2027年のビーンズショップ  <夢の途中> 第10話 物件契約


松崎から東京に着いたのは午後9時を過ぎていた。もう食事をする時間でも無かったので、吉祥寺の駅で別れて中央線に乗って家へ帰った。奥さんに簡単に事の顛末を説明してパスタを食べて風呂に入って寝た。疲れていたが心地良い疲れだった。物件は取り敢えず見つかったのだ。来週の約束は何もしていなかった、明日連絡すれば良いだろう。
 
翌朝、年なので流石に疲れていたが起きてコーヒーを淹れ、サンドイッチの朝食を食べていると谷川さんから電話が入った。『おはようございます。昨日はありがとうございました。一つは清算の件なんですが、もう一つは来週の件です。』
 
まだ、昨日までの旅行代金の清算は全く済んでいなかった。私としては宿泊費だけを割り勘でにしてと思っていた。食事代はは全て私がもち、高速代とガソリン代は全て谷川さん持ちでと思っていたので、その旨を伝えた。『それで良いですか。すみません。』と谷川さんが言った。『来週の件なんですが。』『そこまでは私も責任があるので、一緒に行くよ。』と答えた。『恵子も一緒に行きたいと言っているんですが。それでも良いですか。』と言った。『奥さんも物件を見たいだろうし大丈夫だよ。』と答えた。『今度は一泊で良いよね。契約の前日に出かければ良いと思うけど。』『はい。』と谷川さんは言った。
 
ただ、夏休みはまだだったので、助かった。あと一週間経つと夏休みに入ってしまう。夏休みに入ると、道路も混むだろし、宿も取れないだろう。出かけるのは契約の前日の朝という事にした。又、吉祥寺で8時に会う事にした。平日なので道路も空いているかもしれない。
 
ホテルは松崎プリンスにしようと思った。松崎プリンスは、今は西伊豆松崎伊藤園ホテルとなってしまった。朝も夜もバイキングという色気も情緒もないホテルだが、朝食だけ我慢してバイキングを食べ,夜はあのうなぎ屋へ食べに行っても良いし、豊崎ホテルに魚を食べに行っても良い。
 
豊崎ホテルへ泊まりたいが、多分、前回も混んでいたので、豊崎ホテルは3人分の部屋を取るのは無理だと思った。今度は三人で一部屋と言う訳にもいかないだろうし。
 
出発の朝は雨だった。まあ、梅雨だと言うのに好天が続いていたのが不思議な位だった。近頃の梅雨の雨の降り方は以前とは全く違う。私等は梅雨の雨はしとしと、しとしと降るものだと思っていたが、今の梅雨の雨は、とんでもない豪雨になったりする。全て地球温暖化のせいだ。
 
ただ、ラッキーな事に雨は豪雨にはならず、運転に支障はない様だった。前回と同じ伊東の豚カツ屋で豚カツ定食を3人で食べてから、カフェでコーヒーを飲み、そのまま松崎へ向かった。恵子さんはとても楽しそうだった。これから二人の夢だった、カフェ付のベッド&ブレックファーストの場所を見に行くのだ。楽しくないはずがない。
 
蓮台寺に着くころ雨は止んでいた。松崎には3時ごろ着いた。恵子さんが先に物件を見たがったので、日産デイズは、明日契約する物件の前に止まった。一応、車が庭に入れない様に細い鎖が渡してあるので、車を入れずに、歩いて庭に入った。恵子さんは驚いた様だった。『素敵。素敵です。』と私に言った。何処かで聞いた事がある。未由ちゃんが何処かで言ったような気がする。
 
建物の中へは入れないので、外から谷川さんがスマホで写真を撮り始めた。前回は田辺さんもいらしたので、失礼になってはいけないと思い、谷川さんも写真は撮らなかったのだ。
 
田辺さんには申し訳ないが、庭をウロウロ歩き回り、外からいろいろ建物を見た。谷川さんの中には、多分もういろいろアイデアがあり、それが形を取り始めているのかも知れなかった。蔵の写真も外から沢山撮った。
 
旧松崎プリンスの駐車場に車を入れ、部屋へ案内してもらった。一応温泉もあるので、私は温泉に入り、ベッドで眠った。午後6時に一階のロビーで会う事にしていた。
 
6時に下で会い、協議の結果、夕食はうなぎ屋で取る事にした予約は入れていないが、どうにかなるかも知れない。駄目だったら、豊崎ホテルの魚料理店へ行っても良いのだ。
 
うなぎ屋へ着くと、丁度4人の席が空いていた。私が言った。『オーダーは任して貰ってよいですか。』『はいお願いします。』と二人が言ったので、私はまずウナギの白焼きを3人前頼んだ。後はビールにした。後半はぬる燗にすれば良いのだ。ウナギの肝焼きも3本頼んだ。
 
ビールを飲んでいると見事な白焼きが出て来た。白焼きでビールや酒を飲むのは素敵な事だ。美味しいという言葉はこういう時の為にあったのだといつも思う。肝焼きも美味しかった。見ていると恵子さんも綺麗に平らげていた。
 
その後、うな重を頼んだ。どの位食べられるか分からなかったので、うな重は先に頼まなかったが、ぜんぜん平気という事でうな重の上を3人前頼んだ。
 
うな重が出てくるまで、3人で話をした。
 
『このうなぎ屋さんにも提携店になってもらい、豊崎ホテルの魚料理店にも提携店になってもらうとよいよね。後、美味しい日本蕎麦屋さんが見つかると良いけど。後は中華料理店と洋食屋だね。』
 
ただ、と谷川さんが言った。『ただ、若い人はお金が無いので、そうした所で夕食が取れないかも知れません。』
 
私は言った。『そうした時は、コンビニ弁当で良いんじゃないの。ラーメン屋もあるし。』
 
そこへうな重が運ばれてきて、私達はうな重にかぶり着いた。恵子さんも凄い食欲だった。肝吸いを飲み終わるとお茶が出た。私達はお茶を飲んで、うなぎ屋を出た。
 
翌日、約束の時間に松崎町役場へ行った。ブースへ通されると、田辺さんと未由ちゃんが話していた。恵子さんも行く事を伝えてあったので、折り畳み椅子が一つ増えていた。
 
挨拶の後、未由ちゃんが言った。『それでは谷川さんの持ってきて頂いた物をまず確認させて頂きます。田辺さん確認をお願いします。』
田辺さんが谷川さんの持参した書類を確認した。
 
『はい。大丈夫』です。
 
『それでは契約を開始致します。契約書の読み上げは私がさせて頂きます。本来的には町役場の人間の仕事ではありませんが、本日は他に人がおりませんので、田辺さんのお許しは頂いています。谷川さんもそれで良いですか。』
 
『はい。お願い致します。』
 
未由ちゃんは契約書を読み始めた。二人とも静かに聞いていた。読み終わると未由ちゃんは言った。『異議や質問が無ければ、署名、押印に移ります。』
 
二人は、書類にサインし、押印した。この後、谷川さんが契約に必要な金額を田辺さんに渡し、契約は終了した。
 
『鍵は沢山あるので、この箱に入れてきました。ただ、どれがどこの鍵か分からないでしょうから。これから、建物に一緒に行って鍵の説明をします。』と田辺さんが言ってくれた。
 
松崎町のカローラに田辺さんが乗り、未由ちゃんが運転し、日産デイズに私達3人が乗り、物件に着いた。入り口の鎖を外し、まず母屋の鍵から始めた。数が多く結構大変そうだった。次に蔵の鍵に移り、受け渡しは終わった。
 
田辺さんが言った。『蔵の中に少し残っていた荷物は全て片付けました。後は、ご自由にお使い下さい。』
 
谷川さんが言った。『本当にありがとうございました。建物の内装が完成しましたら、是非見に来て下さい。』
 
田辺さんが言った。『声を掛けて下さい。是非、拝見させて頂きます。若い人が仕事を始めるのは良い事です。頑張って良いホテルにして下さい。』
 
と言って、田辺さんは未由ちゃんの運転する、松崎町の車に乗って帰って行った。
 
その後、3人で建物の中を色々見た。谷川さんは、今度は建物の中の写真を沢山撮り始めた。恵子さんは嬉しそうに建物と蔵を出たり入ったりしていた。
 
物件は手に入ったのだ。なかなか難しいと思っていた第一段階は終ったのだ。夕方、私達は松崎町を出た。雨は全く降っていなかった。
 
第10話終了 第11話に続く
 
作者のお詫び。
ここまでが前半になります。始めの予定では10話でこの小説を書き上げる予定でしたが、とんでもなく長くなり、ここでも私の計画性の無さが露呈してしまいました。ここから、<カフェとは>・<内外装>・<仕事の準備>・<焙煎練習>・<開店>・<その後>、と言う風にこの小説は続いて行きます。ただ、他の仕事の予定もあり、ここで小説のアップは10日間程お休み致します。勝手で申し訳ありません。宜しくお願い致します。
 

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