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【鏡と器】~武藤敬司引退試合を見て、私が感じた事~

はじめに

"鏡"と"器"

武藤敬司の約38年に及ぶ現役生活の最後となる引退試合。
対戦相手である内藤哲也のデスティーノが決まり、武藤が敗戦した直後、私の脳内に思い浮かんだのは上記の言葉だった。


私が武藤敬司というプロレスラーの凄みを体感したのは、プロレスリング・ノア在籍期も含めた僅か2年半である。


正直に言ってしまうと、私の中で強い思い入れみたいなものは(今でも)持てていない実感があるし、寧ろノア入団前は、WRESTLE-1終焉におけるコメントの他人事感もあって、幾何かの疑念も抱いていたほどだ。

それでも、こうして記事として感想を残したくなってしまうのは、底知れぬ感動を覚えたからに他ならない。


武藤引退試合の感想が『鏡と器』という言葉に至ったのは、私なりに理由がある。


・人々の想いを託し、映し出す"鏡"

30代の私が生まれる前からプロレスラーだった武藤敬司。
私がプロレスを見始めた2015年当時、武藤は既に大ベテランでスポット参戦という立場にあった。

あれから8年が経ち、武藤はGHCヘビー級王座やGHCタッグ王座を獲得。
プロレスリング・ノア所属として、この日の引退試合を迎えた。


正直なところ、引退試合の武藤のコンディションは、素人目で見ても決して良いとは言えなかった。


それでも、劣勢の武藤を周囲が応援し続ける姿を見て、私は確信したのだ。
武藤敬司は世代を超えて、人々が思いを託したくなってしまう存在なのだと。


過去の栄光にしがみつく訳ではなく、今の自分が出来る事を最大限にやる。
還暦を迎えた大スターが、包み隠さず客前に曝け出したのだ。
それは、ノア参戦から所属に至るまでの最晩年で、武藤が隠さなかった泥臭い姿でもある。

年齢に抗いつつもベストを尽くそうとする武藤の姿を見て、年齢が半分くらい下の私も、武藤の試合に心動かずにはいられなかった。


膝を人工関節に変えて以降禁じられたムーンサルトプレスにしても、「引退試合だから飛んだりするのかな?」と思っていたけれど、最後まで武藤は飛ばなかった。
"敢えて飛ばない"事が画になってしまう選手なんて、そうはいないだろう。


また、この日の東京ドーム大会を見て実感したことなのだが、後楽園ホールやビッグマッチの会場に比べて、ドームは会場内がコールを揃える事が非常に難しい。
広大な故に、声援の波が周囲に波及しづらいのである。

それでも、武藤の引退試合では、会場中の声援が一つになった。


世代を越えて客席が一体化する光景は、武藤敬司というプロレスラーの凄みが可視化された瞬間でもあった。


・思い出を投影し、実現させてしまった"器"の大きさ

引退試合では、1人の人間ではとても抱えきれないくらいの想いを受け止める、武藤の器の大きさを体感した。


【器の大きさ】というと器量の大きさに聞こえてしまうけれど、今回の場合、偉大すぎて背負えなかった存在や、実現できそうになかった光景を叶えてしまった、武藤敬司という男の持つスケールに他ならないと私は感じた。


東京ドーム大会決定後の会見では、橋本真也、三沢光晴、蝶野正洋が引退試合を出来ていない事に言及した武藤だったが、引退試合では橋本の袈裟斬りチョップにDDT、三沢のエメラルド・フロウジョンを使用して、令和のドームに橋本コールと三沢コールを起こしてみせた。


内藤との試合後、「まだ燃え尽きていない」と語った武藤の一言から急遽実現した、蝶野正洋とのシングルマッチは見る者を驚かせた。
何故なら、今の蝶野はレスラーとしてセミリタイア状態で、近年は手術の影響もあり、この日もドームの花道は杖なしで歩けなかったのだから。


それでも、蝶野との試合を成立させてしまった武藤。
蝶野も杖歩行なのが信じられないくらい、リング上で軽快なステップ。
普通なら考えられない光景だ。


妄想や夢さえも超越するリアルを実現させてしまった武藤敬司は、改めて規格外のレスラーだと実感したのである。


まとめ

私は、スペースローンウルフ時代の武藤も、n.W.o.やBATTの武藤も知らない。
闘魂三銃士も名前を知っていただけで、私が試合を見て追えていた時期はノア時代だけだ。


2021年に武藤がノアと結んだ2年契約の集大成は、現ノア所属選手の殆どが経験していない東京ドームという大舞台を踏ませただけでなく、新たなるストーリーの始まりを生み出した。

武藤がノアに上がり始めた2020年頃のノアは、ドームはおろか、日本武道館という舞台でさえもファンにとっては夢の存在だったのだ。
この大舞台に連れて行ってくれた武藤には、本当に感謝しかないのである。


武藤が遺したものを活かせるかどうかは、今後のノア次第、選手次第である。

武藤引退後のノアを「泥船」とか「終わりだ」なんて揶揄する人も見かけるけれど、オカダ・カズチカと対戦した清宮海斗や、全日本プロレスとの対抗戦に臨んだ拳王が戦前に振りまいた話題は、武藤引退というメイントピックに負けない存在感を示してみせた。


武藤引退後も、ノアにとって勝負なのは変わらない。
約1ヶ月後の3.19横浜武道館ビッグマッチでは、2020年11月の『潮崎豪vs中嶋勝彦』以来となる、同会場でのGHCヘビー級王座戦が決定した。
(『清宮海斗vsジェイク・リー』)


ある意味、今がチャンスなのである。
この機をノアも逃してはならない。


武藤のノア参戦~入団以降、シングルプレイヤーとしてタイトル戦線に絡む姿が見れた事も、大会場でノアの興行を見れた事も、清宮海斗を大きくした事も、全て武藤がノアに来なければ有り得なかったし実現できなかった事象だ。


武藤敬司の試合を生で追うことが出来て、本当に幸せでした。
ありがとう!武藤敬司!!!

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