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鉄道が公共交通ではなくなる未来。


相反する公共性と営利性。

 物流2024年問題が叫ばれて久しい。トラックドライバーの残業時間規制を強化することにより、現状と同じだけのモノが運べなくなることが懸念されるからだ。

 これに対して、トラック輸送が限界なら、モーダルシフトで長距離輸送は鉄道に切り替えたら良い的な解決策が、マスメディアで論じられているが、鉄道もまた運輸物流業界の構造から大差なく、従事者の薄給激務によって、公共交通という名のインフラをかろうじて維持できているに過ぎず、一部の地方鉄道では綻びが生じている。

 営利目的で事業を営む民間企業でありながらも、その地域での旅客運送において、ある種の独占を認める代わりに、国が運賃に対する上限規制を設けて、国民の足、移動する権利を確保しているのが公共交通機関の大枠だ。

 つまり、運賃収入だけでは限界があり、人口減少時代やICT化に伴い、鉄道事業単体では将来、収益が増える見込みはなく、全体として縮小傾向にある。

 利益は収益と費用の差分から生まれる。収益増加が見込めない中、営利企業として利益を確保するためには、費用を削減する他ない。その構造に、日本的経営の年功序列が牙を剥き、若手ほどアルバイトに毛が生えたレベルの安い人件費で、人命を預かる重責を負う構図が完成する。

 元業界人だからこき下ろせる節はあるが、ワンミスが文字通り命取りになるような日常業務を繰り返し、最悪の場合、刑事事件で逮捕されたり、新聞に名前が載るリスクがある。

 それにも関わらず、若手の手取りは月20万円を超えないどころか、国交相のパブリックコメントで、某大手私鉄のネットミームである、13連勤手取り14万電鉄が登場する始末と、嘘偽りなく生活保護に毛が生えたレベルの低賃金。

 誰かの言葉を借りるなら、日本がおわってんじゃなくて「お前」がおわってんだよwwwと返されるような人たちがゴマンと居ることで、公共交通が支えられている状況と、公共性と営利性の相性の悪さの歪みが、労働者に直撃している節はある。

低賃金だと、経済も成長しない。

 こんな「やりがい搾取」な業種など、頭の良い人ほど寄り付かなかったり、一目散に逃げ出すのは明白で、その結果、慢性的な人手不足となっているのだから、自業自得としか言いようがないが、その非利益を被るのは公共交通を利用する、地域の方々なのは本当にやるせない。

 公共交通がどんどん不便となる大枠は、利用者減→採算悪化→コストカットで待遇悪化→薄給激務な仕事など誰もやりたがらない→慢性的な人手不足に→減便で利便性悪化→利用者減。

 負のループの中でコロナ禍が直撃し、バス業界は既にジリ貧を通り越して限界。地方の鉄道も綻び始めてきたところで、近い将来に、車両はあっても動かせる人が居ない状況と化す可能性は高く、機械化以外に改善する見込みは今のところない。

 そもそも、日本は長年のデフレ経済で、経営者は人件費など安くて当たり前。労働者も年功序列、終身雇用なら賃上げ交渉せず、雇われるだけ有難いマインドが蔓延った結果、設備投資によって機械化するよりも、人間を使い潰したほうが安いことから、ブラック企業、ブラック労働が蔓延した。

 一石を投じたのは、某大手広告会社の若手女性社員の過労自殺だったように思うが、karoshiが英語辞典に掲載されたのが2002年と、それ以前にも過労死や過労自殺は間違いなくあったはずだが、男性社員の過労死や過労自殺は当たり前的な不文律から、黙認されていたのであれば、本当にこの国は男女平等なのかと思う節はある。

 話を戻すと、低賃金という現代版奴隷労働によって、機械化のインセンティブが働かず、いつまでもマンパワー頼みで労働生産性が改善されなかった結果、国際競争力は低下し、経済が長期低迷。

 国力が低下すれば、当然日本円の価値は相対的に下がるため円安になる。通貨価値は低いものの、一応はバブルに追いつけ追い越せの経済大国だった栄光を引きずっている影響からか、等しく貧しくなっていても表面上はスラム化しておらず、海外旅行者目線で見れば、安い国ニッポンとして魅力的となっているのが現状だろう。

 オーバーツーリズムから、ようやくお金を持っている層に、いかに気前よく支払って貰うか的な発想をするようになったが、多少吹っ掛ける形でも、取れるところからお金を取らないと、労働者は安いまま、経済規模も時間経過とともに縮小していき、失われた30年が、40年、50年と続くだけで、そこに明るい未来はない。

LRT新設は疎か、既存路線の維持に窮する。

 ここに鉄道が公共交通ではなくなる未来のヒントがある。通常、民間企業であれば、売上を増やすために、単価×数量のいずれか、または両方を増やすよう努めるが、公共交通機関はヤードスティック方式により、原価+適正な利潤に見合った運賃しか設定できない規制がある。

 つまり、単価には国交相によって上限が設けられ、数量は人口減少で低下していく以上、売上を増やすのが無理ゲー化し、経営努力は経費削減の方向に向く。

 その結果が、人手という名の奴隷不足で減便を余儀なくされたり、もはや本業が赤字、稼ぎ頭は不動産業ですと言わんばかりのセグメント別利益で、自動改札のない駅を無人化した上、ワンマン運転で検察もなく、不正乗車の温床疑惑が浮上する程度に、本業が疎かになっている上場企業が出てくる始末。

 営利企業としての体裁を保つのであれば、運賃規制は緩和すべきだし、公共交通としての体裁を保つのであれば、運賃規制によって採算が合わず、従事者に還元されない部分を税金で賄うべきではないだろうか。

 このままの薄給激務では、若手が寄り付かず、定年退職に伴う自然減でも減便を余儀なくされ、あまりの不便さから、誰のための交通機関なのか分からなくなる可能性が高い。

 既に設備投資を渋る程度に財務面で厳しいのだから、にっちもさっちも行かなくなった頃に、自動運転化するお金などないだろう。

 最近は、LRTの新規開業の話題で持ちきりだったが、今後、地方自治体はLRTの新設は疎か、既存の鉄道路線の維持に窮する局面が到来するのではないか。というのが元業界人としての見立てであるが、未来がそうならないことを切に願う。


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