5元(約80円)のチップを受け取ろうとしなかった武漢のタクシー運転手
コンサルタントの仕事をしていると役職の高い方と接する機会もありますが、私が今まで出会った方は皆さん人格者であり、人間的な魅力に溢れている方ばかりでした。
一方で政治家や経営者の不祥事を見ていると改めて社会的地位と人格は別物だなと感じています。
もちろん社会的地位が高い人物が人格者である確率は高いのですが、社会的地位が高くない人の中にも素晴らしく高潔な人格を持つ人がいます。私が2019年にその後パンデミックの震源地になる中国の武漢で出会ったタクシーの運転手さんもそんな人でした。
この3年近く中国には行っていないのですが、それまでは出張や旅行で中国に行くときは基本的にタクシー料金は現金で支払っていました。
中国ではだいぶ前からキャッシュレス決済が主流ですが、私の場合はパスポートの関係でキャッシュレス決済が利用できないため、どこに行っても現金で払うしかありません。
ただ現金だと運転手さんもお釣りのやり取りが発生してしまうので、手を煩わせないよう「お釣りはいらない」と言って端数はささやかなチップとして渡していました。(タクシー代が17元なら20元紙幣をそのまま渡す感じです)
チップといっても数元程度(日本円で20円~80円ぐらい)で腹の足しにもならないのですが、それでも上海でタクシーに乗るときに「お釣りはいらない」と言うと運転手さんは大喜びしてくれます。
2019年に旅行で武漢に行ったときも現地ではタクシーを使いましたが、その時財布には50元紙幣しかなく、メーターが「45元」を指していたのでいつものように「お釣りはいらない」と言って50元紙幣を渡しました。
ところがそのタクシーの運転手さんは真顔で「こんなの受け取れないよ」と言ってお釣りの5元(当時のレートで約80円)を私に返そうとします。
こっちも「せっかくだから受け取ってよ」という感じで少し押し返したところ、運転手さんは申し訳なさそうな顔でしきりに「謝謝!謝謝!」と言ってようやくお釣りの5元をしまい込みました。
その運転手さんがなぜチップを受け取ろうとしなかったかは真意はわかりません。ただ私にはタクシー運転手としての職業倫理を守り、プライドを持って自分の仕事をしているという意志は感じられました。
中国ではタクシーの運転手は決して報酬の高い職業ではなく、社会的地位も高いとは言えません。(武漢のタクシーの初乗り料金が上海や北京よりも安い)
そのため、つい最近まで中国ではメーターに細工して料金を不当に吊り上げようとするタクシー運転手もいましたが、一方で武漢のタクシー運転手さんのように高い職業倫理を持って仕事に取り組む人がいるので、必ずしも社会的地位が低いからと言って倫理観も低いということはないと思います。
日本でパートタイマーの仕事をしている人の中にもこのような高い倫理観と人格を持った方はたくさんいらっしゃると思いますので、個人的にはこのような方が報われる社会になればいいなと願っております。
(写真は2019年の長江を挟んだ武漢の夜景です)
今回もお読みいただきありがとうございました。
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