ライトノベル第二章四話【次のライブに向けて】

 平日の日中、偶然予定が空いていた俺と奏は時間を合わせて相楽さんのスタジオで合流し、そのまま曲のアレンジなどを進めた。
 午後、奏の方で用事があるとかで二時間ほどの練習で切り上げ、その場で別れる。俺はとくに用もなく、どこか静かなところで曲作りでもしようかと街の中を歩いていた。向かった先は渋谷。交差点を囲うように建ち並ぶ商業ビルのオーロラビジョンを眺めながら、バンドをやろうと思った原点を思い返した。そろそろ本腰を入れてほかのサポートメンバーの選別をしなくてはいけない。一人で決めるつもりだったが、奏の意見も聞いた方がいいだろうという考えに変わっていた俺は、交差点を渡り終えた先で、奏に連絡をいれた。用が終わってからでいい、連絡をくれ・・・と。その数時間後、奏からの折り返しの連絡には、対バンが決まったという主旨のことを聞かされる。

 翌日の夕方、奏と近くのカフェで待ち合わせをした。
「なんで奏の方に連絡が行くんだ?」
「詩音にかけたら話中だったとか言ってたけど? まあ、なんにしても緊急連絡先に俺の番号書いといてよかったな。」
「・・・そういうことにしておく。」
 俺は滅多に通話はしない。スマホは持っていた方がなにかと便利だから持っているが、電話としての用途で使うことはあまりないし、連絡を取るといえば、最近は奏とよくと取りあうが、それ以外はライブイベント関係くらいなものだ。話中で・・・となると、あの日は奏の留守電に入れたくらいだ。そんなのたかだか数分。タイミングよく重なる偶然なんてあるのだろうか。
「詩音、もしかして、俺のこと疑ってるか?」
「え?」
「急ぎで確認したかったからって言ってたぞ。だから、こういうこともあるってことだ。」
「奏は俺の考えていることが丸わかりだって言い方をするな。」
「現に、わかりすぎるくらい、わかるからな・・・。」
「・・・。」
「あ〜、はいはい。今度は詩音に聞いてくださいって返しておくよ。けど、連絡がつく前に決まっちゃいました〜と言われることもあるけどな。」
 人気のイベントは早いもの勝ちなところもあれば、動員数を考えながら対バンを組むところもある。バンド同士が仲良ければ、セットで申し込むこともある。バンド同士が仲いいと、ファンが被ることも多く、動員数は一定になる。バンド側もライブハウス側にも利点があるってことで歓迎されやすい。
 逆に、俺たちのように知名度がないと客を呼び込めないので、安定の動員数を誇るバンドと組まされることがあり、また、人気バンドとの対バンを望むバンドも少なくなく、競争率が高い。奏の言うように「ちょっと待ってください!」とか言っている間に、即答で受けたバンドがでればそこで終わりだ。どういう順番で連絡を入れるかは、ライブハウス側や主催側次第だ。今回に限っては、俺がというよりは奏の知名度があるから連絡をくれたといった方が正しいかもしれない。
「そう言われたらそれまでってことだろう? どうしてもDOOMSDAYじゃないと、と言わせるくらいのバンドにしてみせる。」
「大きく出たな。嫌いじゃないよ。じゃあ、そうなるように突き進むしかないな。」
「そうだな・・・。なあ、奏。」
「ん?」
「ほかのメンバーだが。」
「ああ、そうか。まだ決めかねてるんだっけ?」
「奏の意見も聞きたいっていったら?」
「光栄だね。ぜひ、協力をさせてもらうよ。だとしたら、対バンの傾向とか知っておいてから選別してもいいかもしれないな。DOOMSDAYを知ってもらうには印象が大事だ。ライブのあとも覚えているというのが最低条件な。音楽で覚えてもらうのが最高なんだろうが、素人にそれを求めるのは酷だ。詩音は納得しないだろうが、ヴィジュアル的なものが手っ取り早い。ほかと被らない、それでいて俺たちと統一感がある。さらに技量が同等となったら最高だ。優先順位はこんなところだな。」
 奏は決まった対バンの資料を俺に見せた。資料と言っても、たいそうなものじゃなく、バンドの経歴とメンバーの一覧が書いてあるだけのもの。今ではネットで検索をすれば、たいていのバンドは動画ヒットする。曲調やライブパフォーマンスはそこで確認すればいい。
「わかった。被らない、俺たちと統一感だな。ある程度選別して実際にセッションして決めるというのはどうだ?」
「いいね。実際に演奏してみないとわからないからな。日程が決まったら教えてくれ。」

 それからさらに数日後、俺は奏と対バンの事前打ち合わせをするため、呼び出されたカフェに向かった。すでに候補メンバーを絞り終えた俺は、その意見も聞くつもりでいたのだが。

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