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質問に真正面から答えない風潮。

次回、営業マン死す。

 「今、電力会社を切り替えるとポイントが〜」。地方に移住して、久々にいかにもなショッピングモールで、いかにもなキャッチにロックオンされた。懐かしさすら感じられたから不思議であるが、都市部ほどの強引さはない。

 最初は情弱のカモ感を醸し出し、途中から理詰めで営業マンの言葉を詰まらせては恐怖心を植え付ける悪趣味で、百戦錬磨な身としては、この段階でアニメの遊戯王で伝説となっている、ネタバレ次回予告が脳内再生されていた。

 性根が腐っているため、ゲームセンターで暇つぶしする感覚で、しかもコストがゼロでゲームよりもスリリングな分、あまりキャッチの段階ではあしらわないから、なおのことタチが悪い。

 そうして中身がありそうでない、見栄えだけが取り柄のパンフレットをテーブルに並べられ、長々と中身のない説明が終わった矢先に、「肝心の料金表が見当たりませんが、料金は具体的にいくらなんですか?」と質問を投げたところ、「うちは再エネですので」と質問に対する答えが返ってこなかった。

 勧めている本人が、プランの中身を把握していないのだろう。3回くらい同じやり取りをしたところで、「料金シミュレーションがこちらにあります」と、取って付けたような説明でQRコードを指した。

 営業マンも所詮バイトか、社員だとしても、料金表の数字をソラで言える人に出会った試しがない。

知識武装するほど、質問は直球になる。

 私は自分の契約全般、少なくともプランの構成は把握しているし、携帯電話や電気料金などはソラで言える程度に、シビアに比較検討した上で今の契約に至っている。

 時代の潮流で価格破壊が生じない限り、現行ではいち個人の状況の中で、理に適ったベストなプランを契約している訳だから、新しいプランを「知らなかった」以外で言い負かされることがない。

 だからキャッチに捕まっても、営業マンの回転率を落とすだけの、ジョーカー的に機能する。

 結局最後まで料金表は出てこなかったのと、格安SIMあるあるで、試算フォームの読み込みが遅く、契約アンペア数以降の入力欄が1分近くグレーアウトして選べなかった。

 そのため、「R天でんきさんですと、30A以上でないと申し込めませんが、おたくもそのパターンではないですか?20Aを選択したらシミュレーション出来ませんけど。」とカマをかけたら、長々と説明していた時の自信は、どこへ行ったのやらと突っ込みたくなる程度に、しどろもどろな応対となった。

 「そんなことはないと思いますが…」「具体的に何アンペアの契約を取り扱っているのでしょうか?」「…」「具体的な料金が提示されない状況では、月々の支払いがいくらになるのか分からないので契約できません。」「そうですよね…」「もういいでしょ?」

 格ゲーのコマンドがきれいにキマった感覚で、嬉々としている私と、惨敗した営業マンとで、テーブルを境に結婚式とお通夜くらいの温度差になったところで、その場を離れた。

 予備知識で全体像を把握することで要点を理解すると、そこがウヤムヤにされている時ほど、むしろ核心に迫るド直球な質問を投げやすくなるのは、不用意に丸め込まれない自信の裏返しとも言える。

 一概に自信過剰が良いとは思わないが、自分のペースで会話や交渉が進められる意味では、自分の頭で理解できる領域まで、時間を掛けてでも噛み砕きながら、単純化して理解しようと努める行為は決して無駄にならない。

心のキャッチボールができない野球大国。

 日本は野球大国とも言われる程度に、野球が国民的スポーツである所以からか、円滑なコミュニケーションの例えで、「心のキャッチボール」の表現がしばしば用いられる。

 一世を風靡した国民的アイドル歌手の曲にも、同じタイトルが使われている影響も、少なからずあるのかも知れないが、いかんせんその時代に生まれていないので、当時の空気感はよく分からない。

 私の出身校である某工業高校は、入学時よりも頭が悪くなって卒業する、世間一般のステレオタイプに恥じることなき、典型的な悪名高さを誇っている。

 それ故にクセの強い者が入り乱れており、てんでコミュニケーションが成立しない様子に因んで、「まるで心のドッジボールや!」と誰かが言っていた。

 ウマい。言い得て妙だし、何より今風に言えばパワーワードで、数年経過した今でも「心のドッジボール」は頭から離れない。

 学生のドッジボールなら笑い事で済まされるかも知れないが、冒頭の営業や、国会の答弁でキャッチボールではなく、ドッジボールをしているようでは、目も当てられない。

 石を投げれば〜の諺ではないが、一方的にボールを投げて、カモの懐が痛い思いをしたら勝利する状況であれば、自衛手段として同等以上の攻撃力で制する他なく、それが不本意でも「知識武装」につながってしまうのは、昨今の国防を見ているようだ。

 せめて自分くらいは、質問に真正面から答えたいものである。


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