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答えはJR(9020)に聞け。

2022年2Qに営業収益プラ転も物議。

 記すまでもないかも知れないが、表題はJR SKI SKIのキャッチコピーのオマージュであり、JRへ問い合わせることを助長する意図はない。そのため、たとえ本記事を読んで消化不良に陥ったとしても、あくまで自己解決に努める様にして頂きたい。

 同業他社の現業職員が適当に記した記事の内容を鵜呑みにして、JRに問い合わせたことでいかなる損害が生じたとしても、こちらで責任を取ることはできないからだ。

 概要としては、2022年の第2四半期(中間)決算で営業利益がアフターコロナ後に初めて黒字となったものの、これはSuica発行時に預かるデポジット(500円/枚)やSF残高のうち、一定期間(恐らく10年)経過後の未使用分を、流動負債から収益に計上したことで、鉄道事業そのものは未だ赤字経営にも関わらず、会計上の見積もりを変更させることで黒字に転換させるという、同じ芸当は二度と使えないであろう荒技を使って無理やり黒字転換を装ったことに起因するものである。

 実際に決算短信の7ページに本業である運輸事業のセグメント利益は173億2,700万円と記載されており、8ページのSuica見積もり変更で、運輸事業の売上高が222億4,300万円増加したと記されていることから、純粋な鉄道事業そのものは未だに49億1,600万円程度の赤字であることが読み取れる。

 会計上、利益は収益−費用によって算出されるから、売上高と利益は別物であり、本来であれば単純な引き算で純粋な運輸事業のセグメント利益を算出することは不可能にも思えるが、今回のSuica見積もり変更に関しては、勘定科目のラベル替え(流動負債→収益)を行っただけで費用が発生していないどころか、キャッシュフローにも何ら影響を及ぼさないことから、売上がそのまま利益に直結させる他なく、単純計算で本業が赤字であると言い切れる。

そんなに資金繰りが厳しいのか。

 紹介している記事でも指摘されている様に、簿記の知識がある方であれば、Suicaの見積もり変更は特別利益として計上するのがセオリーだが、あえてこのタイミングで運輸事業の売上高に組み込んだことから、赤字続きの本業が回復したことを金融機関にアピールして、融資を受けやすい状況に持っていきたい思惑があったのではないかと言う推察は辻褄が合う。

 数多くのステークホルダーを抱えるJR東日本が、簿記2級程度の知識があれば気付けるレベルの、あからさまな手段を使ってでも格付けを死守して、金融機関からの融資を受けたいのは、それだけ鉄道事業の資金繰りが厳しいのである。

 決算短信6ページのキャッシュフロー計算書に目を通すと、現金及び現金同等物の四半期末残高は2,014億8,500万円と記載されており、3ページの貸借対照表には流動負債が1兆4,323億6,300万円と、1年以内に償還しなければならない負債の総額と比べると手元にあるキャッシュはまるで足りていない。

 2ページの流動資産が9,621億8,800万円には、先述の2,014億円も含まれているが、それを考慮しても流動比率は67.17%と、一般的な事業会社の120%あったら安心な感覚で財務諸表を見ていると心許ない。

 数字の読める業界人として弁解すると、鉄道事業の性質として在庫や売掛金がないビジネスモデルだから、流動比率が50%切った自転車操業状態でも経営は回ると言われている。

 現に流動比率が50%を割っている小田急、東武、西武でも、JR東日本よりも厳しい状況である可能性はあるが、経営破綻の噂もなければ、株式市場でそれを織り込んだ株価にもなっていないように思えることから、一概に流動比率だけでは判断できない。

日本航空の経営破綻に学ぶ。

 会社が倒産するのは、払うべき時にキャッシュが支払えなくなった時である。そのため、いくら1年以内に償還しなければならない負債の合計額に満たない現預金しか貸借対照表上になくても、在庫を持たない運輸事業で回収した現金や、金融機関からの融資などで調達して、キャッシュフローが回っていれば倒産することはない。

 とはいえ、2020年から2022年まで、純粋な現金の増減を表すフリーキャッシュフローは3期連続してマイナスで、自己資本比率も2020年→2022年で36.9%→26.3%と推移しており、仮に疫病が強毒に変異して、2020年の様な自粛せざるを得ない状況がもう何年か続き、無策のままの悲観シナリオだと、数年で自己資本比率10%台になりかねない水準ではある。

 それに、電鉄会社が流動比率が50%割っても回るのは、本業で利益が出ていることが前提条件であり、現在のJR東日本は莫大な固定費用に対して、損益分岐点すら越えられない申し訳程度の売上しかなく、今は繁忙期にコストを掛けて増発して売上を増やすと言うよりは、固定費用を削減する方向で運輸事業を黒字にして、少しでも現金をかき集める他ない。

 2022年3月期時点での借入金等の返済予定額の合計は、1年以内が1,110億円、2年以内が約3,734億円、3年以内が約3,314億円、4年以内が約2,276億円、5年以内が2,813億円と、来期の2023年4月〜2024年3月の負担が最も重く、来季に融資を受けることを見越して、金融機関に提出するであろう財務諸表を取り繕う意図でSuicaの見積もりを変更したものと思われる。

 固定資産が膨大ならそれを売却すれば資金調達できると思われるかも知れないが、固定資産の大部分が土地、線路、駅舎、各種設備、車両と、事業に必要不可欠なもので、これらを売却することはピーク時間帯の大幅な減便を意味する。

 かつての阪急電鉄のように、鉄道車両をリースバックするスキームもやって出来なくはないのかも知れないが、これは数年後に買い戻す前提の資金調達と節税目的で行った経過から、資金繰りに窮した際に繰り出す手法としては適さないものと思われ、固定資産の売却が見込めない以上は、信用力を担保に融資を受けてキャッシュを回すしかないため、今回のSuica騒動が妥当な判断だろう。

 いずれにしても、小林一三方式の「乗客は電車が創造する」ビジネスモデルが、人工減少や疫病で通用しなくなっている感は否めず、鉄道各社はこれまでとは違うアプローチで事業の多角化をしなければ生き残れない時代に突入したのかも知れない。


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