2027年のビーンズショップ    夢の途中 第5話 物件探し




 
その日は別れたが、私としては物件が本当にあるのかを、まず良く見なければならなかった。いつもの様にインターネットで売りペンション、売り店舗、売り保養所等を探して行くのだが、そんなに丁度良い物件等ある訳がなかった。予算は限られているし、東京にある程度近い、海に近い場所と言うのはなかなか難しかった。海が見えても、海まで歩いて行けなければ余り意味は無いのかも知れなかった。
 
小さな豆屋の物件を探すのは、そんなに難しくはない。東京でも私が開店した30年前の所謂、世田谷・中央線の阿佐ヶ谷・荻窪・西荻・高円寺・吉祥寺等はもう豆屋が乱立しており、家賃も高く、店も乱立しており、店も良い物を見つけるのは難しかった。物件を見つけて来ても、前や隣が豆屋という事も珍しくは無かった。
 
ただ30年前と豆屋の事情は全く違っていた。30年前そうした場所が選ばれたのは、そうした街にしか自分でコーヒーを淹れて飲む人は余りいないと言われていたからだ。それが正しい情報であったとは、私は思はない。私は35年前にそうした場所と全く別の東京府中市に<夜間飛行>を開店し、それは現在でも良く売れる優良店あり続けている。そういう意味では、そうした事情はもっと進んでいると思う。ある程度人の多い地方の住宅地でも、現在は充分仕事になる業種だとおもっている。
 
家でコーヒーを淹れて飲む人の数は圧倒的に増えたのだ。でも始めてコーヒーお店を作る人は、そう言うことは分からない。今でも世田谷や中央線の駅前の所謂良い場所を、店を探しながら、夢遊病者の様に彷徨っているのだ。
 
私の所の開店指導を受ける人達はもうそういう所は探さない。
 
『何処でも良いんだよ。』私は良く冗談で言っているが、もう一つの大きな理由は豆屋は味と接客でやる仕事だという事が、私の中ではっきりしてきたからだと思う。良い場所に出店した人が必ずしも上手く行っている訳ではない。難しいかなと思った場所で開店した人がとても良いお店を作る事も私にとっては、もう珍しく無くなってきたのだ。そういう意味では『良い場所ばかり探しても意味がないよ。』という意見はそれなりに正しいと思っている。
 
ただ今度のミニホテルの件は全く違う。私にとって始めての仕事だし、今迄、そうした話が無かった訳では無いが、もともとがそんなしっかりした話ではなかった。本人に何となくそうした興味があっただけだ。しかし、今度の話は違う。谷川さんははっきりベッド&ブレックファーストのミニホテルをやりたいと希望しているのだ。場所は海の傍、それも東京からそう遠く無い所という事迄、決まっているのだ。後はただ、物件を探すしか無い。希望に近い物件があれば見に行くのが一番だ。ただ、物件はインターネット上にだけある訳では無い。
 
地元の小さな不動産屋さんが押さえている物件も勿論あるだろうし、又、地元のそうした仕事に関わっている、県や市や村の担当者が情報を持っている事も充分考えられる。何から手を付け、どう考えて行くのか、その道筋を付けなければ上手くは行かない気がした。
 
そしていろいろ考えているうちに一週間ほどは直ぐに過ぎた。そこに谷川さんから電話が入った。
 
『先日はお世話になりました。どうですか。』
 
『なかなかこれと言った物件は無くいろいろ調べています。』
 
谷川さんが言った。『私の方も似たような状況なのですが、どうも物件のある場所というのが、ある程度限られているような気がしてきました。東京の近くと言っても千葉や茨城は余り気持ちが動かないので、どうしても静岡辺りになると思います。ありきたりですが、やはり伊豆になるのでは無いかと思い始めています。ただ、伊豆でも売りペンションや保養所がある所は限られていて、一番多いのが、伊豆高原の辺りの様な気がします。後は、西伊豆、南伊豆辺りにぽつぽつある様な気がしますが観てみないと何とも分からない気がします。』
 
私は言った。『千葉や茨城に触手が動かないという事になれば、伊豆辺りが良いという事になると思いますが、気になる物件はありましたか。』
 
『1つ2つあったのですが、どちらもピンとくるという様な物件ではありませんでした。』
 
『でも何処かで風穴を開けなければ先に進まないと思いますので、その1つ2つあったという物件を一緒に観に行きませんか。』
 
『お願い出来ますか。』
 
『大丈夫です。私は時間だけは沢山あるので。』
 
という事で、私と谷川さんは2人で伊豆へ物件を見に行く事になった。

第5話終了 第6話に続く

2027年のビーンズショップ <夢の途中>  あらすじ  第1話<世界は・・・・>|南方郵便機のカフェ講座(豆屋) (note.com)
2027年のビーンズショップ <夢の途中> 第2話<夏のカフェ講座最終日>|南方郵便機のカフェ講座(豆屋) (note.com)
2027年のビーンズショップ <夢の途中> 第3話  始まり|南方郵便機のカフェ講座(豆屋) (note.com)

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