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ウクライナからの恋。 外国人と呼ばれる子供たち

ドイツと日本のハーフ、と一言で言っても、ヨーロッパ色が濃い顔であったり、日本人寄りの顔だったりするのだけど、うちの長男は日本人顔だ。
小さめの目と低い鼻である。もちろん私に似てしまった。

大きな目と高い鼻、それに長い手足だったら、日本ではさぞモテただろうに、ちょっと申し訳ない。息子君はしかし結構な色白なので、日本では「ハーフなのね」と気づかれる。
日本に一時帰国した時ドン引きしてしまったのだが、ハーフはイコール「英語を話す人」らしいのだ。
日本の親戚は私たちがドイツから来ていると知っているのに、頑張ってどうにか英語でコミュニケーションしようとしてきた。

ドイツではドイツ語話すんやで
てか、この子は日本人でもあるんやで

と私は心の中でツッコミを入れた。
結局その親戚は「日本語上手なのね!」と驚いていた。

どうもおおきに、である。


現在ドイツの小学校に通う長男は3年生で、小1の時から彼女がいた。正確に言うと奥さん、らしかった。

「え!知らないの?二人は結婚してんだぜ」

と、息子の友達が私に教えてくれた。さようですか。結婚されておられるんですか。ほっほ〜と私は口をすぼめた。

その当時はコロナで、子供達は校内でもマスクを着用していた。そのマスク越しに誓いのチューをしたんだとか。やはりドイツの子供達はすすんでいる、と昭和の女は思ってしまう。

時は経ち、当時の奥さんは仲のいい友達になって、息子君は今は別に両思いの女の子がいる。

「映画を見ている間、僕の肩に寄りかかってたんだよ」

と先日、ロマンティックにうっとりと報告してくれた。ちなみに二人でデートに行ったわけではなくて、クラスの遠足で行った映画館での話である。

息子は深い愛と友情の流れを悠々泳いでいるようだ

幸せそうでなにより

そんなある日、玄関にA4の紙が無造作に置いてあった。大きなハートが描かれている。そのハートは赤のフェルトペンで時間をかけて塗りつぶされたようだった。裏返すと

「クリスティーナ」

と書いてあった。
彼女の名前ではない。

これはもしやラブレター!?

私は興奮気味に「これ、誰から貰ったの?」と聞いたら「知らない」とサラッとした返事が返ってきた。

「ロッカーに入ってた」

でも名前があるんだから誰かわかるんじゃない?と聞いたら。そんな子知らないと、レゴから顔も上げずに答えられた。
息子の無関心さには少々びっくりしたものの、母としては鼻が高かった。

よかったよかった。日本人顔でもモテるじゃないですか。

何週間かして、またランドセルからはみ出しているハートの紙を発見した。今度は小さな紙で、裏に

Du kannst gut Fußball spielen.
サッカーが上手ね

と書かれていた。とても几帳面な文字だ。

また貰ったの?と聞いたら、またロッカーに入っていた、と言う返事だった。名前で誰かわかんないの?と聞いたら

「多分外国人の子だと思う」

と、予想外の返事が返ってきた。
外国人、というワードに私の心はざわついた。なんだか失礼な言い方に聞こえた。

「外国人っていう言い方はないんじゃない?あなたも外国人と言われてもおかしくないかもなんだし」

とトンがった言い方をしてしまった。息子はすかさず

「僕はドイツで生まれたドイツ人!」

と大きな声で返してきた。
あーだこーだ遠回りして息子が言わんとする「外国人の子」がドイツの学校に転入する前に慣らしで週に1、2回学校に通っている海外から来た子供、つまりは難民の子供達のことだとわかった。学校の子供たちの間で「外国人」と呼ばれているのだそうだ。別に差別的な意味はないらしい。

クリスティーナは学校にクラスの授業ではなくて、個別にドイツ語を勉強しに来ている子どもの一人というわけだ。休み時間に息子を見かけたんだろうか。

しばらくして息子が、あの子が誰か分かった、と教えてくれた。

「ウクライナから来た子だって」

息子のクラスには一人、戦争が原因で家族でウクライナからやって来たクラスメイトの男の子がいる。慣らし、ではなくてドイツ語で授業を受けている子だ。そんなに話さない子ではあるそうだが、授業は問題なくついていけているそうだ。
その彼がクリスティーナは多分自分が知っている同じウクライナ出身のクリスティーナではないか、と言ったというのだ。

ウクライナから来た女の子が、日本人顔の我が息子のどこをどういいと思ったのか、ちょっと聞いてみたいものだ。異国の地に来て現地の言葉を勉強している女の子に私の息子がときめをプレゼントしているなら、こんな嬉しいことはない。

私は勝手にいいことをした気分になっている。
なんの関係ないのに、おかしなもんだ。


ある日息子は校庭で遊んでいる時、知らない女の子に話しかけられた。

「ねえ、分かってる?あの子がクリスティーナよ」

と、だしぬけに言われたそうだ。
その女の子が指差した方に、クリスティーナが立っていた。

「青い髪が編み込んである子だった」
そう私に報告してくれる息子は満更でもない様子だった。

ちょっと私が頭で想像していた女の子のイメージとは違ったが、ドイツの子供の小学校では服装も髪型は自由なので、編み込みに青い髪が編まれていてもOKである。

むむむ、これから何か発展するのかしないのか、母は勝手にドキドキしている。

そっと見守っていきたい。



*クリスティーナは実名ではありません。





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