【小説】オンステージ~第4章「分かれ道」~
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※この物語はフィクションです。
第4章 「分かれ道」
『【新着/未経験OK!人気の大学事務!小規模のアットホームな職場です】』
2月末に内定を貰った直後に、このような件名の派遣紹介メールが届いた。しかも直接雇用を前提とした紹介予定派遣だ。時給は1500円を超えている。
「派遣かあ・・・」
どんなに条件が良く希望している仕事だとしても、過去の経験から派遣という雇用形態に躊躇してしまう。しかも人気の大学職員だ。きっと派遣だとしても高い倍率を乗り越えなければいけないし、入職してもそうした厳しい選考を乗り越えた職員たちが働いているのだから求められるレベルも高いに違いない。今自分は4月から正社員の切符を手にしている。これを捨ててまで、派遣として大学職員になるべきか・・・
「それでは10時に〇〇〇駅前待ち合わせでお願いします。」
結局、俺はこの求人に応募した。というのも仮に派遣の方も内定を貰えたら、条件や職場の雰囲気等を比較して決めればいい、そう思ったからだ。事前に先ほど電話していた俺の派遣担当者と今までの経歴やプロフィールについて電話で面談し、履歴書等を作成してもらった。そして、面接のポイントなどをアドバイスしてもらい、後日面接という流れになった。ここまで応募から約1週間と、かなりスムーズ過ぎる。
面接当日。大学の最寄り駅で派遣担当者と待ち合わせた。今まで電話でしか話していなかった担当者と初めて顔を合わせた。歳は俺と同じくらいの爽やかな青年だった。同じくらいの歳なのに、俺は少し情けなくなった。それでも、この後の面接の事を考えるとそんな私情はすぐ忘れて緊張が身体を支配していった。果たしてこんな派遣でなんのスキルも持ち合わせていないコミュ障を採ってくれるのか・・・
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。」
担当は緊張した俺を見て、察したように優しい声を掛けてくれた。こいつ、爽やかなだけじゃなくて気配りもしっかりできる。きっと仕事がとてもできるんだろうな。
「この学校の方たちはみんな優しくていい人ばかりですよ。きっと働きやすいでしょう。働いている人の年齢や男女比から若い男性が欲しいようなので、ほんと条件にぴったりですよ。」
そう言われると少し前向きになれた。そんな話をしながら歩いていたら、大学の前まで来た。面接では担当者も同席してくれるみたいだが、果たしてうまくいくだろうか・・・
「面談、お疲れ様でした。きっと大丈夫ですよ。この後私は大学の方と話してから帰りますので、今日はここで。」
約20分の面談は案外あっさりしていた。面接官は4名、みんな年上のおじさんやおばさんだ。質問内容も基本的な自己紹介から経歴、どうして大学職員になりたいのか、といったものしか聞かれなかったので、なんだか肩透かしをくらったような気持だった。これが本当に高倍率の大学職員の面接だったのだろうか。そういえば、大学と言っていたがここは短期大学だった。初めて聞いた名前だし、そもそも短大なんて俺が受験の時には全く選択肢に無かったから、正直色々とイメージと違った部分があった。
派遣担当者と学校で分かれてから一人で駅まで向かっていった。そういえば一つ気掛かりな点があった。というのも既に他社から内定を貰っているため、合否の結果をかなり急かしてしまったことだ。これが原因で落とされなければいいが・・・
「おめでとうございます。内定です。ただし、一度学長と面談する必要があるので、また近日中に大学に来れますか?」
翌日、派遣担当者から電話があった。簡単に内定が取れてしまった。マジか。ここから急いで持っている内定2つを比較して決めなくては。と思いながらも、俺の心の底では既に決まっていた。
「お世話になります、先日新卒採用で内定を頂いた・・・」
4月になった。俺は桜の咲き誇るキャンパス内を歩いていた。
「おはようございます!本日からお世話になります。大学職員は初めてですので分からないことだらけですが、これからどうぞ宜しくお願い致します!」
続く
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