ライトノベル第四章三話【今までになかった成功の感覚】

 四人の初ライブとして用意されたステージは、マイナーバンドの登竜門といわれているライブハウス「HEAVEN」。前回のライブを見ていた関係者が「HEAVEN」の店長に俺たちを推薦してくれたのだ。
「お客さん、すごいですね・・・。」
 と美琴。俺たちの前のバンドの演奏がかなり盛り上がりを見せている。舞台の袖で待機をしていると、感じることは人それぞれだろう。律に至っては、やる気満々で緊張の欠片も感じられない分、美琴がそれを背負わされているようだ。
 はじめは客の入り具合に感動し、盛り上がりに興奮し、だが出番が近づくにつれ緊張の度合いが増してガチガチになるまで時間はかからなかった。奏は相変わらずのポーカーフェイスぶりでいる。俺はいつもと違った緊張感が漂っていた。
「詩音?」
 奏が俺の顔を覗きこむ。
「緊張?」
 顔の表情で悟ったらしい。
「いい緊張感とは別の緊張がある。」
「初めては大体そういうものなんじゃないか? ただ、詩音がゆったりしていないと、美琴が大変なことになりそうだな〜。」
 奏が親指をたてて美琴を指す。ガチガチに緊張していたのはわかるが、さらに目が見開きすぎている。白目むいてぶっ倒れる寸前といっても言い過ぎではないくらいの緊張感がある。
「おい、美琴!」
 俺は彼の肩を掴み体を揺すった。
「大丈夫か? 雰囲気に飲まれるな。おまえは一人じゃない!」
 まるで俺自身に言っている言葉だ。
「え? あ、はい・・・。でも、でも・・・僕が失敗したら?」
 上擦った声。この声を聞いて美琴の状態がわからないはずはなく、やる気満々の律が美琴に近づく。
「失敗はつきもの、恐れる必要はない。おまえがコケてもオレがいる。それに、カバーをするのはオレたち全員だ。」
「そうだ、美琴。歌でカバーする。」
「俺は華麗なギターパフォーマンスで客の視線を集める。大丈夫だ。楽しむことだけを考えよう。俺たちは成功する。それだけの練習をしたし、それだけの曲を用意した。俺たちが楽しめば客にも伝わる。一体感が生まれるっていうのは、そういうことだ。今ステージにいる連中だって、正直、特別演奏に長けているわけでもないが、当人が楽しんでいるから、客も楽しいといういい見本だ。あいつらが場を盛り上げてくれたのをラッキーと思い、勢いに乗っていくぞ。」
 本来なら、そういったことは俺が言うべきなのだろう。
 だが、俺は適したキャラではない。適材適所、なにも俺がすべてを背負う必要がないということを教えてくれたのは奏で、それでいいのだと言ってくれている三人に俺は助けられている。

 そして前のバンドの最後の曲が終わり暗転。ステージのセッティング交換が行われ、細かい設定などは美琴に任せた。俺は離れた場所で発声を開始。奏と律は弦を押さえる指の動きなどをエアで確認していた。
 一旦ステージ袖に戻り、オープニングSEが流れ、俺以外の三人がステージにスタンバイ、中央にライトがあたり、俺がそこに立つと、ドラム、ベース、ギターが一斉に鳴り始めた。すでに前のバンドで場が盛り上がっていたため、冒頭から客の反応、ノリはいい。美琴以外の三人ですでにライブを経験していたこともあり、DOOMSDAYを知っている客も見当たるようになっていた。以前演奏した曲をアレンジしたり編曲し直したりはしているが、基本的な詞の変更はない。ネット動画などで覚えてくれたらしい。口ずさみながらノッている客は、俺たちDOOMSDAYを目当てにしていると思ってもいいだろう。ステージパフォーマンスでは、ギターとベースが見せつけたり、俺と奏が絡んだりして見せる場面も増やした。
「今日の客はノリがいいね。」
 近寄ってきた奏が俺に耳打ちをする。その行為がなにかを連想させたようで、客から歓声が上がった。そこに律が寄ってくる。
「またおまえらふたりでコソコソと・・・。」
 と俺に耳元で囁く。客からどう見えたのかはわからないが、さらなる歓声があがった。
「今日はノリがいいって話をしただけだ。」
 俺が返すと
「そうだな! もっと盛り上げようぜ!」
 と律は客を煽るようにジェスチャーをする。美琴は激しい緊張から脱したようで全体を冷静に見回し判断をしているようだ。律に追いつけとばかりに、美琴もパフォーマンスを見せる。スティックをクルクル回しながら叩くのは定番だが、簡単なようで実は難しい。美琴はそれをあっさりとマスターして、独自の回し方を開発したくらいだ。
 まるでバトンガールのバトン捌きをみているかのよう。大いに盛り上がり、俺は手応えを得たと自負した。
 ところが・・・この後、DOOMSDAYの致命的な部分に気づかされるのだった。

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