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不思議な話<ニーナ・シモンとテッド・ニュージェント>

2020年も残りあと一か月わずかになりました。
もとは半年以上前にリリースされるはずだったこのアルバム「Panther City」のアートワークを頼まれたのは1年ほど前で、その時は「ブラックパンサー」がBlack Lives Matter運動を象徴するアイコンのようになるとは、思いもよりませんでした。

良き友人でもあり、今では大好きなNYローカルミュージシャンの一人でもある、LIZA COLBY(ライザ・コルビー)が、「SUSU」という新しいユニットを結成するにあたりアルバムのアートワークを私に依頼してくれ、デザインから原画完成までに2か月、その後も1か月以上色や細部を3人で微調整しながら仕上げた、自分にとってもかなり思い入れのあるアートワークに仕上がったと思っています。

ライザは、ティナ・ターナーを彷彿とさせる圧倒的な歌唱力を持ち、アレサ・フランクリン、ハンブル・パイの音楽性を融合させイギー・ポップの激しいステージパフォーマンスを組み合わせたような、白人層にロックを侵食されたこの時代ではニューヨークでもかなり珍しい黒人のロック歌手で、スコーピオンズやパティ・スミスの前座を務めたこともある、かなりの隠れ実力派ミュージシャンです。
私は、初めて彼女のライブを見た時に、久しぶりに鳥肌が立つような興奮を覚えたのを今でも覚えています。
その彼女が新しく始めたSUSUというユニットは、彼女の親友でもあり、同じく黒人女性ロック歌手のKIA WARREN(キア・ウォーレン)と結成したもので、ラフミックスの曲が送られてきた時点で私は一つ返事でこの案件を承諾しました。

中でも私が最高に気に入った曲が、ニーナ・シモンのカヴァーソング「WORK SONG」。
この曲はなんとあのWORK SONGがテッド・ニュージェントの「STRANGLEHOLD」のリフに合わせて作られており、それが秀逸すぎて最高なのです!

この曲を聴くまで、この相反するタイプの2曲が全く同じ構成をしてるなんて、今まで気づいたことがありませんでした。

テッド・ニュージェントといえば、近年ではかなりの嫌われ者で、それはハンティングなどを趣味とする彼の古風で保守的なライフスタイルや政治的見解に賛成しない左派寄りの人々がかなりボイコットをしていることでアメリカでは有名ですが、私は個人的に今でも大ファン。彼の曲は彼にしかできないし、あのスタイルやギターは唯一無二だと思っていて、特にこの曲は定期的に聴いては何回もリピートする大好きな曲でした。

テッド・ニュージェントの音楽が好き!と公言することは、民主党の多いニューヨークで、トランプ大統領支持だと胸を張って公言する事と似ている。
彼が熱心なトランプ支持者であることも含め。
同じく、スレイヤーのボーカル、トム・アラヤも自身ではっきり公言しているトランプ支持者ですが、スレイヤーのファン離れやアンチがそこまで顕著ではないのに比べ、テッドは言動が若干過激なためかアンチも激しめ。

そんなリベラル層からの嫌われロッカー、テッド・ニュージェントをバリバリ左派のニューヨークの黒人の女の子たちがフューチャーしていて、さらにその曲がニーナ・シモンときて、しかもそれが最高にかっこ良い!という、2020年の分断の結末が最終的にこうなればいいのに!と思わせる、素晴らしい一曲なのです。

話を戻しますが、このアルバムアートがなぜ、ブラックパンサーなのかというと、このアルバムはテキサスのフォートワースという街のスタジオで録音されたそうで、そのフォートワースを、別名、パンサー・シティというのだそうです。
そしてそのパンサー・シティがそのままアルバムタイトルとなり、ブラックパンサーをテーマにした絵を描いてほしいと頼まれて描いた絵を上記のアートワークに仕上げたのですが、アートワークとサンプルが完成したのも、今年の2、3月頃。まさに、コロナが大流行する直前の1、2ヶ月前でした。
その数か月後に、Black Lives Matter運動がここまで激化し、Black Pantherという言葉がまさかここまでバズるとは思いもよらず…。
ライブなどの活動がコロナのロックダウンで禁止になり、リリースに関する営業が全くできなくなった事はおろか、ブラックパンサーという言葉があまりにバズりすぎて、便乗商法だと思われてしまうのを避けるためにこの11月までリリースが延びてしまったというわけです。

という、全く意図せず今起こっている事とリンクするような不思議な偶然が重なったアルバムになりました。
人生はこういうことがあるから面白いとつくづく思う!

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