見出し画像

夢の日

1. 今日が一番疲れた、そう言える日だった。これからどうやって生きていけばいいか、非常に悩んでいた。そう今日が一番、一番恐ろしかった。明日が来るのか、そう考えるのも嫌だった。こんな姿誰にも見せたくない、もうどこか遠くに逃げてしまいたい。自分がこんな気持ちになるなんて思いもしなかった。だるくて、意識は朦朧としていた。彼はすぐに眠りについた。

2.彼は、気づけば雪の中にいた、そうどうやってここに来たのかも忘れていた。非常にロマンティックで幻想的な世界だった。もうここに身を潜めたい、そう考えるほどだった。
雪か、そう恋人を想いたくなるような日だ。恋人は今のところいないけれど、寂しい気持ちを紛らわせていたいような日だ。何故この白い粉にそんな想いを馳せたくなるのか、色々考えると溢れ出してくる。そこんなに寂しいのは久しぶりだろうか。今まであまり寂しい思いをしてこなかったから、なんか余計にむなしくなるな、嫌だなぁ、こんな思いを抱くのは。誰か、僕を温めてくれないか。そう思った。そんな恥ずかしい思いを話したくは無かったけれど、もうしょうがない。寂しいのだから、この世界に来ると、なんでも思いたくなってしまう。あぁ、寂しいよ。辛いよ。誰か、僕は苦しみで潰れそうになった。
 そんなことを気にしていたら、ずっと起き上がれそうもない、僕は歩き出してみた。白い道が長く続く。苦しくない、寒くもない、僕は感覚を無くしたみたいだ。
 少し歩くと商店街があって、そこは煌びやかに飾られていた、僕はじっとその光景を眺めた、自然よりも人工物の方が安心する。なんだろう、雪は僕の心を蝕んで、僕の寂しさを引き出すんだ。でも、人工の光は違う温かさをもたらす。そう、僕が一人じゃないみたい。僕が歩いていると、一人の少年が話しかけてきた。
「お兄さん、やけに寂しそうだね。僕が一緒にいてあげようか?」
彼の少年のような眼差しに魅かれたのは覚えているけれども、僕付いてきてほしいなんて言ってないのに、どうして彼が同行しているのだろう、まあいてくれて助かっているから、いいのだけれど。彼は本当に生意気だった。でも嫌な気はしなかった。冬なのにアイスクリームを奢ってほしいとか、色々といいように使われる。でも本当に嫌な気がしなかった。彼の生まれ持った才能なんだろうな。僕が流され過ぎなのも問題なのかもしれないけれども。
 「雪っていいよね。僕は好きだよ、そう冷たくて、そう辛くて、悲しい気持ちにさせるから。」
「悲しい気持ちにさせるなら、無かった方が幸せだと思わないか?」
「そうだね。でも、悲しい気持ちが無いと、幸せを感じなくなってしまう。そう、雪はその役割を担っているんだよ、お兄さんも雪に飲まれてみたらいいよ。」

「心は何色に染まる、君は独り。白に飲まれて死ねばいい。消えたら虹がかかる
君を愛していたかった、僕は独り。僕も飲まれて死にたいよ。寂しい光が見える」
彼は口ずさんだ、悲しい曲なんだろうな。僕は消えかかる夢を見た。
とてもきれいな歌声だった。雪の冷たさと同じように辛かった。
彼は持っている明るさと違う影があった。何かを隠しているような、寂しさが見える。
寂しさとはもうかけ離れたような孤独、彼はいなくなりそうな少年だった。
彼は僕がこう思ったのが分かったのか、僕があまりも腑抜けた顔をしていたのか知らないが、ニコッと微笑みを浮かべた。僕も笑ってみせた。それがちゃんと笑えていたかどうかは分からないが。彼は続けて、
「お兄さん、どこかに行こうよ、とても楽しいところがいいな。そして、何か食べたいな。」
「そうか、どこに行こうか、まあ歩きながら、いいところを探すか。」
二人は歩き出した。もう僕には迷いが無かった。
 彼は公園を駆けていた。僕はその様子を眺めながら、彼は何者なんだろうと思い始めた。
楽しそうなんだけれど。僕はある種の不安を抱いていた。そう、彼の存在に。何故こんなにも寂しそうなんだろう。僕は疑問だった。でも聞けずにいた。雪がとても似合う少年は消えてしまうだろうなと確信していた。逃げないように、逃げないように、そっと、聞くことはできないだろうか。彼は何も言わないだろう。そう駆けているだけ。
「お兄さん、ジュースを買ってきたよ。ほら冷たいでしょ。」
頬にジュースを当ててきた、何故冬なのに冷たいドリンクを買ってくるんだ。思ったが嬉しかったため何も言わなかった。冷たいドリンクはとても体に染みわたった。冬にはココアかコーヒーが飲みたいなとは思った。
「冷たいドリンクの方が好きなのか?」
「そうだね、冬に冷たい水とか飲むと、寂しさがこみあげてくるから。好きだな。温かい飲み物はほっとしてしまうから、安心してしまうから・・・嫌かな。」
「そうか・・・。」
確かに冷たいドリンクは寂しい。誰かいてほしいと思う。何故彼は寂しさにこだわるのだろうか?

 彼は夜になっても帰らなかった。親はいないのか、どうなのか。聞けずにいた。黙っているのも悪いと思った。そういう自分も止まる場所が無かった。
「お兄さん、宿はどうするの?良ければ僕も泊まらせてほしいんだ、お願い。」
「いいよ、君が泊まりたいのなら、いつまでも泊まるといいよ。でも僕まだ、宿を見つけていなくてね」
「そうなの。じゃあ、氷の宿に泊まろう、とても美しいんだ。お兄さんも感動するよ。」
二人で氷の宿に来た。彫刻が並んでいるようだった。僕はアッと驚いた。彼は嬉しそうに微笑んだ。彼は氷の世界に満足していた。ここで何か月も過ごせるのか、不安に思ったが、すぐそんな気持ちは無くなった。僕はとても疲れていた。すぐ眠りについた。
 

ある日の夜、彼はとても何かに悩まされた表情をしていた。彼に何かが訪れようとしているのか、それとも僕と過ごすのが嫌になったのか・・・。
僕はいつも通りに料理を作り、彼にふるまった。彼のために豪華に作った。
 彼は疲れているように笑った。彼は食事を一口、二口と少しづつ食べ、食べるのに1時間かかった。彼は食事終わりに、「大事な話が、あるんだ。お兄さんにとって、とても大事な話があるんだ。だから、少し外に出て話をしよう。お兄さんが良ければだけれど。」
僕は寒気を覚えた。何故か震えあがりそうだった。何故かは分からない、でもこれは聞かなければならないと思った。真剣な話だ。自分に言い聞かせるように心の中で唱え、二人暗闇の中を歩いた。彼がイルミネーションの方を指した。だから、来た。
「お兄さん、最初に謝っておくね。許してもらえるって思っていないけれど、僕の最後の願いってことで聞いて。」
「最後ってなんだよ。いなくなるなんて、言わないでくれよ。」
「僕は、お兄さんのためにもいなくならなければならないんだよ。」
「僕は、君にいてほしいよ。悪い気なんてしていない。いつまでもいてほしい。」
「聞いて、お兄さん。僕もいなくなりたくないよ。でもそしたらお兄さんを辛い目に遭わせることになるんだ。分かるでしょ。僕も辛いんだ。
 僕はこの世界にいる人間と同じ存在じゃない。僕は、人間ではない。冬だけに現れる、妖精っていうと変だけどそれに近い存在なんだ。
人間にはとても害があるんだよ。お兄さん、貴方にも被害が及ぶんだ、それは死。分かる?死なんだ。僕と貴方が一緒にいると少なからず、貴方が死ぬことになる。」
「えっ」
「そう、そういうことなんです。分かってください。僕はここから去ります、貴方に何を言われようが。」
僕は少しの間考えた。でも答えは決まっていた。僕は彼の手を握っていった。
「僕は死んでも構わない。分かるだろう、そう僕たちは友達になったんだ。そんなことで友達を失いたくないよ。僕は死ぬまで君といられるなら幸せだ。だから、僕がいいって言うまでは傍にいてほしい。お願いだ。」
僕の必死のお願いは彼の家出を止めることとなった。僕は安心しなかったが、死ぬなら死んでしまえと思った。
彼はまた歌っていた。
「降り続く雪は 僕を壊し、君を壊し、何処へ向かっていくの、雪は何も言わず。
笑っている僕は 君を殺し、雪を憎み、何処へ去っていくの、僕は何も言わず。」
相変わらず怖い歌詞だった。悲しいのか、憎たらしいのか、僕には分からなかった。
 彼は僕が宿に帰ってくるといなくなっていた。僕は知っていた、君が逃げ出すことを。あんなにお願いをしたのに。逃げてしまうんだね、君は。僕は歌った。
「今日も祈るよ、君が心にいる限り、今日も祈るよ、僕のものになるように。
雪は恐ろしい、また僕を壊して、何も無いようにしてしまう。」
彼はこの歌詞の部分を多く歌っていた。僕はあまり歌が上手くなかった。彼の歌声は染みわたるんだ。あの日のドリンクのように。
彼は雪の恐ろしさを持っている。雪、少し降る分にはいいが、降りすぎると人は殺される、そういうことを言いたかったのではないのか。僕に解釈能力を求めないでくれ。僕はそこまで賢くないんだ。君を探して聞く以外に方法は無いな。僕はすぐさま彼を探し始めた。

3.彼はまた歌を歌っていた。この曲には終わりがあるのだろうか。何のためにこの歌を、歌うのだろう。

心は何色に染まる、君は独り。白に飲まれて死ねばいい。消えたら虹がかかる
君を愛していたかった、僕は独り。僕も飲まれて死にたいよ。寂しい光が見える

降り続く雪は 僕を壊し、君を壊し、何処へ向かっていくの、雪は何も言わず。
笑っている僕は 君を殺し、雪を憎み、何処へ去っていくの、僕は何も言わず。

今日も祈るよ、君が心にいる限り、今日も祈るよ、僕のものになるように。
雪は恐ろしい、また僕を壊して、何も無いようにしてしまう。


 ある日、一人の少年は美しい少女と出会ったんだ。そう今日のように澄んだ白をしていた。彼は彼女を欲しがったんだ。でも彼女はそれを拒んだ。彼女は独りが好きだったんだ。いや、それよりも彼女は秘密を知られるのを嫌がったんだ。彼の心はかき乱される。彼女は今日も自分のことを話さないと、そしていつか消えてしまうような気がしていた。それが彼をより苦しめたんだ。彼女は雪の精霊で、そして生涯孤独で居ないと、彼女に悪い影響が及ぼされる。彼女は彼の気持ちを分かっていながら、避けるんだ。本当は彼女も彼を愛しているのに。彼は自分のものにならないと悟ったその時から、彼女を殺してもいいから、自分のものにしようと決めたんだ。他の誰かに渡るよりはましだ。彼はひどく所有欲に駆られていたようだ。彼は結局彼女を殺し自分のものにした。彼はその後に気づいたんだ。彼女が彼のことを愛しているということを。彼はひどくそのことを悔やんだんだ。それが彼の背負った罪だった。彼の過ちはとても苦しいものだったんだ。僕はこの話を歌にした。
僕が精霊ということは知らないだろう。そう知らないままでいいんだ。僕は彼にこんな思いをしてほしくない。
彼との出会いは必須で、消えない運命だったことは知っている。そう変えられない運命だと知っていた。それなら僕は彼へ歌を作ろうと思った。


夢は夢でしかなく 僕は僕でしかなく 君は君でしかない
僕は君に出会うよ どこの世界でもさ 君が僕を望めば
残酷とはまさにこういうことだね 僕は笑う
二人は殺されるために出会うんだ 君は泣くの
せめて雪が事実をかき消してくれれば
僕たちは幸せになったのかななんてね
I hope my dream goes bad.

I hope your dream goes good


僕はここにいてはいけないと思った、彼がいなくなっている間に逃げなくてはと思った。
安らかなところは、不幸せ。波乱こそ僕が望むもの。彼の傍にいると彼のペースだ。そして彼は僕を壊してしまうだろう。妙な殺気、彼は少なくとも僕のことを考えてくれているが、内面彼が知らない奥底の部分で彼は殺気だっている。僕は人間じゃないからね。彼の分からないところが分かるんだ。彼はとても、とても恐ろしい。僕は彼を止めることができない、彼は僕よりも断然恐ろしい。誰か死んでしまうのではないか。僕が何も言わなければ。そう少年と少女の話のように。僕はそう、それなら殺しなよ。僕はそこまで死ぬことを恐れていないからさ。

4.彼は青白い顔をしていた。僕は彼の表情がいつもと同じ表情には見えなかった。歌を歌っていて、そして僕を見つけると、薄暗い表情をした。彼は僕から逃れたかったのだろうか。でももう無理だろうけれど。彼は僕の約束を聞いていたから。そして了承もした。彼に拒む権限はないから。
「逃げてはいけない。僕はもうすぐ死ぬんだ。でも、死ぬ前に君がいなくなることが嫌だ。君が僕のためにいなくなったとしても、僕は幸せにならない。僕が生きることを一番の幸せだと勝手に解釈しないでくれ、僕は君にいてほしい。そう友達だから。君と一緒に入れて、幸せになって死ぬんだ。君はまた僕を悲しませるのかい、そして僕が壊れそうになるのをサポートするのかい。」
「僕はそんなつもりなかったんだよ。流れるときのように終わりを迎える。死ぬときは独りで死ぬんだ。僕も貴方も、貴方は自分が楽しいように、自分一人で生きればいいよ。最後の時まで。僕は貴方を助けることはできないし、そしてもう僕と一緒にいる必要はない。恋人でも作れば、いいんじゃない。最後だから有意義に過ごした方がいい。僕がいなくなるだけで、貴方の気が狂いそうになるのならば、殺せばいい。僕をそう、何もかもなくしてしまえばいい。僕はそんなものなんだよ、分かってくれる?貴方には、お兄さんには、分かってほしいんだ。僕はそこまで貴方と一緒にいたいとは思っていないんだよ。」
彼の顔は暗くなった。怒りか、悲しみか、愛おしさか、狂おしさか、分からない、分からないけれど、彼に従わないと、本当に、本当に危ないと思った。
「いいから帰るよ、僕は君を傷つけたくない、僕がおかしくなる前に、君が傍にいてほしいんだ。そして君の言葉で、僕に本当のことを伝えるんだ。次逃げたりしたら、もう、僕は。」


4.ある日また彼が逃げ出した。僕はまた彼を探した。彼はどこにもいなかった。僕はベンチに座った。下を向くと彼がいた。

彼はもう原型をとどめていなかった。彼は雪に溶け出していた。

僕は彼を見つけた途端にその雪を何回もすくった。彼はすくえることはなかった。

僕は泣き崩れた。彼は嘘をついていたんだ。僕に害があるんではなく、彼自身に害が及ぶんだ。

何故嘘をついた、彼が嘘をついたことが意味が分からない。

僕は彼に害があることを知っていれば、彼を救えたはずなのに。

彼は罪深い。僕を始めから一人にしようとしていた。

どうして、僕を一人にしようと思ったんだ。

僕は何も考えられなかった。

そしてまたいた場所に戻って眠りについた。


5.僕は朝目覚めた。しかしこれはいつもの目覚めではなく、僕は長く寝ていたようだった。

僕の友人は泣いて喜ぶほどだった。僕と少年との出会いは相当長かったようだ。

彼は僕の生きる時間を短くすることを害が及ぶと言っていたんだな。


彼はいつまでも生意気で、いるだろうなと思った。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?