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「ローマ帝国の誕生」 △読書感想:歴史△(0029)

古代ローマ帝国草創の前半期を概観。古代ローマ成立から帝国制へ至るまでのプロセスと変容を分析・考察する一冊です。
(本記事/ 文字数:約4200字、読了:約8分)

<趣意>
歴史に関する書籍のブックレビューです。対象は日本の歴史が中心になりますが世界史も範囲内です。新刊・旧刊も含めて広く取上げております。

《引用》「コロッセオ」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Colosseum_in_Rome,_Italy_-_April_2007.jpg
Attribution: Diliff, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons

<こんな方にオススメ>

(1)古代ローマが好き
(2)古代ローマの共和制から帝政への変遷に興味がある
(3)古代ローマ草創期の都市国家ローマについて知りたい


「ローマ帝国の誕生」

著 者: 宮嵜麻子
出版社: 講談社(講談社現代新書)
出版年: 2024年


《引用》「狼の乳を吸うロームルスとレムスの像」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Lupa_romana.jpeg
Attribution: Giorces, CC BY 2.5, via Wikimedia Commons

<概要>

古代ローマのいわば前半期(都市国家ローマの成立から帝政の始まりまで)を取り扱った通史(おもに対外的な政治・軍事面)といった印象です。
全体的な構成としては序章と終章を除けば全九章となっています。大きく言いますと5つに分かれるかと思われます。まず第1章では都市国家ローマの成立を述べています。次に第2章~第4章では古代ローマの帝国化(帝政とは別)過程が説明されています。第5章・第6章では古代ローマの帝国化の確立が解説されています。第7章・第8章では帝国化による結果としての共和制・都市国家ローマの変容と内部的矛盾について分析されています。第9章ではその変容と矛盾の帰着としての皇帝の出現と帝政の開始が語られています。さらに序章では本書が都市国家ローマと海外属州の支配関係を軸に分析していることが説明されており、そして終章では属州民たちの都市国家ローマとの関係性についてまとめられています。


《引用》「ガイウス・ユリウス・カエサル」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Julius_Caesar_Coustou_Louvre_MR1798.jpg
Attribution: Nicolas Coustou , Public domain, via Wikimedia Commons

<ポイント>

(1)古代ローマ前半期の政治・外交・軍事の通史
小さな都市国家(というよりも本当の最初は”ローマ集落”ともいうべき規模だったかもしれません)から始まった古代ローマが爆発的に膨張していく政治・外交等のプロセスにおける試行錯誤が読み取れます。
(2)都市国家ローマと海外属州との間の支配・統治関係を中心軸に古代ローマの変容と矛盾の分析
平等的(実質はそうではありませんが…)な市民同士の共和制というコンセプトで始まった古代ローマが帝国化(帝政という意味ではなく)していくことにより理念と現実が大きく乖離していくなかで最終的な帰結が導かれていくさまがよく理解できます。

<著者紹介>

宮嵜麻子
淑徳大学国際コミュニケーション学部元教授


※本書本旨に触れている部分があるかもしれません。ご容赦ください。

<個人的な感想>

本書『ローマ帝国の誕生』は、古代ローマ前半期の通史とくに首都ローマ(ローマ市民)と海外属州との支配・統治の関係性を軸として、古代ローマ共和制による帝国化支配確立までの過程と構造を分析・考察がなされているという印象です。

古代ローマは都市国家ローマとして自立したローマ市民による共和制という建前を掲げていました。しかし次第にローマそしてイタリアを越えて領域的に拡大・膨張しながら帝国化していくなかで、内部では大きな矛盾が生じていくことが丁寧に説明されています。

古代ローマは初めから帝国化を目指していたわけではなく、自らの存続と権益確保のために生じた周辺との軋轢を乗り越えようとした結果、本来のローマ域外の領土を広げていくことになりました。やがて自立した市民による共和制という政治・社会構造と整合性が合わなくなります。被支配地の住民たちをどう扱うのか、新領土をどのように支配・統治するのか、という問題を試行錯誤していくことになります。
その結果の回答が「帝国化」ということになったということでしょうか。なお、帝国化と帝政は必ずしも同じことではなく、ここでの帝国化は近現代における帝国主義的支配と考えると理解しやすいかもしれません(もちろん、古代ローマの帝国化と近現代における帝国主義的支配は同一の内容ではありません)。

個々の事象や事件等については新書という性質上(新書としては長めの方ですが)、やや表層的・表面的にとどまっている点はありますが、これは著者自身から本書内でそうせざるをえないとお断りが入っています。

本書『ローマ帝国の誕生』は共和制古代ローマを語りながら、その行きつく先の皇帝出現と帝政開始に帰結していく古代ローマ全体を概括的に理解するうえでとても有意義な一冊であると感じました。

たいへん勉強になりました!!

[本書詳細]

「ローマ帝国の誕生」 (講談社)


《引用》「王政ローマの位置」
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Platner_-_Ancient_Rome_city_growth.jpg
Attribution: The original uploader was Filipvr at English Wikipedia., Public domain, via Wikimedia Commons

古代ローマ発祥と重なる、現代のローマ中心部 (Googleマップより引用)

<唯一無二の世界帝国>

古代ローマ帝国は現代の世界においてもその影響をいまも与え続けている唯一無二の歴史上の世界帝国である、といえるかもしません。

これまでの世界史において古代ローマより領土を広げた帝国はいくつかあったと思います。アレクサンドロス3世の帝国、チンギス・ハーンによるモンゴル帝国など。しかし古代ローマは軍事面だけでなく政治・文化・経済面において幅広く影響を与えいまもなお浸透し続けているのではないでしょうか。

たとえばローマ法は現代の法律の世界でその土台・基礎のひとつといえると思われます。それだけでなく建築、美術、歴史学、哲学などの学問そして民主政治などなど、現在も世界に影響を与える力を数えれば枚挙にいとまがないほどです。

イスラムや中華の世界からみれば、古代ローマが唯一無二の超越的存在であったとは言い難いかもしません。しかし客観的かつより俯瞰的にみて古代ローマはイスラムや中華も広く緩やかではあるものの、現代において包摂しているまたは包容している現代文明の世界のなかで存立せざるをえないと考えられると思われます(イスラムや中華がそれを「是」としているかどうかは別として)。


<備考>

古代ローマ (Wikipedia)
王政ローマ (Wikipedia)
共和制ローマ (Wikipedia)
ローマ帝国 (Wikipedia)

<参考リンク>

書籍「ローマ建国伝説」 (講談社)
書籍「興亡の世界史 地中海世界とローマ帝国」 (講談社)

敬称略
情報は2024年4月時点のものです。
内容は2023年初版に基づいています。


<関連ブックレビュー>


<バックナンバー>
バックナンバーはnote内マガジン「読書感想文(歴史)」にまとめております。

0001 「室町の覇者 足利義満」
0002 「ナチスの財宝」
0003 「執権」
0004 「幕末単身赴任 下級武士の食日記」
0005 「織田信忠」
0006 「流浪の戦国貴族 近衛前久」
0007 「江戸の妖怪事件簿」
0008 「被差別の食卓」
0009 「宮本武蔵 謎多き生涯を解く」
0010 「戦国、まずい飯!」
0011 「江戸近郊道しるべ 現代語訳」
0012 「土葬の村」
0013 「アレクサンドロスの征服と神話」(興亡の世界史)
0014 「天正伊賀の乱 信長を本気にさせた伊賀衆の意地」
0015 「警察庁長官狙撃事件 真犯人"老スナイパー"の告白」 
0016 「三好一族 戦国最初の『天下人』」
0017 「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」
0018 「天下統一 信長と秀吉が成し遂げた『革命』」
0019 「院政 天皇と上皇の日本史」
0020 「軍と兵士のローマ帝国」
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0022 「ソース焼きそばの謎」
0023 「足利将軍たちの戦国乱世 応仁の乱後、七代の奮闘」
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0028 「瞽女の世界を旅する」


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(2024/06/04 上町嵩広)

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