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【お探し物は図書室まで】本との出会いをきっかけに、それぞれが一歩踏み出す

「お探し者は図書室まで」(青山美智子・著、ポプラ文庫)は、悩みを抱えている登場人物が、図書室の司書に勧められた本との出会いをきっかけに、
新たな一歩を踏み出す物語だ。

悩みを抱えている登場人物は、
朋香(21歳、婦人服販売員)
諒(35歳、家具メーカー経理部)
夏美(40歳、元雑誌編集者)
浩弥(30歳、ニート)
正雄(65歳、定年退職)
の5人で、各章の主人公になっている。
彼らはそれぞれ、同じ図書室のリファレンスコーナーで、司書の小町さんからお勧め図書のリストを手渡される。そのリストには、問い合わせた内容とは合わない本が1冊含まれている。その1冊が、それぞれの悩みを解消するために行動を起こすきっかけとなる。

1つの章を読み終えるたび、主人公が新たな一歩を踏み出すので、元気をもらえる。
また、各章の主人公や脇役の人物が他の章にも登場し、最終章で伏線回収されるため、通して読み終えた時の楽しみもあった。

私が一番興味を持った登場人物は、夏美だ。
女性向けの雑誌編集の仕事にやりがいを持っていたものの、出産して産休から復帰する際に、配置転換されてしまう。夏美自身は編集部に復帰するつもりだったため、気持ちは萎える。
一方で、子どもを産んでみて、実際に仕事と育児との両立を考えると難しいことも実感する。出産したこと自体に後悔はなく、娘もかわいいのだが、雑誌編集の仕事に戻れないことにもやもやした思いを抱えている。

夏美のように、育児と仕事の両立について悩む女性は少なくないだろう。

尊敬する女性作家みづえ先生の前で、夏美が胸の内を吐露する場面がある。雑誌編集部で働いている女性社員に嫉妬してしまったり、子どもができて人生狂ったなと思う気持ちがある自分のことが嫌になるとこぼした夏美に、みづえ先生は、「メリーゴーラウンドに乗っているところ」と言う。

「メリーゴーラウンド?」
ふふふ、とみずえ先生が口もとをほころばせる。
「よくあることよ。独身の人が結婚している人をいいなあって思って、結婚してる人が子どものいる人をいいなあって思って。そして、子どものいる人が独身の人をいいなあって思うの。ぐるぐる回るメリーゴーラウンド。おもしろいわよね、それぞれが目の前にいる人のおしりだけ追いかけて、先頭もビリもないの。つまり、幸せには優劣の完成形もないってことよ」

「お探し物は図書室まで」P168

みづえ先生の言葉に、夏美は癒される。
そして、雑誌編集で頑張ってきて良かったと心から思う。

夏美は図書室から借りていた本にあった言葉から、現実は思い通りにならないことがあるということを改めて、受け入れる。
そして、編集という仕事の何が好きだったのか?と自問する。
雑誌以外の媒体が視野に入り、子育てと両立できる編集の仕事の可能性を探っていくことになる。

小説の中で紹介されている本は、実在する本で、巻末にリストが付いているので、気になった本があれば次の読書につながる。
近所にこんな図書室があり、新たな一歩を踏み出すための選書をしてくれる司書さんがいたらいいなと思わずにいられない。


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