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詩集

69
詩が集まって何かしています。 背景はときどき変わります。 (一時的に非公開になる詩はそのうち帰ってきます)
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#詩

空砲

断言の弾薬をつめた傘をさし
曖昧なすべての季節から
身を守っていると
空から人生が降ってきて
世界中に散り積もっていった
みな必死で人生を取り除こうと
働きつづけ
季節も傘も忘れてしまう
薬莢だけが見つかって
どこが撃たれたのかもわからない
そうしてぽっかりと
空いた穴を抱え
わたしたちは
空に還ってゆくのです

鼓動

なきぐせのついた髪を切り
ねこぐせのついた背を伸ばす
交代で足湯に浸かるように夢を待ち
夜となにかを交換して
眠りをもらう
失ったあとでは気づけないけれど
空白へは歩いてゆける
そうだったと言いたくて
おぼえに限りをつけました
ふしぎを何度もさわりたい
ひえて
あたため
とびはねたい
一瞬の別れを
たえまなく繰り返して
どこまでを
わたしと呼ぶのか
どうしたら
あなたと呼べるのか
からだのなかで

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九月

放課後のような顔で目覚めると
世界は授業中だった
わたしはひとり
窓を見つめ
中か
外か
わからない場所でゆれている
夏の抜け殻を
硝子に写していた
長く
気づいていたわたしを抜けて
うまれた影が
空を知りたがっていた
降り積もる
からだを
浴びながら
その先を
知りたがっていた

ルミネセンス

夏と
海に
ほんとうは
親和性なんてないこと
知っているのに
ただ落差にふれたくて
熱さと冷たさに橋を架けた
混じり合えば
ぬるいだけの
その季節をあしもとに沈めて
いくらでも歩ける気がしていた
突き刺さっても
流れ出しても
なんなのかわからずに
気づけなかった言葉を
踏みつづけて
声は光っている
陽射しよりも
きっと、強く

あしたのきのう

長いだけのことばを分度器のように当て続けてきみは世界をはかっている
それでわかるのは一日の退屈の角度くらいのものじゃないか
晴れたのは間違いでした
天気予報できのうを謝られたみたいな気持ちで
きみはきみのかたちに裏切られてきたんだろう
ぜんぶ細胞だなんて信じられない
それぞれに命なんか持っちゃって
わたしを絶対に除け者にしたくない神さまだから
有限と無限があるとか決めてしまう
その二つはおなじもの

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夢の影

眠っていることは
やさしさのかたまり
カメラになろうとして
きみの写しを汚してしまった
街灯がきえる瞬間
つく瞬間
それぞれに想像して
どちらが
やわらかいか考える
迎えてくれるなら謎でもいい
よいことを積みあげて
積まれた下で過ごしたい
はさまれなければ街じゃない
泣きやみすぎてキャンバスがさびしい
浮遊する
まっしろなら
得意なのに
冬をする場所がたりない
いろに力がおおすぎて
いるをつづける

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あいにくのわたしで
ぜんぶ兵隊で
墓は行列で
海を眺めています
構造としての声は棄てて
いきものの
不始末を
続けています
夜が混ざった顔をして
境目もなく
泡になり
世界中にひたされた
ことば
決して
ひふにはなれないのに
すくうことを決めた
わたしたち

ざんぞうのみ

昆虫がいきものだったのは
子供のころだけでした
そっ
とつぶやいて
そっとしているつもりの
袖口から
さっと
指を
殺到させて
字を
なでる
指紋と
あらそった
汗が
ぬるま湯に近い
意味




ガラス



流れてく
残像の海をただよいつづけてなんになるの
現像された実像も虚像です
だっていきものじゃないし
声も姿も
ダビング
されて
コピー
されて
本物のように飛び交って
わた

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はりつける

取り扱いが終了している朝をさがして
ふくらんだ夜を食べて歩く
説明には
どこか
他人事さがある
うわつきを叩き落とし
当事者だけになったとしても
ことばがもうみつからない
永遠にだってやり残しがあるし
後悔の背中はぞっとするほど
美しいと聞くよ
一瞬にあらわれる
いったんを区切る
そのいったんが
わたしなのだ
いったんでしかない
区切りの中で
箱庭をつくる
ほかのだれの
なんのためでも
なんのいみ

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通りすぎたあと

わたしたち
通りすぎたあと
通りすぎたあとにいる
貧相なスポットライト
浴びながら
どこも目指せずに
さなぎになったまま
絶命した昨日をねぐらにして
光景
あったことの気づかれなさは
警告も猫の死体も同じようなもの
しにしつはありません
たくさんの空漠があるだけ
われてるかな
さめてるかな
いびつがよくばって
球体のふりをしたまま
転がってみせて
すぐに止まってしまう
動いているのが懐かしい
過去

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夢みたい

発電しなければ
止まってしまいそうな一日を
なんとか動かしているって
君は言う
そんなに発覚しなくてもいいのに
そとを歩いてるつもりが
ずっと現実の中でした
ってことになっちゃうよ
わたしたちの強さはただひとつ
現実のそとを
歩き出せるということ
でなければ
現実を見つめたり
触ったり
嫌ったりなんてできないよ
夢にみるくらい
印象的な
現実
いちど夢みてみたかった
ぜんぶ夢であってほしかった

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ハートオブサイレンス

目立った外傷をさがして
暗闇を歩く
顔のない心と
路線図をすてた足音だけが
底にはりついて
水面も揺らさず
老けてゆく
甘いのだ 広告は
ひろがりすぎて
だれに告げているのか
わからない
わたしたちは
千載一遇のわたしたちです
見逃してはくれないから
すべて聞き流しています
何行たっても忘れられない
はりついた足音が
沈黙になりたがっている
ことばを
ひらき続けた
立体なら
みつけてもらえるのに、

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エウレカ

間近ではないひらめきが見えて
歩き出すことが
その輝きを消してしまったように
思えること
距離がなければ
ひらめきを覗けない
あえて
ぽっかりとしているのだ
いつか驚くため
あたまに空間を乗せて
なにもなさに
愛を送る
うごいているから
とまっているものにさわれるの
打ちあけて
飛びおきて
落ちのびて
まだ歩く
すこしも
不思議じゃない
生まれたときから
そうだった
だから
みんな
このいのちに

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夜をそだてる

余計であることから
始まった
会計のない商品として
この星にならぶ
どうして
わたしたちは
何かを失えば
何かを得られると勘違いして
命を支払おうとするのか
失いを盾にしても
光は突き抜けていく
その変わり果てた光の
通り道を
闇と呼んで
わたしたちは夜を作った
蓋をのぞけば
報われると信じて
足もとを転がり続ける
丸みのないからだを
ゆっくり削りながら
空のかたちに
あこがれて
しわを刻んだ

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