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【論文紹介】歩行中の視線行動は地形に合わせて調整される

リハビリテーション場面において、下肢に問題を抱えた方は足元ばかりを見て歩いてしまう傾向があります。

私自身の経験では、脳卒中片麻痺の方にその傾向が強いように感じています。

そのような問題が生じた際に「前を見て歩きましょう」と声をかけてもなかなか上手くいかず、どうしたら良いのか悩んだことのある療法士は多いのではないでしょうか。

今回は、そんな悩みを持ったことのある療法士に読んでみて欲しい論文を紹介したいと思います。

MATTHIS, Jonathan Samir; YATES, Jacob L.; HAYHOE, Mary M. Gaze and the control of foot placement when walking in natural terrain. Current Biology, 2018, 28.8: 1224-1233. e5.


歩行中の視線はどこを見ているのか

冒頭で足元ばかり見て歩く方が多いことに言及しましたが、そもそも本来はどこを見て歩けば良いのでしょうか。

本当に前を見て歩くことが正しいのでしょうか。

本論文では、この問題に一定の回答が得られます。

The gaze probability distribution relative to the planted foot indicates that subjects spend most of their time in each of the terrains looking at the ground roughly two to four steps ahead (Matthis, 2018).

本論文での実験では、歩行中の視線は2〜4歩先を見ているという結果になっています。

In flat environments, the regularity of the terrain means that this certainty can be achieved by only occasional glances at the upcoming path. In rough terrain, achieving a similar degree of confidence is a more arduous process. Thus, the way that vision is deployed for the control of locomotion reveals the underlying structure of the sensorimotor decisions that support successfu performance in the face of the complex and varying demands of the natural world.(Matthis, 2018)

そして、歩行中の視線行動は環境に依存して変化するとし、視覚は環境からの要求に合わせて運動制御を達成するのをサポートするとしています。


リハビリテーションにおける意義を考える

本論文では、環境(平坦な道か荒れた道か)に依存して視線行動が変化することが示されました。

つまり、歩行中にどこを見ているかは一定しておらず、環境に合わせて決まるということです。

あなたの担当している脳卒中片麻痺を呈した方や下肢の整形外科疾患を患った方は、いつも同じところに視線を落としていませんか?

平坦な道だろうが、荒れた道だろうが、常に自身の足のすぐ近くばかりを見ていませんか?

本論文の知見から考察すると、このような方は次のような問題を抱えている可能性があるのではないでしょうか。

■2〜4歩先のステップを予測して運動制御を行うことができない

■平坦な路面での歩行でも、荒れた道のような高度な運動制御が要求されている

前者は視覚情報に基づく予測的な運動制御が困難な状態、後者は姿勢制御能力の問題によって視覚情報の要求量が高まっている状態と考えられます。

以上のような問題があるとすると、ただ「前をみて歩きましょう」と指示するのでは修正が困難なのは当然と考えられます。

前者の場合、記憶した視覚情報に基づいた運動制御を行う練習が有効となるかもしれません。

後者の場合、足底が接地している路面の状況(傾きや硬さなど)を体性感覚情報から知る練習が有効となるかもしれません。


まとめ

今回は歩行中の視線行動について調査した論文を紹介しました。

人間は少し先の足元を見ながら歩行しており、路面の状況に合わせた運動制御を視覚が予測的にサポートしているようです。

脳卒中片麻痺を呈した方や下肢の整形外科疾患を患った方で、足元に視線を落として歩行される方は多いと思います。

そのような方に出会ったとき、我々セラピストは「前を見るように」と指示するのではなく、なぜ足元を見ているのかを考える必要があるのではないでしょうか。

一見遠回りに見えるかもしれませんが、本質的な問題を探り、適切な練習を提供したいですね。



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