「Zero to One」(ピーター・ティール著)を読んで
ピーター・ティールは、ペイパルマフィア(PayPal Mafia)のドンと呼ばれた起業家かつ投資家である。ペイパルマフィアには、最近何かとお騒がせなイーロン・マスクらがいる。ペイパルで一緒に働き、買収後に飛び出した彼らが、Youtube、テスラ、LinkedInなどの新しいベンチャーを次々と作り出したことから、ペイパルマフィアと呼ばれるようになったようだ。
ピーター・ティールはペイパルを売却して大金持ちになっただけでなく、Facebookに出資した初の外部投資家となったこと、またペイパルマフィアの作る数々の優れた会社にも投資したことで知られる。資産は数十億ドルともいわれるが、ティールがすごいのは資産家であることではない。
数え切れぬ数のベンチャーの失敗と、幸運が味方した成功とを間近で見聞きしてきた点、しかも起業家と投資家の双方を経験している点で、ゼロを1にすることにかけて、ティールほど知見を持つ者はいないのではないだろうか。
要約
ゼロ→1と、1→Nの違い
ゼロを1にするのは新しいテクノロジーを生み出すこと
1をNにするのは、模倣により改善していくこと。グローバリゼーション。
利益の源泉
利益は競争からは生じない。独占から生じる。
ゼロ→1に必要な条件
常識を疑え。隠された真実を探しに行く態度が大切。
将来の成長が現在価値を高める
指数関数的な成長が見込める計画を立てろ
大きな目標への一歩目は小さな領域で
市場の大きさに関わらず、その領域での独占を狙う
隠れた真実を見つけよう
隠れた真実とは、現在は常識ではないが、将来は常識になるもの
研究が十分でない分野で、置きざりになっていることが多い
商品が良いだけでは売れない
販売方法が非常に大切。どう売るかを常に考えなければならない。
予測できる未来
AIは人間と競争関係にはない。得意分野が重複しない補完関係にある。
内容に対する評価
評価:AAA
非常に学びの多い内容。評価はトリプルA。
ただし本書はMBA講座のようなビジネスフレームワークを学ぶ種類のものではない。コンサルを頼ったり、コンサルを目指すような人には向かない。
この本は世界に向けた檄文である。いわば「全人類よ、今こそ起て!」てなものである。何に向けてかって?
それは「現在」である。あるいは「現在の社会」である。もっと言えば、「過去に想像したよりもイケてない現在の社会」なのだ。
ドラえもんの世界では、あるいはSFの世界でも、2023年はもっともっと素晴らしく進歩した世界が来ると思われていた。なぜタケコプターはできないんだ?
ティールの姿勢は一貫している。リーン・スタートアップを批判する。市場に合わせて小さく始める?そんな志の小さいことでどうするんだ、と。一方で、小さい市場を独占することが大切とも説くので、矛盾しているように見えるかもしれない。しかし、目標のために道を選ぶのと、とりあえず前に進むのは明確に違う。
つまり「短期的な利益」ではなく「将来の莫大な利益」を目指せ、ということ。今ある常識や定説を乗り越えて社会を変えろ、と。これが本書を檄文と呼ぶ理由である。
しかし歴史を紐解くと、革命や反乱が成功した事例にはパターンがある。我々はそれを幸運と呼んでいたりもする。これにもティールは解答を用意してくれている。
いわく。
1.エンジニアリング(革新的技術)
2.タイミング
3.独占
4.人材
5.販売
6.永続性
7.隠れた真実
ビジネス版の「天の理 地の利 人の和」である。この条件が揃えば、成功できる環境は整ったと言える。
人真似で短期的利益を追求することを強烈に批判し、他人が見過ごしているところから真実を見つけだそうとするティールの姿勢。勇気を貰えた。彼が大金持ちなのに対し、自分は目先の金銭が欲しい貧乏人であるが、武士は食わねど、という気概を持って生きたいものだ。
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