2027年のビーンズショップ    <夢の途中> 第12話 内外装①



 
その話をしてから一週間程経った。東京は8月に入り、酷暑が続いた。私は店へは行っていないが店は焙煎をするので暑さが大変だった。でも、私もそこで25年以上焙煎をしてきたので、それは良く分かる。ただ、同業者によれば『ここはまだ良い方だよ。クーラーの風がこちらに引き込まれ換気扇に流れて行くから。』という人もいたが、暑い事に変わりは無かった。
 
豆屋は、冬は暖かくて良い仕事だが、夏は大変な仕事だ。でも夏は休んでしまうという訳にもいかない。仕事は売れても売れなくても、大変でも大変で無くとも一年中続けて仕事なのだ。
 
前回会って、又、一週間程経って谷川さんから電話があった。
『<ショウゾウカフェ>観て来ました。<イリヤ+カフェ>にもいって来ました。』
『どうでした。』
『どちらも素晴らしいお店でした。山下さんの言っている事が良く分かりました。』
『そりゃあ良かった。宮越屋も勿論良いお店なんだけど資金の面で誰でも出来る店という訳ではないからね。』
 
谷川さんが言った。『申し訳ないんですが、又、少し話をしたいんですが。』
『大丈夫だよ。私は暇だから。』
『明日、恵比寿ガーデンプレースの宮越屋に一時で良いでしょうか。』『分かりました。一時に待っています。』
 
翌日も暑さは酷かった。宮越屋で待っていると谷川さんと恵子さんが来た。内外装の話なので恵子さんも加わった方が良いと私も思っていた。
 
挨拶もそこそこに、谷川さんが言った。『カフェの内装を山下さんにお願いしようと思うんですがどうでしょう。』
『そう言ってくれるのはとても嬉しいんだけど、それは良くないよ。』と私は言った。
 
『私が作ったカフェを谷川さんがやっても本当に良いカフェにはならないよ。谷川さんが作ったカフェを谷川さんがやるから本当に良いカフェが作れるんだよ。でもいろいろアドバイスは出来るから、是非谷川さんが作った方が良いよ。分からない事があれば何でも聞いてくれればいいよ。チェンライの<花の樹>を始めとして他のチェンライのカフェも沢山観ただろうし、今迄谷川さんが生きて来たいろんな事を形にしていけば良いんだよ。カフェを作るという事はそういう事だよ。その時、谷川さんのセンスも勿論試されるだろうけどね。』
 
といろいろ話しながら3人でプランを詰めて行った。蔵の方の宿泊棟は部屋を4つ作る事、全てツインの部屋で8畳の広さの部屋にシャワーとトイレを付ける。風呂は付けない温泉がひける訳では無いし、それならトイレと別のきちんとしたシャワールームを付けた方が余程気持ちよく使えるのでは無いか。温泉に入りたい人は豊崎ホテルでも、旧松崎プリンスでも日帰り温泉をさせて貰えば良いのだ。
 
部屋はツインなのでシングルベッドを2つ置く。その他、作り付けの少し広めのカウンターを壁際に作り付けデスク或いはテーブルとする。それにあったチェアを付ける。ただ、それと別にゆっくり座れるアームチェアを各部屋に一脚ずつ置く。勿論どちらの椅子も部屋ごとに違う椅子で良いのだ。むしろ違う椅子の方が良いかも知れない。
 
勿論、全て中古家具で良い。ゆっくり寛げるアームチェアは部屋の個性を演出する事にもなるだろう。期本的にガラスの家具、スチールの家具、プラスチックの家具は使わない。
 
床は木の床にし、壁は予算が許せば白の漆喰の壁に、予算が許さなければ白い布の壁紙を貼る。壁には谷川さんが沢山撮ったというチェンライの町やカフェの写真をシンプルな額に入れて飾れば良いのだ。
 
後は照明だが、埋め込みのスポットライトが部屋を広く見せて良いかも知れない。ベッドのサイドテーブルとカウンターにはスタンドが必要になるが、今は驚くような易い値段で可愛いデスクスタンドやベッドサイドのスタンドが売っている。そうした物を選べば良いのだ。後はセンスだけだ。
 
その他、蔵の方に少し余裕がある様なので、そこを読書室にすることにした。作り付けの背の高い本棚を壁際に置き、そこに谷川さんや恵子さんの好きな本を沢山置けば良い。椅子はここにも一脚、一脚違うアームチェアを何脚か置き、それぞれにサイドテーブルを付ければ良い。
 
次にカフェのある主屋の方だが、カフェは基本的に宿泊する主屋のお客さんのベッド&ブレックファーストに使う為にあるのだが、他の観光客や町の人が使ってくれるのなら、それもとても嬉しい。
 
宿泊してくれるお客さんの事を考えれば部屋は6つしかない訳だからテーブルは6つあれば良いが、基本的には4人用のテーブルの方がゆったり使えて良いと思う。あと2人用のテーブルが4つあれば32席となるが、これは大テーブルの方が良ければそれでも良いのでは無いか。カフェにもカウンターを付けるならそこにも6席ぐらい作れるので、もうそれだけで38席から40席位の結構大きなカフェになる。ただ、カフェと言ってもスタバやタリーズでは無いので
そんなに詰めて沢山お客さんを入れられる訳ではない。ゆったりで良いのだ。そうすると30人も入れば満席と言った感じになるだろう。ただ、東京と違ってそんなに沢山のお客さんが入る訳では無い様な気がする。
 
テラスを作るとそこにも客席は作れるが、テラスと言うのは暑い時も駄目、寒い時も駄目、雨の日も駄目、風の強い日も駄目という事で、正式な客席数に入れない方が良いような気がする。使える時に中のテーブルや椅子をセットして使えば良いのだ。
 
内装は部屋と基本的に同じで、気の床に、漆喰か、布の白い壁紙が良い。そこに谷川さんのセンスで纏められた中古家具が収まればそれで良いカフェの基本は作れるかも知れない。
 
恵子さんが一つだけ言ったのは、壁には一枚だけカシニョールの描いた、海をみつめる女の人を大きく描いた絵の複製を掛けたいという事だった。恵子さんが言った『自分達のカフェが出来たら
どうしてもそれを壁に掛けてみたかったのです。勿論、複製良いんですが、大きな物を壁に掛けたいんです。』<松崎町役場のリス>の未由ちゃんが聞いたら喜ぶかもしれない。
 
後は、宿泊客の朝食時間とカフェの開店時間の関係だが、そこは時間で分ければ良いのだ。泊ってくれるお客さんの朝食時間は朝7時から9時30分迄とし、10時からは誰でも使えるカフェにすれば良いのだ。閉めるのは5時で良いのでは無いかと思う。コーヒーは朝飲む物だからだ。村上春樹さんも言っている。<朝のコーヒー、夕方のビール、そして夜更けのフィツジェラルド。>
 
主屋は二階も使うので、二階にはシングルの客室と、谷川さんご夫婦のプライべートスペースを作る。後は焙煎室だが1K釜なので、ガラスで仕切った焙煎室は作らない事にした。ただ、店のキッチンと客席を区切るカウンターの内側に置かないとお客さんが触って火傷する。
お客さんが触れない位置に置くことが大切だ。
 
多分フロントに近い仕事をする場所も必要となるだろうし、細かい設定はこれから上手く考えないと、使い勝手の悪い仕事場になってしまうだろう。
 
もうこれで主屋は一杯になる。この案で行けるなら、後は大工さんか建築デザイナーの誰かが必要になる。谷川さんに聞いてみた。『誰か心当たりはある。』『ありません。』『私も無いな。』東京ならまだ少しは知り合いもいるが、東京の人だと松崎へ泊るか、通うかしなければならない。それは相手にとっては無理な相談だろう。結局、松崎で大工や建築の仕事をしている人を、探すしかないのかも知れない。
 
この時、恵子さんが言った。『未由ちゃんに相談してみたらどうでしょう。』『あっそうか。未由ちゃんがいた。』と私は思った。取り合えず未由ちゃんに相談してみるのが一番良いかも知れない。<松崎町役場のリス>こと、救世主の未由ちゃんの顔を思い出した。

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