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小説|不思議の国のカギ(23)最終話
翌日。
アリスが旅支度を整えて広間に顔を出すと、すでにご馳走が目の前に用意されていた。
そういえば、前にもこんな事があったなぁと思いながら、アリスは椅子に座る。
白ウサギが最後の料理をテーブルに置くと、三月ウサギが元気良く手を合わせた。アリスもそれに倣う。
「いっただきまーす!」
「頂きます」
アリスは始めに、野菜のたっぷりと入ったスープを啜る。体の芯から温まっていく感覚がした。味はシチューに
小説|不思議の国のカギ(22)
アリスは先程よりも強く、その言葉を繰り返した。まるで、自分自身にも言い聞かせているかのように。
「私は、貴方を憎んでなんかいない」
これは全て、私のせいで起きた事だから。
私がアリスでなければ、両親が死ぬ事はなかった。私が箱を開けなければ、皆が傷つく事も、イカれ帽子屋が死ぬ事もなかった。
『これを開けちゃだめだよ』
白ウサギの言葉が頭を過る。
アリスはぐっと口を引き結んだ。
…………ちゃんと、
小説|不思議の国のカギ(21)
あれは10年前のある夏の日。
不思議な穴を見つけた次の日の事だった。その時誰かに出会った気がするが、その記憶は頭の中からすっぽりと消えていた。まるで少年が初めから"この世界"に存在しなかったかのように。
けれどアリスはあまりその事を気に留めていなかった。今日は単身赴任している父が久々に帰ってくるので、一緒に森に出掛けられるとあって嬉しさが勝り、昨日の出来事など些細な事に思えたからだ。
そういうわけ
小説|不思議の国のカギ(20)
闇が支配する森を、アリスは脇目も降らずにひた走る。昨日は闇雲に扉を探すだけだったけれど、今は自分の直感がこちらだと訴えてくるのだ。
「……………………」
アリスは一度だけ、後ろを振り返った。最後に見た白ウサギの背中が頭から離れない。
『…………を…………め……』
瞑目すると、脳裏を一瞬だけ過る姿がある。彼もまた、同じように自分に背を向けていた。
「……大丈夫、だよね」
……それは何に対して言っ
小説|不思議の国のカギ(19)
そこから暫く歩いた所で、チャシャ猫の膝が崩れる。
それでも何とか立ち上がろうとするチャシャ猫の視界に、チカチカと光る物が目に映った。
目を細めて、それが何なのかを確かめる。暗闇に慣れているチャシャ猫の目は、その正体をハッキリと認めた。
「…………アリス……」
十数メートルほど離れた所で弓矢を構えたアリスが、矢の先をこちらに向けている。そして自分の後ろには、片手で剣を持った白ウサギの姿が映った。
「
小説|不思議の国のカギ(18)
不思議の国。
この世界でほぼ同時に生まれた、この世界の最初の住人。
それが、白ウサギとチャシャ猫。
2人とも、お互いが生まれて初めて見る一番最初の生き物だった。
ーーーーだから、友達になれると思った。
彼は、あまり自分から話す性格ではなかったが、自分は他愛ない会話を毎日飽きもせず彼に話に行った。
2人だけで暮らしていたその頃の不思議の国は、あまりにも広く感じたものだ。
でも、2人だから寂しくはなか