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脳卒中片麻痺の回復に筋トレは有効なの?

脳卒中により片麻痺を呈すると、手足が動きにくくなります。

そのような方に対して、いわゆる『筋トレ』が有効なのか?ということについて考えてみたいと思います。

この記事を読まなくて良い方は次のような方です。
●脳卒中片麻痺の方に対する理学療法に自信のある方
●脳卒中片麻痺の方の回復に興味のない方
●「脳卒中片麻痺に筋トレなんかやるわけないだろ!」と考える方

そうでない方は、ぜひ読み進めてください。

この記事を読むと、
●そもそもの『筋トレ』の基本原理が再確認できる
●脳卒中片麻痺の回復に『筋トレ』が無効な理由がわかる
●脳卒中片麻痺を呈した方への関わり方が変わる


筋力増強とは

筋力増強運動、いわゆる筋トレにどのようなイメージを持たれているでしょうか。

もしくは、どのように実践されているでしょうか。

多くの場合、目的とする筋の収縮を求めるために、抵抗運動や自動介助運動を行ったりするのではないでしょうか。

では、このいわゆる筋トレでは、何を目指して行われるのでしょうか。

理学療法士ならおそらく誰もが持っている『運動療法学 総論』では、次のように書かれています。

 このような視点から,筋力増強運動初期の筋力の増加は,中枢では大脳の興奮水準の高まり,末梢では筋力発揮時に参加する運動単位の動員による筋繊維数の増加など,中枢神経系の働きによることが多く,この時期は,運動学習(motor learning)の時期といわれている.
 Moritaniらはこのことを筋電図学的に実証し,筋肉の肥大は運動療法後3〜5週以降と指摘した.
(吉尾雅春編集:標準理学療法学 専門分野 運動療法学 総論 第2版, p207, 2006)

筋トレの初期では神経系への効果が得られ、その後筋肥大が生じる、とされています。

神経系への効果というのは、筋を働かせる神経がより働くようになった結果、その神経が働かせることのできる筋繊維の数が増える、といったものです。

この神経系への効果が最大限得られた上で筋収縮を繰り返し行い、筋疲労(筋繊維の損傷)が生じた結果、回復過程で筋繊維がより太くなる、というのがその後生じる筋自体への効果です。

つまり、いわゆる筋トレで得ようとする効果である筋肥大というのは、筋を支配する神経がしっかりと働けていることが大前提なのです。


脳卒中片麻痺の病態を考える

以前のこちらのnoteでも、脳卒中片麻痺の理学療法で考慮すべき病態を書いています。

この記事でも書いたことですが、

●脳卒中は脳に生じる疾患である

●脳卒中は筋肉が弱る病気ではない

という2点は脳卒中片麻痺の筋トレを考える上で忘れてはならないと思います。

脳卒中では脳の損傷により、結果的に随意的な筋収縮を行うことが難しくなります。

筋肉自体には問題がないものの、筋肉を働かせるための神経の働きが障害されるため、使えていない筋繊維が萎縮してしまう。

これが脳卒中片麻痺による筋力低下ですね。

上で引用したように、筋肥大に至る前に中枢神経系の働きが改善することが必要です。

その中枢神経系が上手く働けていないとしたら、いわゆる筋トレは有効と言えるのでしょうか?

少なくとも、一般的に行われるような抵抗運動としての筋トレは無意味なのではないかと考えます。

神経系への効果を重視した自動介助運動での筋力増強運動であればまだ有効なのかもしれませんが、個別の関節や筋肉を働かせることに意味があるのか、という疑問もあります。


脳卒中片麻痺の回復のために何が必要か

ここまで、脳卒中片麻痺に対するいわゆる筋トレが有効なのかについて考えてきました。

もちろん、麻痺の程度によって様々だということは事実であり、ある程度の随意的な筋収縮が起こせる場合に全てが無効とは言えませんが、純粋に脳卒中片麻痺という病態からの回復を考えると、いわゆる筋トレは無効であると考えます。

では、脳卒中片麻痺の回復のために行うべきことは何なのでしょうか。

私の意見ですが、その方にとっての身体を変えることが必要だと考えます。

急に抽象的な話になってしまいましたが、その方にとっての身体というのは、その方自身が感じ、その方自身が認識している、ご自身の身体のことです。

例えば、その方にとって膝関節を伸展するという動きはどのような動きなのか。

筋肉に力を入れるという意識で行うのか、膝を動かすことを意識して行うのか、足部を持ち上げるという意識で行うのか。

目的とする動きと意識している動きとが大幅に食い違ったりしていないか。

そんなことを確かめた上で、どのように動かせば良いのかを考え、修正していく。

このような過程を経ていかなければ、脳卒中片麻痺という病態からの回復は難しいのではないでしょうか。

脳卒中片麻痺の方の主観的な身体を知る・把握する、ということについては、こちらの記事でも書いているので参考にしていただければと思います。


まとめ

今回は、脳卒中片麻痺を呈した方にいわゆる筋トレが有効なのかについて考えました。

結論は、無効だと考えます。

もちろん、筋トレの全てを否定するわけではありません。

脳卒中片麻痺の方であっても、筋トレが有効となる麻痺の程度の場合もありますし、病態背景を考慮した上で学習の媒介として筋トレを用いることが有効な場合も考えられます。

今回の記事でお伝えしたいのは、脳卒中片麻痺という病態を把握することの必要性、加えて、脳卒中片麻痺という病態によって変質してしまった本人の主観的な身体を考慮することの必要性です。

ご本人の主観的な身体を考慮する、ということについてはいくつかの記事で書いているので、下に紹介して終わりたいと思います。

こちらも参考にしていただけると幸いです。



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