ライトノベル第四章八話【過去との決別】

 俺はベッドの上で仰向けになり、目を閉じる。俺のバンド人生はいつも結成と解散の繰り返しで、それに疲れ、諦め、ソロバンドとして活動していくことを選んだ。そんなバンド人生だが、すべてが失敗だったわけじゃない。
 初めてのバンドはまるで家族のように親しみ、時にはメンバーと真正面からぶつかり合ったバンドだった。このメンバーが永遠だと信じて。
 誰だって最初からこのバンドはダメだと思って活動はしない。
 だが、永遠ではなかった。
 解散するとメンバーとも疎遠になる。わだかまりがなく解散しても・・・だ。
 初めて組んだバンドのギターはとても親しかった。当時のバンドの曲をメインで作っていた。大々的にリリースしようって決まった時、俺もデモを作ってアレンジを頼んだっけか。
 そういえば・・・俺はおもむろに思い出し、ベッドから飛び起きる。そして、机の引き出しを開けると当時のバンドの集合写真が出てきた。リリース準備前の最後のライブのあとに撮ったものだ、懐かしい。この時はいいライブができたって、みんないい笑顔だった。すると当時の記憶が甦ってきて、俺はとっさにスマホをいじり出す。 
「たしか、このメールボックスの中に・・・。」
 当時使っていたメールボックスの中から、ギターが脱退する際に送ってきた一通のメールを探し当てた。
「これだ・・・。」
 思わず声が漏れる。メールには
 「詩音DEMOアレンジ版」
 というタイトルのデータが添付されていた。イヤホンを付け、そのデータを開き、聞いてみる。懐かしいギターのアレンジ。そして蘇る当時のバンドでの喜び。俺がバンドをやりたい本当の理由はそこにあった。仲間あってのバンドだ。
 だが、俺はずっと周りが自分から離れていくのを怖れ、いつしか一定の距離を保つようになっていた。俺は奏や律、美琴が歩み寄ってきていても、俺は彼らのそれに応えていなかったのだろう。また心を許した仲間がいなくなるのが怖かったから。自分の想いと仲間を天秤にかけるのが怖かったから。
でももしあの時、当時脱退したいと言い始めたメンバーに寄り添うことができてたら・・・。
 自分の想いより仲間を大切にできてたら・・・。
 今となっては当時のバンドは戻らない。
 だが、今の俺には奏、律、美琴がいる。だとしたら、今の俺にできることはこれしかない。
 本当は自問自答しなくても答えは決まっている。

 俺は・・・。

 俺が望むものは・・・。

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