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【読書感想文的エッセイ】あの地平線輝くのは1

 初めて『星の王子さま』を読んだのはいつだったろうか。多分、小学二年生。いや、五年生だったかもしれない。少なくとも、もう覚えてないくらいの頃に読んだ作品のひとつなのは確かだ。小学生の頃のぼくは、今ほど本を読むような子どもではなかった。面白いと思った本は読むが、ゲームや漫画を方が好きだった。自称本の虫の母が、そんなぼくを心配? して、買い与えてくれた数冊の本の中にそれはあった。それが、『星の王子さま』との出会いであった。
 しかし、今思い出してみると、買ってもらったのが小学二年生の頃で、『星の王子さま』に手を付けたのが、小学五年生の頃だったように思えてくる。その間にもいくつかの本を読んでいたが、ぼくは読むのが遅かった。今でも読むのにものすごく時間がかかる。あと、何か分厚い本—例えばハリー・ポッターシリーズとか—を読んでいるクラスメイトに対して、尊敬と何と言ったらいいか分からない不快感みたいものがあったような気がする。おそらくだが、分厚い本=難しい本という認識が当時のぼくにはあって、そういう本を読んでいるクラスメイトに対して、劣等感があったんだと思う。今思えば、そんな単純な図式に収まるはずはないのだが、当時のぼくにそう言っても無意味な声掛けだったろう。人というのは基本的には自分のことでいっぱいいっぱいで他の人のことを考える余裕などないはずなのだ。ちなみに、当時のぼくは『マジックツリーハウス』シリーズや『若女将は小学生!』シリーズなどを読んでいた。
 『星の王子さま』を読んだきっかけは覚えてない。本棚にあったから、としか言えない。どうやら名作らしかった。まったくわからなかった。やさしい文体と挿絵のタッチのわりに、内容は小学生のぼくが到底理解できるものではなかった。でもなにかいい話なのはわかった。そして時間が経った。

 2020年2月、大学が春休みだったぼくは、演劇部の後輩たちに殺陣の指導をするために、母校に通っていた。そして2020年3月、全国の学校という学校が休校になった。当時、OBOG公演を打つという企画が上がっていたが、大学生は母校に入れなくなってしまったので、企画は実質おじゃん、空中分解した。空白の時間はYouTubeを観ることと本を読むことで埋めた。そこで読んだ1冊の中に『星の王子さま』があった。約10年ぶりの再会だった。不思議なことに、ぼくは王子さまの言わんとしていることが分かるような気がした。ぼくは10年前に、何も話せないまま転校してしまった友達と、その時間を埋めるように、いろんな会話をした。今のこと、それからのこと、これからのこと、人生のこと、愛のこと。誰もが先行き不安で、怯えていた当時、ぼくは宇宙を旅することでなんとか心の平穏を保っていた。

 『星の王子さま』はなんとも不思議な話である。物語の構造もかなり複雑だ。この話は飛行機の操縦士である「ぼく」が「王子さま」との出会ってから別れるまでのすべてのことが書いてある。序盤は「王子さま」と出会うところ、中盤は「王子さま」が「ぼく」に語ったところ、終盤は「王子さま」と別れるところ、という構成になっていて、物語全体が手紙という体裁をとっている。そして、物語の語り手=書き手である「ぼく」は、読者にこの話を実話として伝えている。著者のサン=テグジュペリはパイロットで、この話も、サハラ砂漠に自分自身が不時着してしまったときの体験をもとにしていると言われている。その後、3日ほど―具体的な数字は忘れてしまった―かけて、エジプトのカイロまで歩いたそうだ。その間のことは、彼にしか分からない。もしかしたら、ホントウに「空から男の子が!」というのがあったかもしれない。そういった著者の背景があってこそ、この物語がいい塩梅の不思議さを醸し出していると言える。

 


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