ライトノベル第四章十二話【明日へと響く旋律】

 一曲目から激しい曲を出し会場の熱を高める。ヘドバンが多い曲をセレクトした。続いて、二曲目、三曲目とDOOMSDAYの時に定番となっていた曲で会場の熱を更に持ち上げた。
 そして三曲目が終わった後、観客に向かい話し始めた。
「次の曲はReunionとしての初の楽曲『Farewell』をやります。この曲には俺の思いが込められています。過去との決別。俺はもう過去を振り返らない。過去と比べることはしない。今までのことは、今、この瞬間のために必要なこと。遠回りしたことにも意味がある。それらを踏み越えて、俺は今、新しいスタート地点に立ちます。『Farewell』は俺そのものを表しているといってもいいかもしれない。それに、過去との決別はなにも俺に限ったことではありません。律も美琴も、それぞれ抱える過去に踏ん切りをつけ前に進もうとしていました。俺はそんな彼らと肩を並べこれからを突き進んでいきます。聞いてください。」

 客のざわつきも気にならないほど、俺の中は静けさに満たされていた。そこに律、美琴、奏の音が入り込み、そして腹の底から声を出す。音に乗って出た最初の発声に、客の視線が集まる。
 「Reunionてなんだよ」「興味ねーよ」「場所取りしてるだけだから」
 そんな理由の奴らの視線がこちらを向いていくのがわかる。フロアの奥、ドリンクカウンターにいる客たちも、ステージの方へと体の向きを変えていく。その中に、ここのライブハウスの店長の姿もあった。
「ぜひ、見させてもらうよ。」
 挨拶に行った時、店長はそう言っていた。本当に見てくれていたのか・・・俺は思わず口の端で笑った。同情やつき合いで見ているのではないとわかるほどの、真剣な眼差しをこちらに向けている。
 吟味されている。
 審査されている。
 そんな風に思うこともないほど、俺は歌に集中する。俺が出した答えがこれで、その答えを受け入れてくれたみんながいる。それが奏でる音楽に間違いなどあるはずがない。
これが俺の音楽、俺たちの音楽だと胸を張れるのだ。
 聞いてくれ、俺たちの歌を、音楽を!

 「Farewell」を歌い終えると、静けさからの歓声までが長く感じた。この時の歓声は素直に嬉しさがこみあがった。俺は後ろにいる美琴を見てから、左右にいる奏と律を見る。彼らにも手応えが感じられたのだろう、小さいが確実な強い頷きで返す。
 そしてステージを後にした。ライブはいい余韻を残した感じで終える。ステージ袖に行っても客からの歓声が止まらない。暗転し、セット交換がはじまると客がバラつきはじめ、それを感じてやっと俺たちReunionの初ライブが終わったことを実感した。

「手応えはあったんじゃないか?」
 と奏。
「最高だったぜ!」
 と興奮が止まらない律。
「今になって震えてきました。」
 と手を震わせ余韻を感じる美琴。
 俺は、言葉に出さず、静かに実感を噛みしめた。楽器や機材を片付けた後、俺たちは店長に挨拶しに顔を出した。ちょうど最後のバンドのライブが終わり、事務所にいた店長に、奏が声をかける。当たり障りのない会話を二、三すると、店長の視線が俺を捉えた。
「ずいぶんと雰囲気が変わったな。ひと皮むけたってところか。いいライブだった。バンドとしての一体感もあり、そしてなにより、君たちが楽しんでいるのがいい。歌詞への感情移入も伝わってくる。本当にいいライブだった。またぜひウチでライブをやって、このライブハウスを盛り上げてくれ!」
 店長は次も楽しみにしていると言ってくれた。
 次か・・・。
「この調子でコンスタントにライブ、やろうぜ!」
 と律。
「その前に、いろいろやらなきゃいけないこともあるだろ?」
 と奏。
 俺は曲数も足りないし、本当にやることは山積みだと思ったのだが。
「ほら、詩音、ボサっとしてないで、こっちこいよ〜。写真撮るぞ〜!」
 奏が律と美琴を引き寄せ、そして俺を呼ぶ。
「俺たちのスタート地点、まずはバンドの集合写真だろ〜? ほら、少しは笑えよ、詩音!」
「笑うことはねーぞ、詩音。チャラチャラしたバンドじゃねーんだから。」
と律。ひとりニラみをきかせたような視線でカメラを見る。奏がいつのまにかカメラを用意していた。
 店長が「撮ろうか」と名乗り出る。
 笑うのは苦手だ。だからといって澄ました顔というのも・・・。
 どういう顔でいればいいのか答えが出ない間に、シャッター音がした。
 
俺たちはまだまだ始まったばかりだ。これから先たくさんの苦難がやってくることもあるだろう。だが、この先どんなことがあってもこの絆は解けない。解けさせない。

この旋律に導かれた絆はいつまでも続く。


「Farewell」

共に語った 夢は幻
思い出だけ置き去りにした
振り返えると引き込まれそうな
断ち切れない想いが残る

淡く 響く 旋律の音に
懐かしさが甦えってくるよ

君の表情から 光が消えたのに
それに気付かない振りをしていた
もしもあの時この想いを云えたら
君は今此処にいるのかな・・・

あの頃夢見た景色を捨てて
新たな夢を抱けたかな
お互い振り返らないと決めよう
共に過ごした日々には戻れない

君の場所には 違う誰かが居て
今も変わらずに歌を歌うよ
このメロディーが夢に届くように
歌い続けていくから
君の想いを添えながら

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