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従業員、株主、経営者に優劣などない。

株主優待券利用時の違和感。

 私は日本株に関しては、税制上有利な高配当銘柄と、小口の個人投資家に有利な株主優待銘柄の合わせ技で、アクティブ運用している。

 最初こそ数万円の配当金、数千円相当の株主優待だったものの、社畜時代に継続的に入金しては、選定した銘柄の中から割安と思える水準であれば、買い増していた甲斐もあり、現在は家計で無視できない規模の配当金や株主優待の恩恵に預かっている。

 とはいえ、優待銘柄の中には廃止、改悪リスクや、業績不振な銘柄も散見されるため、日常使いの店舗全ての銘柄を保有しようとは思わず、必要に応じて金券ショップを利用している。

 つまり、ただ単にしみったれているだけでなく、業績悪化、無敗転落、優待廃止でインカム、キャピタル双方で損失を叩き出すような、一蓮托生な結末が想像できる企業の株式は保有せずに、優待だけを現金で買い取る、ある種ドライな側面まで持ち合わせている辺りに、私の畜生っぷりが垣間見える。

 因みに優待クロス取引は、もはや有名になりすぎて、みんなが同じ行動を取った際の逆日歩を考えたら、リスクに見合わないと判断している。

 そんな優待も、モノホン株主なら定期的に贈呈されるため、毎年、優待の範囲内で買い物をするが、株主もどきの場合は金券ショップで買い集めるため、一般客の時と、株主もどきの時が混在している。

 性格の悪い私は、一般客と株主もどきの時とで、接客にどれほどの差があるか。その企業の株主に対する方針が、綺麗な建前と現場の間に、どの程度のギャップが生じているかを、ある意味、実体験で企業を試している節がある。

 ある日、株主もどきとして、初めて優待券を利用した小売店で、これまで経験したことのない、VIP対応で中年従業員からもてなされた。

 私は20代の若造で、目上の人を敬う儒教が根強い日本人の感覚として、丁重にもてなされることに対する優越感よりも、資金力がものを言う資本主義社会によって、通常ならば起こり得ない、目上の人に敬われる逆転現象が起きてしまうことに対する、恐怖感にも似た強烈な違和感を覚えた。

 これがマニュアルなのか、個人特有の接客スキルによるものなのかは、何回も利用して精査する必要があるものの、もし前者であれば、「株主様は絶対」的な社員教育によって、本来は対等である筈の従業員、株主、経営者のパワーバランスが崩れている何よりの証拠ではないだろうか。

日高屋の自社株従業員譲渡。

 そんなことを感じながら、5月12日に放送された「ガイアの夜明け」をTVerで視聴したところ、首都圏民は日高屋でお馴染みの、ハイデイ日高の創業者である神田正会長が、自身が保有する株式を、アルバイト、パートを含む全従業員に、無償譲渡する話題が取り上げられていた。

 日本株界隈では周知の事実となっていたものの、2018年にも贈与しており、今回で2度目となる。

 日本人が会社選びで重視する項目として、知名度、世間体、給料、正規雇用が挙げられるが、ストックオプションに関心を持つ人はほぼ居ないだろう。

 以前に持株会は雇用先と一蓮托生となってしまうため、否定的な意見を記している。自社株を保有する意味では、持株会もストックオプションも変わらない。

 しかし、前者は給与から税金と社会保険料が差し引かれた、可処分所得から拠出するのに対して、後者のハイデイ日高パターンは無償譲渡かつ換金自由のため、給与+@と捉えられ、個人的には同じ自社株保有でも話が変わってくる。

 仮に給与水準が業界内で平均的だったとしても、給与とは別枠で、勤続年数や役職に応じて、定期的に自社株が譲渡されるなら、従業員かつ株主の二刀流となることから、懸命に働いて業績を伸ばした恩恵を取りこぼさずに済むため、従業員の士気向上に一役買う可能性が高い。

 内部関係者である以上、インサイダー取引の線引きを考えると、事実上退職するまで売却できない資産に等しいため、給与から積み立てる持株会よりも、元から有って無いようなストックオプションの方が、心理的にはプラスに捉えられる。

 それに、末端の従業員ひとりひとりが、経営者目線で業務に就くことで、利益を確保するために、従業員なら何ができるかを自発的に考えて、創意工夫をするかもしれない。

 経営不振を自分ごとで捉えるようになれば、ストックオプションを紙切れにしないためにも、会社を絶対に潰さない一心で、真剣に経営再建に取り組む筈である。

 そうなれば、従業員でありながら、株主でもあり、経営者の目線を持ち合わせた、垣根を超えた人材が集う組織となる。株主様が最も偉くて、次に経営者、従業員は人権なしと言わんばかりの組織よりも、経営力が絶対的に強いのは想像に難くない。

 そもそも株式会社を創業した際の株主は、創業者+出資者で構成されており、所有者=経営者と捉えられる。やがて、会社の規模が大きくなり、株式が上場することで、出資の権利を小口化した株式は、市場での売買を通じて資本家の手に渡り、所有者≠経営者となる状態を「所有と経営の分離」と称し、現代の従業員、株主、経営者に分立した形態に至る。

 つまり一旦市場を無視して元を辿ると、経営者=株主であり、ストックオプションを付与することで従業員=株主にもなる。そして、経営者目線を持つ、現場叩き上げの従業員が経営者になることを踏まえれば、本来、三者は同列な存在で、優劣などないと捉えられる。

 そう思うと昨今の資本主義社会で、当たり前だと思い込んでいる株主>経営者>従業員の構図が歪に見えてくる。

 創業者は成功を掴んでも慢心することなく、私利私欲に溺れて保有株式を独り占めせず、神田正会長のように「ここまで来れたのは社員のおかげ」と、社員に還元する文化が根付けば、資本主義経済は今よりもみんなで豊かになれる気がする。


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