御守り
これは、私こと狐が、高校時代に体験したお話。
私はその頃、告白されると取り敢えずお友達からという理由でお付き合いする事が多々ありました。
ですが何分奥手なもので手すら握らせない私に嫌気がさし、向こうから別れを告げるという展開ばかりで、まともなお付き合いをした事がありませんでした。
そんな中、ある日一学年上の先輩に告白され、いつもの様にお友達からという事でお付き合いを開始したんです。
放課後一緒に帰ったり、マクドに寄って楽しくお喋りをする、そんな関係が何日か続きました。
ある日、そんな彼にふと思う事があったんです。
この人は他の人と違うなあと。
他の男性は私が一人暮らしをしているのを知っているので、やたらと家に行きたいだとか、泊まりで出掛けようと言ってきたり、正直私には難易度が高すぎる要求ばかり。
ですが彼はそんな話も一切せず、普段何気ない会話を楽しんだり、一緒に居るだけで安心できるような関係になりつつあったんです。
そんな彼に、ある日唐突にこんな事を言われました。
「僕御守り作るのが趣味なんだ」
「御守り?自分で作るの?」
「うん、それでこんな事頼むのもあれなんだけど、狐ちゃんの髪の毛、一本貰えないかな……?」
「えっ……?」
正直ちょっと気持ち悪いなと思いました。
流石に生理的にそれはと思い、彼には申し訳ないと思いつつ断らせて貰ったんです。
それでも彼は嫌な顔一つせず苦笑いを零すだけでした。
次の日、休み時間に教員から用事を頼まれた私は、遅めの昼食を取るため教室に戻りました。
すると、クラスメートのI子が私の側に寄って来て声を掛けて来たんです。
「狐がいない間に彼氏がさっき来てたよ~」
「え?私に会いに?」
ニヤつきながら言うI子に聞き返すと、I子が首を横に振りました。
「何か借りたもの返しに来ただけだって」
「借りたもの?」
ふと考えましたが思い当たる物がありません。
お気に入りの音楽CDは前に貸した事がありましたが、それは彼から手渡しで返してもらいました。
何だろうと考えていると。
「何か彼氏さん、I子の机の下とか覗き込んでたけど……顔は良いけど変な人だね彼」
「う、うん、そうだね……」
一体何の用事だったのか、帰りにでも聞いてみようと思ったのですが、その日彼は用事があるとかで一緒にはなれませんでした。
その日の夜、私は変な夢を見ました。
彼です。
彼が夢に出てきたんです。
しかも私の部屋。
なぜか彼は私をベッドに押し倒し制服を脱がそうと衣服に手を伸ばしてきたんです。
私はベッドから飛び起きました。
うなされていたのか寝汗をかいている事に気が付き、衣服を着替えようと起き上がります。
結局その後は夢の事が気になって休めず、寝不足のまま学校に登校しました。
昨夜の事も会って気恥ずかしい気持ちと、体調が優れないのもあって、彼に断りを入れその日は早々と帰宅しました。
そして、またあの夢を見たんです。
妙に生々しい彼の夢を。
押し倒され無理やりキスされそうになり、それに激しく抵抗しようとする私。
直ぐに飛び起き、その日も殆ど眠れませんでした。
それからというもの、同じ様な夢は連日続きました。
流石に耐えきれなくなった私は友人にも相談しましたが、欲求不満なんじゃないかと一蹴され、まともに取り合って貰えませんでした。
放課後、このままじゃ埒が明かないと思った私は、思い切って彼にも相談してみる事にし、その日は久々に一緒に帰る事にしました。
いつもなら他愛もない話しに花を咲かせているのですが、その時はお互いに黙ったまま。
しばらく重苦しい沈黙が続いたのですが、私は意を決し、おずおずと口を開きました。
「あ、あのね……最近変な夢……見るんだよね……」
ようやくそう口にした時です。
「別れよう……」
彼がボソリと言います。
私がその言葉に呆気に取られていると、彼は続けてこう言ったんです。
「夢の中くらい、好きにさせてくれよ……」
「夢……」
呟く様に言って立ち止まる私を置いて、彼は一人でその場から去って行きました。
以上が、私が体験した話です。
怖くなくてすみません。
ですが私にとって最悪な思い出、そして最悪な恐怖体験だったと……今でも忘れられる事ができません……
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