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【本】中村逸郎『ロシアを決して信じるな』(新潮新書)#読物語

P.9「こうして全面戦争の準備は開始された。しかし、〔核兵器の起動〕システムはうまく作動しなかった。幸いにも、全世界は救われた」

 筑波大学の名物教授の著書。いかにも国際政治の本っぽいけど、中身はほぼ、沢木耕太郎を彷彿とさせる上質なエッセイ。旧ソ連時代からロシア各地に出没してきた著者と、ロシアの人々そして社会との出会いが織りなす異次元的ドラマが描かれる。

 著者が出会ったロシアの人々は語る。

P.53「ここは日本ではありません。ロシアですので、明日、なにが起こるのか、だれも予想できません。あなたが明日のことを心配するなんて、わたしには驚きです」

P.119「いやいや、ウオッカを飲むから安全運転できるのだよ」

P.135「神様!わたしがロシアに生まれたのは、何かの罪の代償なのでしょうか」

P.193「とにかく、やみくもに突進することです。自力で、最悪な状況を突破することです」

 ・・・。正しいタイトルは『不可思議の国のロシア』ではないか。

 こんなロシア社会で著者が直面した数々の不条理や悲劇というものは、程度は違えど私たちの人生にもあるのではなかろうか。それでもどっこい生きてきたのがロシア人であり、中村センセイである。

 なお、旧ソ連時代には党の機密書類をこっそりコピーし、大統領選の時には「プーチン偽物説」について街頭インタビューし、極上のウオッカを堪能してシベリアの荒野を駆け抜けた中村センセイは、今も元気に生きています。少なくとも執筆時点までは・・・。(新潮新書、2021年、814円)

〔2021年12月17日 組合機関紙〕


【紙面】


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