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オーストラリアの特別支援教育 

オーストラリアでは障がいのある生徒の多くが通常の学校に通ってます。ですから学校で障がいのある生徒をよく目にします。日本でそういう場面を見ることの少ない私の目には最初とても新鮮に映りました。そもそもオーストラリアでは特別支援学校(special school)の数が少く、全国に400校ほどしかありません。インクルージョンを推し進める国の方針なのでしょうが、日本とはずいぶん違います。

かつてオーストラリアでは障がいのある子どもは教育の対象とされていませんでした。連邦が成立する1900年代初めのころまでは福祉の対象とされ、民間の慈善団体やボランティアが設立した学校に行くことはあっても、一般の学校に通うことはほとんどありませんでした。

障がい児のために初めて学校が作られたのは1860年代で、視覚や聴覚の障がいが対象でした。1920年代頃になると他の障がいを抱える子どもたちの学校も作られます。さらに1970年頃からは通常学校の中にも特別支援ユニットが設置され障がい児教育(special education)への取り組みが本格的に始まります。そして近年はインクルーシブ教育が推進されています。

障がいのある生徒の教育は Disability Discrimination Act 1992 (DDA) と Disability Standard for Education 2005が法的根拠となっています。 前者では障がいによる差別を禁止しており、後者では障がいに起因する教育的ニーズに適切に対応することが求められており、障害のある児童生 徒の学習参加を可能とするために、教育者・児童生徒・ 保護者・その他の関係者(医療専門家など)が協力する ことが義務付けられています。そうした中でインクルーシブ教育は特別支援学校を維持しつつ、通常学校で通常の教育にできるだけ近づけることが基本 となっています。

特別支援学校に行くか通常学校に行くか保護者や専門家、学校と相談して決めます。通常の学校を希望する生徒もたくさんいますが、特別支援学校に通う方がよい場合も少なくありません。でも数が少ないので当然入れない生徒もいます。
それゆえ入学のための審査が行われます。審査は、保護者が学校長に入学希望を申し出る→学校関係者と保護者の相談・協議を行う→基準に則って審査する→ニーズを把握する→入学の可否を判断するという流れで行われます。

障がいのある生徒に対して学校は個別プログラムを実施しています。これは障がいのある生徒が一般の生徒と同じように教育を受け、学習に参加できるよう支援する ために講じる措置のことで、教育環境(車椅子用スロープなど)、教室内の活動、さらに個々の生徒への支援などが行われます。クイーンズランド州では教育調整プログラム( Education Adjustment Program)という個別プログラムが実施されていて、自閉症 (Autism Spectrum Disorder)、聴覚障がい(Hearing Impairment)、 知的障害(Intellectual Disability)、身体障がい(Physical Impairment)、言語障がい(Speech-Language Impairment)、視覚障がい(Vision Impairment)がその対象とされています。

障がいの内容や程度によって生徒のできること、困難なこと、支援を必要とすることなどはそれぞれに異なります。ニーズも多様です。それゆえ個に応じた対応が必要なのです。
サポートを受けるための流れの一例が以下に示されています

サポートを受けるための手順

1. まず、生徒に関する重要な知識と理解を持っているチームが作られます。チームは、両親/介護者、教師、及び生徒の生活の中で重要な個人、そして生徒自身です。

2. 情報収集。生徒のヒストリーを両親/介護者から聞き取り、医療やその他の専門家からレポートや障がいに関する情報を集めます。

3. 次はチームのメンバーが生徒の長期的な目標についてオープンに話し合います。収集した情報を分析し、生徒の個別のニーズを満たすために必要な調整、またはサポートについて相互理解を深め、継続的に支援できるようにします。

4. 共同ディスカッションで得られた合意を文書化し、必要なトレーニングや機器などのリソースを特定しサポートをプラン通りに実行します。

5. プランの観察とレビューのためのプロセスの時間を作り、調整とサポートが有効に働いているか、プランが生徒のニーズを満たしているかどうかを評価するために、チームで継続的に協議したり、データを使用したりして、進捗状況を学校に通知します。

https://nichigopress.jp/topics-item/60265/


インクルーシブ教育が推進されているので通常の学校も障がいのある生徒が生活しやすいような手立てを講じなければなりません。生徒が学校に合わせるのではなく、学校が生徒に合わせるのがインクルーシブ教育の基本です。校内を見ると車いす用のスロープやトイレなど手立てがあちこちに講じられているのがわかります。

特別支援ユニット(名称は学校によって異なります)が設置されている学校も多いです。日本の特別支援学級のようですが、障がいのある生徒は基本的に通常クラスに在籍し、必要に応じてユニットの支援を得るのが基本です。通常クラスで十分な支援が行えない場合は特別支援ユニットで授業を受けることもあります。すなわち、特別支援ユニットに在籍するのではなく、通常のクラスに在籍して通常の授業を受けることが基本です。

特別支援ユニットは、心身に障がいが認定されている生徒だけでなく、医療面や精神面の問題を抱えている生徒、トラウマを抱えている生徒、先住民族の生徒、社会経済的に困難を抱える生徒、授業についていけない生徒などの支援も行っています。生徒の困難は障がいだけでなく様々な要素が複合化しているからです。それゆえ、通常クラスから隔絶した「特殊な」クラスという印象はほとんどありません。日本の特別支援学級に対する印象とずいぶん違うように感じます。

 
ある学校の特別支援ユニット(サポートセンター)


 
 参考:障がいのある生徒の教育の概要(ニューサウスウェールズ州)


特別支援学校の様子↓ 

通常学校でのインクルーシブ教育の様子↓



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