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【小説】オンステージ~第1章「優秀って何?」~

いきなりですが、創作の小説を書いてみようと思いまして。果たして自分のフォロワーにニーズがあるか分かりませんし、続くかどうかわかりませんが、やってみようと思います。一応若者のキャリアとかそういう類の内容になっていますので、よろしければぜひご覧ください。
それではどうぞ。
※この物語はフィクションです。


第1章 「優秀って何?」

(くそっ!俺は優秀なんだぞ)
 帰りの電車でスマホを眺めている。しかし、スマホの画面は頭に入らない。仕事の失敗が俺の頭の中を邪魔する。
 俺は今日も営業でうまく話せず上司に怒られた。これで何回目だろうか。派遣という立場上いつ首を切られてもおかしくない。俺の人生どうしてこうなってしまったのだろう。
 
 自分で言うのもなんだが地頭は良い方だ。地元の優秀な高校からそれなりの大学に一般入試で入学、塾講師のアルバイトをしていたこともあって勉強に関しては今までそれほど苦労したことは無かった(というよりも人より授業に熱心だった)。ほんと「それなりの」エリート街道を歩んできた人生だ。
 それがどうしても就職活動だけはうまくいかなかった。「コミュニケーション能力?」「主体性?」「協調性?」今まで一生懸命やってきた勉強だけでは突破できなかった。エントリーシートも志望動機なんてないし、人より優れてたアピールポイントもない。適当に書いて書類選考は通ったものの、面接ではうまくしゃべれず、話しながら嘘をついているかのような罪悪感を覚え、自暴自棄になっていった。それでも最後の最後にやっと得られた内定。入職してからはこんな就職活動の事なんか忘れて心機一転頑張ろう、そう自分に言い聞かせた。
 俺のいた大学のレベルからしたら期待外れかもしれないが、地元の大きい病院に事務として就職することができた。病院なら潰れない、そんな安心した気持ちでいた。経済学部出身の俺はきっと総務課や人事課などバックオフィス系の部署に就くと予想していたが、反して配属は「医事課」だった。何をする部署かというと医療事務、つまり医療費の請求を行う部署である。(医療事務って資格いらないの?)そんなことを思っていたが、資格は特にいらないようだ。
 3年前、入職したばかりのころはまだ期待と少しばかりの不安を持って出勤していたが、いつしか不安というか心が真っ黒い闇に支配されていった。職場は最悪の労働環境だった。何かあれば理不尽に怒られる日々、定刻になったらみんなでタイムカードを切って自席に戻り業務を続けてサービス残業は当たり前、そして終わらない業務に追われてメンタルを壊しどんどん辞める若手。それでも食らいつこうと毎日必死に今まで触れたことのない医療事務を勉強した。月100時間を超えるような残業を続けること数か月、俺は鬱になった。電車が通るたびに飛び込んだら解放されるんだよな、と頭の中をよぎっていた。通勤中は転職サイトを眺めるが、業務に追われそれどころじゃない、そんな体力も気力も残っていない。こうして俺は鬱になりながらも薬を飲んで働き続けた。仕事を辞めたら家賃が払えなくなるし、もうどうしようもなかった。
 そんな生活を約2年続けた。相変わらず抗うつ薬を飲みながらサービス残業をしていたが、どうにかして仕事を辞めることに成功した。転職先?そんなもの決まっているわけがない。とにかく命が惜しかったから、仕事を辞めることが最優先だ。幸いにも多少は蓄えがあるので、辞めてから仕事を探せばいい。今度は絶対ホワイト企業にしよう、そう決めてネットで『ホワイト 業界』と検索した。そこでふと目に入ったのが「大学職員」という仕事だった。大学の時全く職員と関わったことがなかったので気にもしなかったが、よくよく考えてみれば大学で働いているのって先生だけじゃないよな、よし大学職員を受けてみるか、そう決心した。
 大学職員を目指して3か月ほど転職活動をした。しかし、ことごとくエントリーシートで落ちること落ちること。社会から必要とされていない、お前なんかいなくても世界は回っているんだよ、そう言わんばかりの疎外感。転職活動ばかりしていたらお金もなくなる、もう四の五の言ってる場合じゃない、俺は正社員だけじゃなく、契約社員や派遣にもエントリーした。そこで派遣会社に登録した際、「大学職員じゃないけど教育関係だし働いてみない?」派遣担当者にそんな求人を紹介された。俺はしぶしぶその仕事を引き受けたが、今回の職種は「営業職」だ。営業なんてやったことないし、そもそも俺は営業が嫌いだ。なんで自分から「これいりませんか?」なんて聞かなきゃいけないんだよ、欲しかったら自分から聞くだろ、俺はそんなスタンスの考えだ。それでも働かざる者食うべからず、俺は営業にチャレンジした。
 派遣では2か月ごとの更新で、6か月後には直接雇用となる「紹介予定派遣」で採用された。最初は上司についていきながら名刺の渡し方やメールの打ち方、仕事の進め方などを教えてもらった。如何せん前職が医療事務だったため、そういった類の事を一切やってこなかったのもあり、本当に何も知らなかった。仕事自体は一生懸命やっていたので、最初の2ヵ月はクリアして更新された。このまま順調にいって俺はここの営業としてやっていくのかなぁ、そんなことを考えていた。1回目の更新の後、今度は上司ではなく自分でアポ取りや商材説明をするよう言われた。言われるがままにやってみる。アポを何とか取り付け、営業に出向き、先方で商材説明をする予定だった。いや、やってみたのだが・・・。全然説明ができない。商材が覚えられなかったのだ。難しいわけじゃないのだが、いくつものある自社の商材をどう説明して良いか分からないし、何を勧めればいいのか分からない、そして営業トークの展開も分からない、ここで初めて(俺この商材も営業もマジで興味ないわ)と自覚した。見かねた上司が変わって説明をしたが、俺はもう心が折れていた。上司には呆れられた。今まで何をやっていたんだと。俺なりに頑張っていたんだが、まったく実を結ばなかった。

 大学に入った時はまさか自分が派遣になっているとは思いもしなかったが、現実はこうだ。派遣で全然うまくいかずに自分の能力不足を露呈している。毎日毎日商材が覚えられず上司に呆れられ、怒られる。俺は優秀なんだぞ、優秀だったのに、どうして・・・。
 2か月後の更新は無かった。季節は秋も終わり、俺に当たる風はアホみたいに冷たかった。

つづく

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