』『ミステリと言う勿かれ』『名探偵ポアロベネチアの亡霊』など見たい映画が沢山あったんですよ、本当に。
ですが私はその劇強ラインナップの中から選んでしまった『アリスとテレスのまぼろし工場』を。
この映画なんとなくの直感ですが、めちゃくちゃ面白いかめちゃくちゃつまらないの二択だと感じていまして、初日でこの映画から逃げたらもう人生で見ることはないだろうと思いチケットを購入。

めちゃくちゃ面白かったです!
セカイ系SF×ボーイミーツガールのジャンルで大好物。ありがとうございます!

夢や恋、様々な悩みを抱きながら成長していく少年少女の物語に自由奔放にかき回す謎の少女の秘密、その少女が発端となり話が展開され主人公が選択することになる町の存亡か破滅、そしてセカイ系SFらしい余韻の残るカタルシス。

個人的には今年最高のボーイミーツガール作品(そもそも今年オリジナルアニメ映画あんまり見ていないですが)とても楽しめました、おすすめです。

しかし、つまらないと思う人がいるだろうなと感じています。
実際、劇場の反応を見てみるとお客さんあんまりいい顔をしていないしその後映画のレビューサイトを見てみると盛り上がっている感じはない。

私自身「賛否両論あるかもしれないけど、私は好き(又は嫌い)」という感想は自分の意見に自信がなく保険をかけているような印象であまり好きではありませんがそういう感想を言わざるを得ない映画です。

なので今回は、私がこの映画の好きな所と感想を話しながら、どうして評価が割れている映画なのかを説明したいと思います。

ちなみにこの映画を製作した監督は数々のアニメ作品を手掛けた岡田磨里さんという作品の個性が強い監督で、この監督の個性あってこその『アリスとテレスのまぼろし工場』になっていますが、その話をすると面倒なことになるので今回は触れません。
逃げます。

菊入正宗14歳。彼は仲間達と、その日もいつものように過ごしていた。すると窓から見える製鉄所が突然爆発し、空にひび割れができ、しばらくすると何事もなかったように元に戻った。しかし、元通りではなかった。この町から外に出る道は全て塞がれ、さらに時までも止まり、永遠の冬に閉じ込められてしまったのだった。

 アリスとテレスのまぼろし工場HPのstoryより https://maboroshi.movie/

つまり正宗たちが住む町(見伏市)がそれ以外の世界から断絶されてしまっている状況です。
なので正宗が住む見伏の住民はいつ外の世界との繋がりが再開して時が動き出してもいいようになるべく同じ状態の自分を保っている必要があり、自分の意志や思考が変わることが許されないのです。

時が止まっているため見た目の変化はなく、体が成長することはないですが精神的な時間の流れを感じているため子どもの体でも精神年齢が進み、正宗は14歳という設定だというものの、実年齢は20~23歳くらいになっています。つまり町の時が止まってから5~8年くらいは経過していると考察しています。

もし自分の内面が変わってしまった場合はこの見伏にある工場から出ている狼のカタチをした煙に喰われてしまい、存在が消えてしまいます。
内面が変化してしまうと時が止まっている世界の町と齟齬が生じてしまい排除される、そうならないために正宗たちは自分確認票という日記みたいなものを書き、常に自分の心情に変化はないかを記録しながらなるべく平穏な心を持ちながらしかし、同時に退屈な日常に刺激を求めている生活を送っています。

自分確認票を書いて自分がアップデートされないようにしたり、外的要因としてのケムリに食べられる恐怖が蝕んでいても、精神的な年齢が進んでいるということは心の成長は止められない、夢を持ったりそれが変わったり、家族に対しての思いが変わったり、好きな人ができたり、この映画は少年少女の心の成長とそれに伴う痛みを時が止まって変わることが許されない見伏の町の存亡とリンクさせてセカイ系に落とし込んだ作品になっています。

見伏市の住民は時が止まった町で心の衝動を抑えながら生活していますが正宗が同級生と刺激を求めて肝試しをしていた時、同級生がケムリに喰われたことがトリガーとなり、見伏市の偉い人が隠してきた町の秘密が明らかになり、平穏に暮らしていた住民に葛藤が生まれ衝動が抑えられなくなりその結果ケムリに喰われる住民が増え、主人公正宗もそれを機に将来や恋などに向き合っていきます。

分かりやすく伝えられたかどうかは分かりませんが、ストーリーをまとめるとこんな感じでストーリー自体はそこまで複雑ではありません。

しかし、この映画はケムリとは一体何なのか、何故見伏市は外の世界と断絶しているのか、その中で生活している住民にいずれ待ち受けているのものはなど直接的には説明されず、観客が1つ1つ理解をしながら観なければなりません。
そのため、表面的に描かれる物語の展開とキャラクターの心情がどんどん加速し、さらに描写されるキャラクターの数が増えていくためミドルバックで描かれている世界観の状況処理が追いつかなくなるため観客が置いて行かれているような印象を受けました。
これが評価されていない理由かと思います。

こういった要素にこの映画のキーマンである正宗が気になっている少女によく似た野性的な謎の少女(いつみ)が物語を掻きまわしていくためこれがまた厄介。
いつみは町の秘密とリンクしているのはもちろんなんですが、正宗やヒロインの睦実との関係、そしていつみ自身の成長や葛藤も描かれているのでその辺も理解していかなくてはなりません。

ここまで読んで、話を理解できる人は面白いと感じて理解できない人はつまらないと感じると伝えたいのかと思われてしまうかもしれませんが、そうではありません。

上映中はついていけないこともあるかと思いますが、終わった後に考えれば十分に理解できます。

それと、製作者側にはもう少しとっつきやすいとっかかりを用意して欲しいなと思っています。

個人的に思ったのが予告とポスターがなんか暗くて重そうでめんどくさそうな話だなと思ってしまうような広告宣伝なため、なかなかとっつきにくい映画の印象になっていると感じます。

工場がある世界観のため『えんとつ町のプペル』の続編なのかな?と思っちゃったり予告で話しているキャラの意味不明な言動で身構えて観賞していました。
ちょっと見るのに体力いりそうなだと思っている方に伝えたいのですが、もっともっとフランクな気持ちで観賞しても全然大丈夫な映画です!

また、この映画の主題歌が中島みゆきさんが歌っていることについて述べたいことがあります。
エンディングで聴いた時は物語とリンクした歌詞が素晴らしく重厚で繊細な音楽が余韻に浸れましたが、まだ見ていない人にとってはただ重いと捉えられてしまいかねないのかなと感じます。

もちろん製作者側には映画の世界観に合う歌手をという意図があり中島みゆきさんを起用したのだとは思いますが最近のアニメミュージックアーティストを起用して興味を持ってもらっても良かったのではないかと……。

映画の内容的には冒頭で述べた通り、セカイ系のボーイミーツガール作品で最近の作品だと新海誠監督作品の『天気の子』に似ている感じがしました。
余談ですが、新海誠さんもこの映画を観て絶賛しているらしいので作風は似ているんだと思います。

映画のラストは特に良く、大好きです。
正宗たちがそうすべきだと思って行動する事に賛成する人、それに反対する大人達やクラスメイトとの対立がありながらも、最終的には理解し合い物語が収束していくシーンは映像も凄まじく、まさしく物語のスペクタクルなクライマックスであり、キャラの心情が最骨頂になっているため物語自体の盛り上がりとキャラ心情の起伏度がシンクロして私の興奮度もMAXになり鑑賞後は気持ちのいいカタルシスが生まれていました。

序盤は世界観がまだ不透明でその中で生きているキャラが痛いくらいの心情を見せてきて、とてもちぐはぐで気持ち悪いとも思ってしまいましたが、話が進むうちに、そのキャラクターが不安定になっている理由が分かりその痛さも分かってあげたいと思えるようになりました。

それと最後にこの映画の魅力として2つスポットを当てます。
まずは、この映画の音楽です、作曲はアニメやドラマ音楽を数多く生み出している横山克さんが担当しています。
最近お気に入りのドラマ『最愛』や『ネメシス』の音楽担当をしていてドラマの内容と同等に横山さんが作る音楽を気に入っていましたので私はオープニングで彼の名前が出た時、期待値が上昇しました。
話を理解する処理が大変だとは思いますが、その辺も是非注目してみてください。

もう1つはヒロイン佐上睦実ちゃんについてです。

ストーリー序盤、地味系清楚美少女とクラスメイトに定評がある睦実ちゃんが、何に対しても興味がないと無味乾燥している主人公正宗だけにスカートを捲ってパンツを見せて赤面させると、逃げて自分自身を追いかけさせます。
そして、「退屈根こそぎ吹き飛んでいっちゃいそうなの、見せてあげる」と意味深な発言をして正宗を非日常へと誘います。
ミステリアスで小悪魔的な姿にすっかり私は鷲掴みにされました。

しかも! なんといっても、そのミステリアス小悪魔系美少女である睦実の声優が上田麗奈様、このキャスティングとんでもない、分からない人にも分かるように説明すると、鬼に金棒、カツにカレー、マーティンスコセッシにロバートデニーロくらいの組み合わせです。

以上が私の『アリスとテレスのまぼろし工場』映画感想でした。

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