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中国の山奥にある謎の大都会、「青田」に行ってきた

 青田、という街をご存知だろうか。おそらく多くの方は知らないだろうと思う。この街がなかなかにディープで面白く、多様な食事も充実していて興味深い場所なのである。

 場所は中国の浙江省麗水市。温州市の隣の都市の自治体である。上海からはおよそ350km離れた距離にある。高速鉄道で温州市からは約20分、上海からは約3時間と、アクセスは悪くない。

青田県は温州市の隣に位置する

 

青田は山間に位置している

 写真を見て分かる通り、青田は中心に瓯江と呼ばれる川が流れており、それを山が挟んでいる地形になっている。言うなれば山奥の田舎と言って差し支えないような場所なのだが、これが地図からの印象に反して非常に発展した街が形成されているのだ。


至るところで個人経営のカフェを見つけることができる

 浙江省丽水市の青田県には、独特のコーヒー文化が存在する。青田は狭い山間部に位置する小さな町だ。小さな町だが、街中には個人経営のカフェがあちこちにあり、チェーン店のカフェはあまり見かけない。青田には全部でどれくらいのカフェがあるのだろうか?

“这个不大的县城里,分布着大大小小200余家咖啡馆,加上乡镇里的咖啡馆,数量突破300家。”
この小さな県には大小200以上のカフェが点在し、町や村にあるカフェを加えると、その数は300を超える。
“青田县约有33万华侨,许多人旅居在西欧。他们返乡后带回了咖啡机、咖啡豆,也带回了咖啡文化,并逐渐带动当地咖啡产业发展。”
青田県には約33万人の華僑がおり、多くの人が西欧に居住している。彼らが帰郷した際には、コーヒーマシンやコーヒー豆だけでなく、コーヒー文化も持ち帰り、徐々に地元のコーヒー産業の発展を促している。

浙江日报(2014)

 さらに、この町にはヨーロッパ風の装飾が施された建物もあり、歩いているとまるでヨーロッパの田舎町やテーマパークにいるかのような感覚になる。このような山奥の小さな街がこのようになった理由は何なのだろうか?


青田県で入店したカフェ


上記のカフェで飲んだコーヒー。コーヒーで作られたアイスキューブを解かしながら飲む。この形式のコーヒーは初めて飲んだが、時間とともに風味が変化するのが楽しく、飽きのこない飲み方ができた。

 その理由は、この町がヨーロッパから帰国した華僑が住む村であるからだ。今回の調査では確認できなかったが、彼らの家の玄関には外国の国旗が貼られており、これは彼ら外国に移住経験のある華人たちがどの国でお金を稼ぎ、帰国したかを示している。移民の主な目的地はヨーロッパであり、例えばスペイン、イタリア、フランスなどの先進国である。

 丽水市青田県から海外への移民人口では、第一位がスペインで約10万人、第二位がイタリアで約9万人、第三位がブラジルで約2万人である。イタリア、スペインへの移民は特に多い。イタリアは特にエスプレッソの発祥地であり、コーヒー文化が非常に盛んな国である。この街でコーヒー文化が盛んな理由は、青田から欧州への移民が現地で体験した文化を自分たちの故郷に持ち帰っているからであると言える。


瓯江にかかる橋から見た夜景

 夜になると山奥とは思えないほどの綺羅びやかな夜景を見ることができる。立地が優れているとは言えない場所でこれだけの景色になっているのは、それだけヨーロッパに渡って経済的に成功した人が多いことの証拠でもある。
 中国における外国に繋がる文化といえば新疆や内モンゴル、延辺の朝鮮族自治州などが有名だが、それ以外にも青田のような、漢族ではあるが外国に移民して帰国後その文化を持ち帰ってきた人たちが住む地域が存在する。
 今回の調査ではあくまでコーヒー文化を見学したのみで、イタリアやスペイン料理の店までは時間の都合で見ることが出来なかった。
 2024年3月時点で、中国は未だ日本に対するビザ免除措置を再開しておらず、中国を観光するのは敷居が高い。しかし浙江省は上海でのトランジット144時間ビザ免除でも訪問することが可能だ。高速鉄道で温州市からは約20分、上海からは約3時間とそう遠くない場所にあるので、興味がある方は訪れてみてはいかがだろうか。


参考文献
山本 須美子, 徐 輝, 鄭 楽静,ビジネスチャンスを生む「僑郷」への帰国 -中国浙江省青田県の事例から,白山人類学 24 号 2021 年 3 月
这杯咖啡,有青田味道,浙江日报/2021 年/11 月/25 日/第 004 版


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