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最近の金融市場動向(2023年3月)

急激な金利上昇は歪みを伴う。

 言わずもがな、3月10日に米銀シリコンバレーバンクが経営破綻した。経営破綻の原因は流動性不足とされているが、平たく言えば、会社が借金の返済など、払うべき時にキャッシュを払えなくなったら倒産することを、会計用語を用いて流動性不足と表現している。

 では、なぜ資金繰りが悪化したのかといえば、昨今のFRBが行なっている利上げの影響である。ご存知の通り、コロナはリーマンショックと異なり、負の影響が実体経済に直撃したため、リーマンの二の舞を避けるべく、市場側で異次元金融緩和を行うかたちで、マーケットは金余り状態と化し、株価指標は半年間でV字回復するに至った。

 金余りによって通貨価値は相対的に下落。戦争がダメ押しした影響から、ありとあらゆるものの原価が上がり、インフレ地獄のバブル同然な状態に陥ったため、今度はバブルが弾ける前に、急激に政策金利を上昇させて、過熱感を抑えようと引き締めに転じた。

 しかし、政策金利を5%近くまで引き上げたことから、利回りが2〜3%の投資適格とされる債券への投資妙味がなくなった。

 金利が上がると債券価格が下落するのは、100万円を債券に投資すると、1年後に2〜3万円増える状況で、同じ100万円を銀行に預金したら、ほぼほぼノーリスクで1年後に5万円増えるなら、みんな銀行に預金したいと思うからだ。

 この時に債券を持っていた人は、100万円で買った債券を、98万円以下で売らなければ、これから買う人は預金と同額かそれ以上の旨みがないため、取引が成立しない。だから政策金利が上がると債券価格は下落する。

 そしてSVBに限らず、多くの銀行が多量の債券を保有、運用している。保有する債券で運用しても3%程度しか利息が付かないのに、預金者に5%近い利子を支払っていれば、いつかジリ貧になるのは明白で、急激な金利上昇は歪みを伴う。

クレディ・スイス(中銀)は氷山の一角?

 SVB経営破綻の5日後の15日には、スイスの金融大手であるクレディ・スイス・グループが先述の状況と相まって赤字続きや、財務報告の内部管理に重大な弱点があったことから、筆頭株主が追加投資をしない意思表示をしたため、債務不履行(デフォルト)でSVBの二の舞になるのではないかとの不安から、これまで好調だった銀行株が軒並み下げた。

 結局、スイスの金融最大手であるUBSが救済買収を行う形で、直近で想定し得る最悪の事態は回避したと見て良いが、多くの銀行が現状の政策金利よりも利率の低い、投資としては不利な債券を抱えている構図が変わらない以上、出血大サービスで利子を払い続けるか、赤字覚悟で損切りしなければならず、銀行業の経営がしばらく苦しいのは事実だろう。

 ちなみに永久不滅ポイントで名高い?クレジットカードの発行会社である、クレディセゾンは公開資料の限りでは資本上の関係はない。投資先の可能性もゼロではないため、クレディ・スイスと無関係とは言い切れないものの、たまたま同じクレディを名乗っているだけである。

 話が逸れるが、各社のクレジットカードが年会費"永年"無料を謳う中、セゾンは年会費無料条件をクリアしたステータスカードを除き、"永久"無料を謳っており、ポイント有効期限を設けていない、ユーザーフレンドリーな設計から来るカードビジネスへの絶対的な自信は評価している。なお還元率…

大手中心に賃上げ。ベア満額回答。

 さて、身近な話題続きで、大手企業の春闘でベースアップの回答が並んだ。昨今のインフレは凄まじく、1月には41年4カ月ぶりの上昇率である4.2%の物価上昇を記録した。

 先述したように、これらはコストプッシュ型に起因するもので、値上げで売上高は増加するものの、その大半が高騰している売上原価に消えていくことから、現状の賃上げは経営者や株主目線では利益を圧迫する行為となる。

 これまでニワトリが先か卵が先か論争で、消費が伸び悩むから賃上げしない。賃上げしないから消費が伸び悩むの、堂々巡りな膠着状態から、従業員の生活が切羽詰まって、ようやく賃上げを切り出した感はあるが、あくまでも経済基盤が盤石な大企業に限った話になりそうである。

 421万あるとされている日本企業のうち、実に99.7%が中小企業となっており、大企業はたったの0.3%に過ぎず、雇用者全体の3割に過ぎない。

 給与テーブルが大企業に連動する公務員も、失われた30年でのバッシングから新規雇用者抑制、定年退職による自然減を図った結果、雇用者全体の6%にも満たず、OECD諸国の中で最も低い割合となっており、賃上げの恩恵を受けるのは、人口の半分ちょっとしか居ない就業人口の中で1/3程度と、ざっくり計算で2,000万人強となる。

 それにも関わらず、政府が賃上げ圧力を掛けていたのは、現役世代の賃金が上昇しなければ、年金もマクロ経済スライドによって増額しないからに他ならず、いかにもシルバーデモクラシーな世紀末感が漂っている。

 現に2022年の国民年金の老齢基礎年金は、現役世代の所得がコロナ禍で減少したことに伴い、前年比で減額された矢先でのインフレとなったため、政治家の偉い先生方に相当なブーイングがあったものと思われる。

 しかし、国民の1/3が不労者のこの国で、半分ちょっとの就業者が、1/3の浮浪者を支える不健全な社会システムそのものを、考え直す時期ではないかと個人的には思う。

 奨学金という名の教育ローンを借りてでも大卒にならないと、勤め先の選択肢が狭まる学歴至上主義社会故に、奨学金利用者は平均288万円の借金を背負って社会に出ている。

 そんな現役世代は、退職金や年金などアテにせず老後資金を捻出しろと、国がNISAやiDeCoの枠組みだけ作って、あとは自己責任論を振りかざされるにも関わらず、相互扶助の名目で、払い損と試算されている社会保険料を徴収されている。

 若い世代からすれば、バブル前の高卒でもそれなりの企業に入れて、そこそこ稼げて退職金も良い金額を貰えてる、相対的に恵まれている筈の今の高齢者が、お金欲しさに年金に対して文句を言っているのは滑稽でしかない。

 年金のマクロ経済スライドのために、企業に対して賃上げ圧力を掛けるなど、まどろっこしいことをせず、ベーシックインカムなどの、全世代に対して不公平感のない社会保障制度みを、早急に実現して頂きたいものである。


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