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【戯曲】キャスリング/水彩奴

王様……キング
参謀……ルーク

明転
舞台中央に椅子

ルーク椅子を凝視

キング下手から登場

キング「ペティーカ?ペテオーラル」

ルーク 生返事
「ペティーソ」

キング「ハイト!イヴノーラエンディールフランカ、デアフォンイーヴコンスタントビザンティーレン」
ルーク「アウア、フランツマーギリューカ、ビフォールフランツヴァ―リンゲン」

キング「フランツソード、ノルヴェーナリューカチャーケン、デムフォンカーユンク、ミューンツェン」

ルーク「チェ=シュバルジア、ハームガルデン、ユノスイーヴントアクロアトーレン」

キング「シャウツ!リューカノラフィービー、エビデンノール」

ルーク キングを見る
「エビデンノール!?ラシッド、アリューケスト、ニューファンドアムステル。バルトメロー、ウルサイノデシズカニシテラエマス?」

キング「チャーケヴェンナエルダユンカ。イーヴフェデルフランカスリューゲン。……。オマエキング二、ソノイイカタハナイダロウ」

ルーク「ワ―グ。ポーランワッシュフランカフォルテニーゲン」

キング「ノルイーヴフォーエン。ツォーレハットイーヴン。フォール?」

ルーク ゲラゲラと笑う
「リヒコーズ、イーヴンフォール。……。アー、ワライスギテシンドイ」

キング「ナア!コウヤ、コットウヤ。……コレ、ソロソロヤメヨウヤ」

ルーク 普通の喋り方になる
「……せっかく盗聴対策で考えたのに」

キング「これを?」

ルーク「はい」

キング「徹夜で?」

ルーク「はい」

キング「なんで?」

ルーク「盗聴されてるけど大丈夫なように」

キング「それで何言ってるか分かんないようにしたの?」

ルーク「そうです」

キング「自分でも何言ってるかわかんないから、多分やっても意味ないと思うよ」

ルーク「そうですか?はあ。せっかく文法も教えたのに。まあ、これ以上増やしたら覚えられないですからね。この辺にしておきましょう」

キング 不審そうに
「なあ、さっきから何やってんの?」

ルーク 椅子に視線を戻して
「チェスです」

キング「チェス駒がチェスやるのか?」

ルーク「チェスはやりませんよ」

キング「じゃあ何すんの?」

ルーク「この駒を平積みにして、音立てないように抜いて、上に積むんです」

キング「なんかいろいろ混ざってない?」

ルーク 立ち上がってキングに席を譲ろうとする
「そうですか?結構楽しいですよ。ほら」
促す

キング 試しにやってみる
「平積みじゃなくて、山積みな」

ルーク「あ」

キング 独り言
「音を立てずにやんのか?……。結構難しいな」
ルークに
「このゲーム、名前は何て言うんだ?」

ルーク「ドントブリーズです」

キング「息もダメかあ」

ルーク「……」

キング 気にしないふり
ゲームはもうやらない
『』内の台詞大げさに
『いや、でもホントに危なかったよなあ』
ルークを一瞥

ルーク ゲームを一人で始める
視線を感じて
「うん」

キング『あいつらチョー強くね?』
ルークを一瞥

ルーク 視線を感じて
「うん」

キング『まさかあんなに早くクイーンを取られてしまうとはなあ』

ルーク 視線を感じて
「うん」
失敗する
「ああー、ダメだ」

キング「なあ」

ルーク 集中している

キング「ルーク君さあ、集中してるから喋りかけんな、とか思ってる?」

ルーク「うん」

キング 立ち上がり
「ああ!いいよ!別に!気にしてないし!なんてったってキングだからな。太平洋並みの広い心でなきゃキングは務まらないし、部下の失敗を許してこそ良い上司ってもんだろ」

ルーク 棒読み
「なんて寛大な人なんだ」

キング「そうだぞ。だからお前ももっとこう……払えないの?」

ルーク「払うって何を。……お金?」
キングの顔を窺う

キング 何か言いたそう

ルーク「違うな。うん。違う。何だ。払う。はらう。祓う……幽霊?」
キングの顔を窺う

キング 何か言いたそう
ルーク「これも違うなあ」
キングを見る
「あ、ホコリ」

『』内の台詞を同時に喋る

キング『ちが』

ルーク『付いてますよ』

キング「え?ああ、すまんな」

ルーク 棒読み
「いえいえ。ちゃんと目上の人には「敬意」を持たないと」

キング 状況が分からず。
『』内の台詞を同時に喋る
「え?ああ、そうだな。ちゃんとな、目上の人には『敬意をはら』」

ルーク『で、何を払うんですか?』

キング 呆れて
「いや、もう、いいかな。うん。もう、いいや」

ルーク「変なの」

キング(なんなんだこいつ)という表情

ルーク「おお、面白い顔ですねえ」

キング 驚くが、それを悟られまいと平静を装って
「あのさ、ゲームに打ち込んでるところ悪いんだけど、君のお仕事は何ですか?」

ルーク「対局の作戦を練ることです」

キング「ですよね。今の状況何とかできる?」

ルーク「……やってみます」
立ち上がる

キング「一応確認だけど、あのクイーンを先になんとかした方が良いよな」

ルーク「そうです。あの夫人を落とせば、相手の布陣は一気に崩れます」
キングと顔を見合わせる

キング 馬鹿にして
「おい。え?お前、今のって、夫人と布陣で、え?かかって、偉い人の奥さん、の、夫人と、陣を敷く、の、布陣で、え?かけて……」

ルーク 舌打ち

キング「お前……」

ルーク キングを一瞥

キング「あ、なんでもないです」

ルーク「とにかく、クイーンを真っ先に落とせば、相手は一気に崩れるはずです」

キング「そこで一気に攻める!」

ルーク「いえ、まだです」

キング「なんで?」

ルーク「中国にこんな話があります。勝利を急ぎすぎ、百里の道を全速力で移動すると数人しか辿りつかず、味方の幹部がやられてしまう。五十里の道を全速力で行けば軍の半分しか戦場に到着しない」

キング「ごめん、全くもって意味が分からない」

ルーク「要するに、勝利を急ぎすぎてですね、百里ある道を全速力で移動すると、数人しか辿りつけないよー、そしたら味方の幹部がやられてしまいますよー的な。五十里の道でも全速力で行ったら、軍の半分しか戦場に到着できませんよー的なやつです」

キング「ああ。そういうことか」

ルーク「今ので分かったんですか」

キング「うん。結局、勝ちを急ぎすぎるなってことだろ」

ルーク「そういうことです。この世で、急いでやっといた方が良いのは夏休みの宿題だけですから」

キング「じゃあ、このまましばらく様子を見るのか?」

ルーク「そういうことになりますね」

キング「その後の動きは?」

ルーク「相手の出方次第です」

キング「ということは?」

ルーク「しばらくは動きません」

キング 残念そうに
「そっかあ。動かないのかあ。暇だなあ」

ルーク「何かしますか?あ、盗聴対策」

キング「そんなのしても意味ないだろ」

ルーク「ありますよ」

キング「え?」

ルーク「だってされてますから」

キング「え?……ちょー!そういうのはもっと早く言うべきことだろ!」

ルーク「しましたよ」

キング「え?」

ルーク「「盗聴されてるけど大丈夫なように」って」

キング「ん?え?……ううん。してた。してた。してた」

ルーク「だから対策はいると思うんですよね」

キング「でも、今ここで対策すると聞かれちゃうじゃん」

ルーク「その心配はないです」

キング「……なんで?」

ルーク「もう壊したんで」

キング「……だから、そういうことは!……いや、良いのか。良いのか?いや、良いんだ。あれ?なんか、もの凄くモヤモヤする」

ルーク「何をブツブツ言ってるんですか。だいたい、盗聴器見つけてそのままにしておく方がおかしいでしょ」

キング 納得いかない

ルーク「作戦、考えますか?」

キング「うん、そうしよ」

二人そそくさと中央の椅子に集まる

ルーク「で、どうします?」

キング「まず、あのクイーンだな。問題は。あいつ、あんななりしてるけどめちゃくちゃ機動力あるからな」

ルーク「そーなんだよなー!!」

キング「せめてあの機動力さえなければ何とかなるんだけどなあ」

ルーク「そうなんですよねえ」
考え込む
「あ、それですよ!」

キング「どれだ!」

ルーク「今、言ったことですよ」

キング どれか分からない

ルーク「なんで分かんないだよ!自分で言ったことだろ!」

キング「仕方ないだろ!分かんないもんは分かんないだから!」

ルーク「あー!だから!機動力を無視すれば何とでもなるんですよ」

キング「ごめん、全くもって意味が分からない」

ルーク「でしょうね。……えーとですね、俺たちチェスの駒は各々に決められた移動範囲があるじゃないですか」
キング「うん」

ルーク「で、クイーンはそれがものすごく広いから厄介なんですよ」

キング「うん。それで困ってるんじゃないか」

ルーク「ドントブリーズ。重要なのはここからです。クイーンの移動範囲は自分を中心に放射線状に伸びています。つまり、いくら広いといってもどこにでも移動出来るわけではないんです」

キング「……つまり?」

ルーク ずっこける
「つまりですよ。クイーンの放射線状に入らなければ、クイーンは安全に倒すことが出来ます」

キング「おおー。ってことはよ、隣合わずに一足飛びに攻める必要があるから……ナイトか!」

ルーク「正解!」

キング「イェス!じゃあクイーンはもう良いとしてその後だな」
窓際へ行き、双眼鏡で遠くを見る
「おい、あのポーン、三つ並んでるの邪魔じゃないか?」

ルーク「あー、確かに、チェーンになってますね」
『』内の台詞を同時に喋る
『……あ、でも味方にフィックスされてるんで大丈夫。あ、でも一対三はキツいか……。あ、でも他に助けに行けるやついないからな……。あ、でも』

キング『ちょっと待って。ちょっと待って。自己完結しないで。……。』

ルーク「はい?」

キング「あのー、迷子だから」

ルーク「どこに?」

キング「お前の話に」

ルーク「じゃあ俺が『迷子あるある』一個やってるんでその間に合流しててください」

キング「え?」

ルーク 一歩前に出て
「あれ?……あのここって、梅田駅じゃないんですか?」
一歩下がる
キングを見て
「あ、おかえり」

キング「帰れてねーよ!」

ルーク「ダメですかね?」

キング「いいよ、もう。軍隊動かすのお前の仕事だし。別にあれだろ?俺が分かってなくても特に問題はないんだろ?」

ルーク「まあ、ないですけど」

キング「じゃあいいや。ルーク。お前の思うようにやれ」

ルーク「良いんすか?」

キング「うん」

ルーク「じゃあやりますよ」
無線で連絡する
「ディーザールーク。ディーザールーク。イヴフォーランド、デアナハ、マーギヴェルシーナフランカス。ユンポーランワッシュ、イーヴンサッラーディア、デムフォンフランツトュルケツァントフランケン」

キング「何て言ったの?」

ルーク「互いのポーン同士で進路を塞ぎ合っていたので、そのまま食い止めろ。残りの軍は迂回して、敵陣でポーンがプロモーションするまでの補佐に回れ、と連絡しました」

キング「うわー。容赦ねえな、お前。味方なら心強いけど、敵には絶対したくねえ」

ルーク「お褒めにあずかりまして」

キング「残りのポーンを全部プロモーションさせようする考えが怖いわ。そのポーンは皆、クイーンになるんだろ?」

ルーク「そら、そうですよ。そのためのプロモーションなんですから」

キング「おー怖い、怖い。クイーン一人でも厄介なのに、それが大群で攻めてくるなんて耐えられねえな」

ルーク「でも、いくら他の奴に守ってもらってもプロモーションできるポーンはほんの一握りですよ」

キング「ポーンは魚の卵ってことか」

ルーク「お、上手いこと言いますねえ。俺はイクラが好きです」

キング「あ、俺も」

ルーク「知ってました?イクラってロシア語なんですよ」

キング「そうなの!」

ルーク「Лососьикра(発音:Losos、ikura)と言うらしいです」

キング「へえー」

ちょっと気まずい時間が流れる

ルーク「あ、あんま興味無かったですか?」
『』内の台詞を同時に喋る

キング『あ、ごめんね。ごめんね。なんか気使わしちゃって。俺が魚卵の話なんかするからだよね?ごめんね。……』

ルーク『良いんです。良いんです。こっちこそ気使わせて。いや、俺がイクラが好きとか言ったからなんで。全然、全然。……』

強い揺れ
二人ともよろけて膝まづく

ルーク「大丈夫ですか?」

キング「ああ、大丈夫だ。何が起こったんだ?」

ルーク「ちょっと見てきます」
立ち上がり窓際へ駆け寄る

キング「おい、気を付けろよ」

ルーク 外の景色を見て青ざめる
「クイーンだらけじゃねえか!」

キング「どうしたんだ?」

ルーク キングに駆け寄る
「同じ戦法です」

キング「え?」

ルーク「一旦引きましょう」

キング「おいおい!どうなってんだよ!ルーク!おい!ルーク!聞いてるのか!」

ルーク「ドントブリーズ!」

キング 口を押さえる

ルーク キングを扉から逃げるよう促す

キング 頷いて中央奥の扉から脱出

ルーク その扉を閉めるマイム

暗転

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