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神去なあなあ日常

ゴールデンウィークあたりのこと、Kindleでセールをやっていたので、ぱらぱらと眺めていたら、この小説があった。そういえば、出た時に気になっていたんだよなぁと思いつつ、手に取らなかったので、これはいい機会と思って購入してみた。しばらく眠らせておいたが、読み始めると、さすがしをんワールド。すぐに神去の世界に入ってしまった。

主人公は、高校卒業と同時に突然、三重県のとある村に送り込まれてしまう。そこで待っていたのは「林業」を生活の中心とする世界だった。携帯電話も取り上げられ、実家に帰ろうとするも強制送還され、神去の世界になかなか馴染めずにいる、そんな主人公の姿が描かれる。

林業を通して、山の神様との関係や、村社会ならではの人間関係の様子も丁寧に描写されていて、すごく細かい表現が多いなという印象を持った。主人公の姿も前半と後半では異なっており、作品を通して一人の青年の成長も見て取れる。

この時に書いた「マナーはいらない」で、三浦さんは主人公の視点を一人称で書くことについて言及している。「神去~」は、主人公の日記を我々が見ているという視点で描かれていて、主人公の心情を非常によく表現されている。一人称の欠点としては視点が狭くなってしまうことだそうだが、他の登場人物のキャラ設定がしっかりしていて、彼らが繰り出す会話表現によって、狭くなりがちな世界観を広げるような仕掛けになっている。もちろん主軸は主人公の成長なのだが、スピンオフもできそうなくらい他のキャラが立っている。そんな感じだ。

若者の心情の書き方が上手いなと思うのは、(風が強く吹いているなどの)他の小説でも同じであった。そして、物語のテンポ感。さすが、直木賞の選考委員である。ハード版の初版は2009年とのことで、中期くらいの作品にあたるが、続編も出て映画化もされているので、人気作品であることに疑いはない。何かとんでもない事件が起こるわけでもないこの作品がここまで色々な人に読まれているというのは、一つ一つの描写の素晴らしさを読者が感じることが出来るからこそなのだろうと思う。

#読書感想文

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