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iDeCoや老後資金に対する雑感。

全額所得控除は魅力的だが...

 以前、節税が目的化してしまうと少しの納税をケチるために、ゴミまがいの保険を契約してお金をドブに捨て、結果として手元にお金が残らないと記したが、あくまでもボッタクリ保険料控除に対してである。

 iDeCoは掛け金の全額に対して、所得控除の対象となる。会社員なら月2.3万円が上限、自営業者であれば月6.8万円、社会的に恵まれている公務員ですら月1.2万円まで掛けることができ、掛け金の全額が課税所得から差し引かれる。積み立てた分の収入はなかったことにされるのだ。

 手元にお金が残らないボッタクリ保険と違い、60歳以降に出金できるから、手元にお金が残るどころか、適切に運用できていれば増えている。節税しながら非課税で資産形成を行える点で、NISAよりもメリットが大きい。

 年収400万円ほどであれば、所得税率は5%だから、会社員なら2.3×12×15%=4.14万円の節税、自営業だと6.8×12×15%=12.24万円の節税、公務員でも1.2×12×15%=2.16万円の節税となる。

 60歳を過ぎないと引き出せない縛りのある口座にお金を入れるだけで、その分の収入はなかったことにされて税金が安くなり、そのお金は引き出せる頃にそのまま残っているどころか、投資商品によっては増えているのだから、錬金術のような感覚である。

 そんな夢のような制度を私が利用しないのは、60歳を過ぎないと引き出せないことのデメリットが、これまで説明したメリットに釣り合わないと考えているからである。

60歳で大金を手にする意味はあるのか。

 iDeCoの趣旨が少子高齢化に伴って、賦課方式の年金制度が改悪する未来が目に見えているから、国民は年金を当てにせず、老後の資産形成に備えるための優遇制度であるため、純粋な資産形成を優遇するNISAよりも使い勝手が悪いのは百も承知だが、そもそも論、老後にいくらあれば安心できるのだろうか。

 答えは人に依る。厳密に言うなら、老後の生活レベルをどの程度まで落とすことを許容できるかに依る。と言った表現が的を得ている。

 毎月13万円以下の暮らしで問題なければ、蓄財なんてせずに潔く生活保護を貰えば良いし、それ以上の暮らしがしたいのであれば、国民年金+厚生年金から不足する分をiDeCoで積み立てておくか、生涯現役として貫く覚悟を決めれば良いだけの話である。

 決して金融資産を2,000万円形成したから安心出来るかと言えば、大半の方はそうはならないだろう。2,000万円の次は3,000万円、5,000万円…とお金を追い求めればキリがなく、いつまでも安心できないまま蓄財し続け、いつかは終わりを迎える。滑稽ではないだろうか。

 安心するために必要なのは、いざという時に自分ひとりで生き抜く能力や覚悟と、生活の固定費を上げないか、場合によっては下げる勇気であって、資産の多寡は数十億円単位で配当収入だけで年間数千万円なんて規模でもない限り、大して重要ではないし、お金を持っていたところで、使う相手が居なければ価値はないと私は考えている。

 漠然と老後に2,000万円を備えようとする人は多いが、その2,000万円を使う相手先の多くが医療機関や介護業界であることを認識している人は思いのほか多くない。現役時代の生活で何かを我慢し、切り詰めてまで資産を形成して、人生の最期を数ヶ月から数年延命するだけの価値が、本当にあるのだろうか。今一度自問自答して、方針を決めた方が良い。

若い時に蓄財しても、報われるとは限らない。

 第一次世界大戦で敗戦したドイツは、賠償金を支払うためにマルクを刷りまくった結果、自国でハイパーインフレが発生した。

 それにより、勤勉に働いて貯蓄していた兄よりも、仕事はそこそこに毎晩ビールを飲んだくれていた弟の方がビール瓶と言う資源を持ち合わせていたため、兄は貧乏になり、弟は金持ちになったのは有名な話である。

 目まぐるしく変化する現代で、10年先はおろか5年先すら見通しが立たないことは、昨今の疫病や戦争による世界情勢の変貌でも明らかである。2017年頃にグローバル社会が崩壊しつつある現在を、誰が予想しただろうか。

 5年先が分からないのに、現代の若者が老後の事を考えて備えたところで恐らく無駄骨なのである。仮に物価が今のように10%単位で毎年上がり続けるなら、7年ちょっとで物価が倍になる。そうなれば、今の2,000万円は、将来1,000万円程度の価値しか持っていないかも知れない。

 だから、ひょっとしたら2030年のiPhoneは20万円かも知れないし、2040年には40万円になっているかも知れない。老後のために備えた2,000万円が、今の2,000万円と同価値とは限らないのである。

 実際に現在価値(PV)を全世界や米国株式で長期的に見込めるリターンである年率6%に換算して算出すると、60歳の2,000万円は、20歳の195万円相当の価値しかない。60歳で2,000万円手にするよりも、20歳で200万円手にした方が価値が高いのである。

 これは経済的価値に留まらず、お金を使えるだけの体力や、知識や経験に変えることで恩恵を受けたり、思い出を味わえる期間も余命が長いほうが価値は高くなる。老後のためを思って人生で一番若い今を犠牲にするのはナンセンスではないだろうか。

 報われるかは未来にならなければ分からないが、今を幸せに生きるかどうかは自分次第なのだから。


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