それで本当にいいのだろうか。すべての問題は正しく解決されるべきである。
サンドイッチを買いに出て、教室に戻ろうとしたときのこのビルのエレベーター。
俺のほかに乗ったのは2人。一人はレベル2を、もう一人はレベル4を押していた。俺はレベル6。
レベル1に止まって扉が開く。誰か乗ってくるのかなあ、と思ったが誰もそこにはいない。扉が閉まって動き出す。
あれ、と思ったのはその時だった。次はレベル2のはずだが完全にすっ飛ばした。えっ、と思っているうちにレベル3も、そして4までもすっ飛ばしてレベル5に止まった。扉が開く。誰もいない。
乗り合わせた3人は知らぬ同士だが、3人で顔を見合せて、両手をひょいと挙げて西洋風「なにこれ」ポーズ。
と思うのもつかの間、ドアが閉まると今度はどんどん下がって一気に地下の駐車場まで行っちゃったではないか。明らかにおかしい。
エレベーターで目的階じゃないところに連れて行かれちゃうのって、村上春樹の小説であった。ダンスダンスダンスだったかな、ドルフィンホテルかなんかのエレベーターで、知らないところにとまって、そこには羊男がいて、主人公に何か課したと記憶しているけど、違うかもしれない。
残念ながら俺たちは羊男の所まではいかなかった。俺らにタスクを課しても処理できないと踏まれたのかもしれない。残念だけど。
とにかく俺たちは目的階で降りられないまま2回目の昇降に付き合わされた。その時点でレベル2で降りたかったチャイニーズのお兄ちゃんは諦めて止まったレベル1で降り、もう一人のオージーのおじさんはそのあと止まったエントランスのレベルで降りた。
とりあえず俺もそこで降り、もう一方の右のエレベーターに乗り替えることにした(ビルには2機エレベーターがある)。
が、待てど暮らせど…とまで言うと大袈裟だが、エレベーターは来ない。
もし書道教室の生徒さんが早く到着していれば、カギを掛けてきた教室に入れなくて今頃プンプンだ。いや、カンカンかもしれない(まあどこでもドアでも使って到着できていれば、の話だが)。
と言っているうちに再び戻ってきた左のエレベーター。新たに待っていた怪奇現象未体験の数人が乗り込むが、俺はさすがに遠慮した。一応問題があることを告げはしたから何かあっても聞く耳持たないほうが悪い。
その後しばらく左右のエレベーターのドアが開く気配はなく、膠着状態が続く。
と、到着したのはまたまた左のエレベーター。案の定、さっき乗り込んだ人々がどこだかをトラベルして戻ってきていた。お気の毒に何人かプラスされてすらいる。どっから乗ってきたんだ?
「お前も乗っちゃえよ」と一番手前にいた黒ぶち眼鏡のチャイニーズのお兄ちゃんが俺を誘う。右エレがうんともすんとも言わないのを目玉だけ動かして確認してから渋々乗り込む。袖擦り合うも他生の縁。みんなとしばしの小旅行もいいだろう。
「さっきはレベル6にどうしても行けなかったんだ」
「こんなことは初めてだ。」
「管理人に連絡したほうがいいな」
「電話番号なんかしらないよ」
なんていう会話をしていると、エレベーターが止まり、ドアが開く。
「あ、私ここだわ。」と、数人降りる。
次も、その次も成功!そして最後になんと俺も成功!
そして待っている生徒さんもいない!朝の来ない夜はないのだ。
それにしてもすべての問題が解決さたわけではない。
物理的なトラブルなら当然修理の人を呼んだほうがいい。
がしかしそれで本当にいいのだろか。
エレベーターに朝から何か嫌なことがあって、虫の居所が悪くてちょっと指示どおりにしたくなかった(反抗期があるのは存在理由になることもある)んだとすれば、カウンセラーとかを呼ばないと正しく解決しないのではないか?
機嫌を悪くした理由がもし乗り合わせた俺以外の一人に、もしくは複数人にあるとすれば、こいつらを「殺る」ための暗殺者にコンタクトを取る必要がでてくる。
また、このエレベーターに問題があったわけではなく、このビル在住の霊たちが何かの記念日だかなんだかで、ふざけて昼間になっても遊んで悪戯してたりしたんなら、霊媒者を呼んできて彼らにコンタクトを取ってもらわないといけないし。それがたとえば道に迷った関係者以外の霊?だとしてもやっぱし霊媒者に連絡しなければならない。
どうやら修理人たちが現れた。いまから機械をいじくりまわすのだろう。
ただ問題は正確にそれを発見し、解決のために正しい処方をしないとだめである…ってことが本当に分かっているのかどうか。
霊媒師じゃなくて本当にいいのだろうか。
謎が深まるばかりの、よく晴れたシドニーの昼下がり。
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