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事故車両をさっさと埋めてしまう発想はどこから来るのか

海外に駐在経験のある日本人管理職の方々に「異文化理解」をテーマにした研修を行うと、次のようなお悩みをよく耳にします。(特にメーカー系)

「海外の人は事故やトラブルを起こしても再発防止に関心がない」
「仕事でミスをしても全然気にしていない」
「大きな失敗をやらかしても、さっさと片づけて次に行こうとする」

上記の悩みは特定の国で起きていることではなく、欧米圏、アジア圏問わず、様々な国で同様のことがありました。

この話で思い出すのが2011年に中国の温州市で発生した高速鉄道の衝突事故です。あれから10年経ちましたが、当時は事故車両をさっさと埋めてしまったことに衝撃を受けた人も多かったのではないかと思います。

事故が発生したとき私はちょうど仕事で上海におり、現地の報道を見ていたのですが、個人的に一番驚いたのは事故の翌々日には運行が通常通り再開されていたことでした。

日本であのような事故が起きた場合、少なくとも復旧までに1ヶ月以上はかかるはずですが、たったの2日で再開させたことに「これがチャイナ・スピードだ」と悪い冗談を言う中国人もいました。
(高架の下で事故車両は埋まったままですが・・・)

事故の対応について「安全意識が低い」とか「これだから中国はダメだ」という人もいましたが、当時の中国でも様々な意見があり、迅速に運転を再開させたことを肯定的に捉える人もいました。

悪いことが起きた時にどう反応するか

冒頭の異文化研修の話に戻りますが、もし現地の社員がミスやトラブルを軽視するような態度を取った場合、「その態度は間違っている」と言っても彼らには通じない、なぜなら彼らは違う思考回路を持っているからです、ということをお伝えしました。

例えば職場で何らかの事故やトラブルが発生したとします。こちらのミスによるお客様からの怒りの電話などをイメージしてみてください。

そのとき、上司から開口一番どんな言葉が出てくるのか?

多くの日本人上司はもしかしたら「なんでこうなった?」と言うかもしれません。

一方で、海外の人は「次どうしようか?」という言葉が出てくることが多いと思います。

ここに両者の思考回路の違いが現れます。下図のように、事が起きた瞬間にまず過去に目を向けるか、それとも未来に目を向けるかの違いであり、それが行動に表れてきます。

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列車事故が起きた場合、まず未来に目を向ける人が考えることは「いかに早く復旧するか(原因究明は後でいい)」であり、まず過去に目を向ける人は「いかに原因を突き止めて再発をふせぐか(運転再開は後でいい)」を考えます。

どちらが良い悪いというものではない

先に過去に目を向けるか、未来に目を向けるかは文化とそこから来る個性の違いであり、日本人でもトラブルが起きても「そんなものはさっさと片づけて先に進もう」という人もいれば、中国人にも「まずは徹底的に原因究明だ」という人もいます。

重要なことはどちらも一長一短があり、絶対的な良し悪しはないということです。「〇〇人だからダメだ」ではなく、あくまで自分との「違い」として受け止めた方がよいでしょう。

例えば海外で現地社員がトラブルの再発防止に関心がないと感じた場合、それは本当に関心がないとは限らず、まずはトラブルを処理することに相手の関心が向いていると捉えたうえで、「そのトラブルについてどう思っているのか?」、「コストをかけても再発を防止すべきと思うか?」から議論したほうがより建設的な方向に進むと思います。

このように、自分から見て「ありえない」行動を取る人に遭遇した場合、安易に相手が悪いという前に、「思考回路が違う」ということに気づくとコミュニケーションのすれ違いも乗り越えることができます。

今回もお読みいただきありがとうございました。



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