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名作揃い!デンマークの家具デザイン"フィン・ユールとデンマークの椅子②"

先日まで東京都美術館で行われていた"フィンユールとデンマークの椅子"の展示会。

展示会場内部にはこれでもかと言うくらい、名作椅子の数々が並ぶ。デンマークは何故こんなに名作椅子を生み出し、著名な家具デザイナーを多く輩出できたのか。
ひとつ目の理由は、「人から人へデザインや技術が受け継がれている」点だ。
デンマークの「家具デザインの父」と呼ばれる、コーア・クリント。デンマーク王立大学の建築学部に家具コースが新設された際の初代責任者に任命されている。彼がデンマークで普及させた概念がリデザインだ。過去の歴史や様式を見直し、現代の需要に合うよう再構成(リデザイン)する考え方に、門下生のボーエ・モーエンセンは強く影響を受けている。ボーエ・モーエンセンと親しい仲間であったハンス・J・ウェグナーにもリデザインの考え方が見られる。
ふたつ目の理由は、「デンマークの自然環境と社会環境」ではないだろうか。デザインに多く用いられる美しい曲線は、湖や氷山、森林など豊かな自然に囲まれた暮らしの中から、ごく自然に生み出されたように思う。そしてヒュッゲの思想にあるように、人々は誰もが何処でも居心地良く過ごせるように、その空間を彩るデザインが自然と鍛錬されたのだろう。


展示会の様子

前回はフィン・ユール氏の家具デザインの変遷を追っていったが、今回はデンマークの家具デザイン黄金期に活躍したデザイナーたちに注目したい。

1.職人気質で地味にすごいハンス.J.ウェグナー

上段 ザ・チェア

ハンス・J・ウェグナーはフィン・ユールとほぼ同年代。しかしながら家具デザイナーへの道のりは異なる。ハンス・J・ウェグナーは、13歳から家具職人の下で学び、17歳には家具職人である指物師の資格を取得。その後コペンハーゲン美術工芸学校に入り、卒業後はアルネ・ヤコブセンの事務所に勤務。生涯で500もの椅子を生み出した。
彼の代表作と言えば何と言ってもYチェアだ。「世界で最も売れている椅子」とも呼ばれ、シーンを選ばず世界中で愛されている。
そして彼を語る上で外せないのが「ザ・チェア」だ。1949年に発表された時には、多用な材質やデザインが台頭する中、地味で特徴のない椅子と揶揄されたが、当時のアメリカ大統領選でジョン・F・ケネディがテレビ討論会で使用していたことから一躍有名になった。背面から肘掛けに至る緩やかな曲面は、人の身体を包み込み、心地よい座り心地を実現し、形状も美しい。これは家具を知り尽くした職人としての彼の意地が、自身のデザインを実現へと導いているのだろう。

2.小さな建築を生むアルネ・ヤコブセン

下段:スワンチェア、上段左:アリンコチェア

デンマークの数多いデザイナーたちのハブ的な役割を担っているのが、アルネ・ヤコブセンだ。
当初は画家を目指したが、父親から反対を受け、友人から勧められた建築を学ぶためにデンマーク王立芸術アカデミーに入学。その後建築事務所で研鑽を積み独立。デンマークがナチスドイツに占領されるとユダヤ人であった彼はスウェーデンに亡命し、第二次世界大戦後にデンマークへ帰国した。
1950年代はスワンチェアやアントチェアなど名作椅子を数々生み出した。しかしながら彼は建築からインテリア、家具デザインまで一貫してデザインすることにこだわった。そのため彼の家具デザインは、大胆なフォルムでありながら合理的な構造を持ち、削ぎ落とされたデザインが普遍性をもたらす。それは小さな建築のようだ。

私が大学時代にアルバイトしていた設計事務所で使われていたアリンコチェアが気に入り、自宅購入の際に2脚買ってしまった。

多くの素晴らしい家具を世に出しながら、2人の著名なデザイナーを事務所から輩出したことも彼の偉大な功績のひとつだろう。

3.ユニークに受け継ぐヴァーナー・パントン

右:パントンチェア

ヴァーナー・パントン氏もまたデンマーク王立芸術アカデミーで建築を学んだ。その後アルネ・ヤコブセンの事務所に2年勤めた。彼は独立後、椅子や照明、インテリアに至るまで独創的なデザインで注目された。デンマークのデザイン界において、それまでの木や皮の温かみのある家具の歴史から関係性を絶ったことで、異端児的な見られ方もあるが、彼はデンマークの根底にある、人間工学に基づいた実用的なデザインを踏襲している。

彼の代表作は、ヴィトラ社と取り組んだ一体成型によるパントンチェア。材質や手法など長く検討された上で1968年に発表された。座面に支えがなく不安定に見えるが、脚部分の広がりで上手くバランスがとられている。そして一筆書きができるラインは、デンマークデザインに見られる美しい曲線だ。カラーバリエーションも豊富で商業施設やオフィスでも多く活用されている。彼のデザインはどこかユニークで楽しい。
デンマークの温かみのあるデザインをモダンに昇華している点において彼もまたデンマークデザインの功労者だ。

私も一人暮らしを始めて最初に買ったのが、パントンチェアだった。ワンルームにこの椅子はかなりの存在感だったが。

ナンナ・ディッツェン
体験スペース

今回挙げた3名以外にもまだまだ面白い椅子、デザイナーがいる。そして現在進行形でデンマークから次々と素晴らしいデザインが生み出されてる。

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