愛し合う人が、守り合えるように。アジア初、台湾での同性婚特別法の施行にあたって。
こんにちは、ReingのYangです。昨日、台湾で、アジアで初めて同性婚の特別法が実施されました。この日にあたって、自分なりに考えたことを書いてみようと思います。
中国語の中で、「相守(xiāng shǒu)」という言葉があります。英語に翻訳をすると「be together」となるようなのですが、実際には、もっと大きな意味が含まれています。
きっと多くの方がこの一節を、聞いたことがあるでしょうーー
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、 悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、 これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、 真心を尽くすことを誓いますか。」
よく日本の結婚式で唱えられる文章です。文面を読むだけでも、胸いっぱいに幸せな気持ちになります。それが中国語で、「相守」という言葉が意味するものです。
同性婚を認める法案が可決される前日、台湾の蔡英文さんがFacebookに投稿された文章の中で、こんな言葉がありました。
「讓相愛的人可以相守」。
ー愛し合う人が、守り合えるように。
法律は、私たちの想像以上に、大きな力を持っています。人が幸福に生活していくにあたっての、様々な権利を与え、悪意に対する制約を設けます。
だからこそ、何かに対しての法律が存在しない場合、もしくは何らかの形でこれまでの常識をもとに平等では無い状態になっている場合、なすすべのないことも多くあります。たまに耳にする言葉が、
「今の時代、結婚することにこだわる必要もないよね?」
「愛があれば、一緒に居られれば、いいんじゃないの?」
と。
普段はあまり頭に過ぎらないことかもしれませんが、婚姻関係でないことによって、できないことが存在します。愛する人と、血縁関係も婚姻関係もない場合、何かあった時、真っ先に病室に入ることができないかもしれない。もしかしたら、連絡すら来ないかもしれません。お互い、福利厚生ももちろん受けられません。入国する時も、出国する時も、家族として見られず、ただの他人になります。
法律で認められない限り、心で繋がっていても、社会で生きていくに当たっては永遠に、赤の他人のまま。何十年も一緒に生活したとしても、赤の他人なのです。
34年の道のり
アジア初めて同性婚を認める法律を実施した台湾は、34年の長い長い年月を乗り越えてきました。少し時系列で整理してみます。
1985年
同性愛者の祁家威さんが、パートナーとの婚姻関係への承認を行政に求めてましたが、行政と裁判所に拒絶された上、「公序良俗違反」と判定されたため拘留。
これが、台湾の同性婚権利獲得ムーブメントの引き金となりました。
1994年
祁家威さんは再度、行政に同性パートナーとの結婚を求めましたが、そこで得た返答は「現行法律の『結婚』は、一人の男性と一人の女性の間の関係であり、同性は含まれていない」と。2001年、祁家威さんは台湾の憲法裁判所に憲法解釈を要請しましたが、要請が「受付できない」と再び拒絶されます。
2000年
この年には、忘れられない事件がありました。叶永鋕くんという少年の死亡事件です。叶永鋕くんは中学校に通う15才の少年でしたが、女性寄りの振る舞いで長い期間に渡っていじめに会い、その後、学校のトイレで死亡しているのを発見されたのです。この事件から、台湾は学校教育にジェンダー平等教育を取り入れ、未来の価値観構築に深く影響を与えます。
2003年
LGBTパレードが始まりました。2018年、13万7,000もの人々がパレードに参加。台湾のLGBTパレードは、やがてアジアで最大のパレードになりました。
2015年
台湾の一部の市が、パートナーシップ登録制度を始めました。2017年までに、2000以上の同性カップルがパートナーシップ登録を行いましたが、法的な効力がないものにつき、病院での手術同意書にサインできない立場のままでした。
台湾同性婚ムーブメント第一人者の祁家威さんは、1985年から30年間に渡って訴えてきたものが受理されないままにも関わらず、2013年、2014年、そして2015年も、「同性婚を認めないのは違法だ」と最高裁に訴え続けたのです。
2015年7月
台北市政府民政局がやがて、「婚姻制度が男女の間だけに制限することは、憲法が謳える自由権と平等権を保障しているかどうか」の問題提起をし、憲法解釈の要請草案を起こし、11月に正式に裁判所に提出。
2016年
台湾のポップカルチャーのトップアイコンにあたる歌手とタレント10人が、台北ドームでコンサートを開き、なかなか進まなかった解釈の背中を押しました。アーメイ(張惠妹)、ショウ・ルオ(羅志祥)、レイニー・ヤン(楊丞琳)など、『Love is King It makes us all Equal』と題して、婚姻平等について発信しました。
2017年5月24日
そしてムーブメントの後押しもあり、沢山の議論がなされた末に「释字第748号」が公表されました。
「同じ性別の二人が、共に生活を営むことを目的の親密で排他的な永久関係を認めないことは、憲法第22条の婚姻自由権および第7条の人民平等権に違反する」
とした上、
「この解釈案が公表されてから2年以内、その主旨に伴った法律と法令を修正もしくは制定すること」
と、解釈案の中に加えました。
愛し合う人と
お互いを守り合える関係に
アメリカでは、1969年の「ストーンウォールの反乱」から2015年にアメリカすべての州での同性結婚を認める判決が出るまで、46年かかりました。イギリスでは「同性愛は犯罪ではない」と認めた年から、同性婚姻が法律で認められるようになるまで、47年。
様々な意見があるかと思いますが、私なりに考えた結婚の意味は愛するパートナーと「家族になること」。もちろん、婚姻関係だけがそれを表す訳ではありません。色んな家族の形はあります。ここで、家族になるという意味は、その人と同じ気持ちで意思決定ができるということ。
例えば病気や事故の時、代わりに判断を任せるよ、とお互いが責任を持つ関係でいられるということだと思うんです。家族という証明ができないと、大切な人が大変な時、いちばんお互いを守りたい時に、守ることができない。そんなことが起きうるのです。
<法律上婚姻関係が結べない場合不都合なこと>
・相手に何かあった時、手術などの同意書が書けない/相手名義でお金が支払えない(適切なケアが行えない可能性がある)
・税制優遇が受けられない
・子供の親権を、親のどちらかしかが持てない
・法定相続ができない 等
パートナーの存在の大きさを感じるのは、幸せな時は勿論、大変なこと、辛いことが起きた時に、お互いを必要としたり支えたりする時ではないでしょうか。重要なことだからこそ、法的な認定が必要。でもそれを認められる人と、認められない人がいる。
「信頼できるパートナーと家族になりたい」それだけの想いが、人格や、どれだけ愛し、信頼し合っているか、ではなく「性別」というただ生まれ持った基準で判断されているのが、日本を含む、多くの国での現状なのです。
台湾では、昨日、2019年5月24日から、同性の二人でも法律婚ができ、異性の夫婦と同じように、医療や福利厚生、そして相続などの権利を利用できるようになりました。
愛し合う人と、お互い責任を持ち合うことができ、守れる関係に。この日をきっかけに、日本でも前向きに議論が進んでゆくことを願って。
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Writer
Yang
中国蘇州生まれ。高校卒業後、父の影響で渡日。日本大学芸術学部に入学し、現代アートを中心とした写真表現を研究。2014年に広告代理店に就職。ストラテジック・プランナーとして、ブランディングおよび広告プロモーション分野で、ナショナルクライアントのプロダクトとサービスの立ち上げを経験。様々な業種の広告キャンペーンに関わり、日・中・英の3ヶ国語を生かしてプロジェクトを進める。株式会社Re.ingの執行役兼任。
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