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【戯曲】書店シリーズ/水彩奴

書店シリーズ「面接」

店長
バイト希望者

椅子が二つ
上手側の椅子に面接官が座っている

希望者「コン!コン!コン!」

店長 「お入りください」

希望者「はい!ガチャ。失礼します!バタン」
椅子の所まで移動

店長 「お座りください」

希望者「はい!失礼します!」
着席

店長 「ノックは口で言わなくても結構ですからね」
希望者「はい!」

店長 「えー、それでは、まず、履歴書の方を……」

希望者「はい!」
鞄から出す
「これです」

店長 「なんかデカいな」

希望者「はい!」

店長 「コレは何ですか?」

希望者「伝記です!」

店長 「……。誰の?」

希望者「はい!履歴書という紙一枚で私を表すことは不可能と考え、自分の経歴を伝記としてまとめました!」

店長 「うーん、何故書いたかは聞いてないんだけどなあ」

希望者「はい!」

店長 「は、はい……。まあ、良いでしょう。それでは参ります」

希望者「どこにですか?」

店長 「え?……。面接を始めます」

希望者「はい!」

店長 「そんなに緊張せず、リラックスして構いませんからね」

希望者「え?は、はい。リラックス……」
ぎこちなく脚を組み
「元気?」

店長 「この人は何かを履き違えてる気がする。普通にしててください」

希望者「はい!」

店長 「それでは、まず名前を教えてください」

希望者「あ、その本に……」
本を示す

店長 「ここに?あ、はい」
本をめくる
「えーっと……。どこだ?」

希望者「236ページです」

店長 「それまでのページには何を書いてるんだ……」

希望者「はい!まず最初に志望理由を……」

店長 「言わなくて結構です」

希望者「はい!」

店長 「えーっと、本田詩織さん?」

希望者「はい!」

店長 「では、本田さんはバイトの経験はありますか?」

希望者「んー、ここでは無いですね」

店長 「知ってますよ。私、店長ですから。えーっと、ほかの店でのバイト経験はありますか?」

希望者「ない……」

店長 「経験なし」
メモを取る

希望者「に等しいですね」

店長 「に等しい。それは短期バイトならってことですか?」

希望者「いや、無いです」

店長 「無いんですね」

希望者「はい、ゼロです」

店長 「無経験なんですね」

希望者「はい、バージンです」

店長 「使い方間違ってるけど、言いたいことは何となく分かります」

希望者「ありがとうございます。だから優しくしてください」

店長 「はい、それはちゃんと丁寧に教えますから。採用されれば」

希望者「痛いのとか嫌なん」

店長 「分かりましたから。ちょっと黙っててください。こっちにもペースってモンがありますから」

希望者「それは私たち二人の関係において店長がイニシアティブを取りたいという……」

店長 「落としますよ」

希望者「すいませんでした」

店長 「えー、では、ここでバイトをしたいと思った理由を聞かせてください」

希望者「はい。私、昔から物語が好きで、ずっと書店で働きたいと思っていたんです」

店長 「ほう。物語が。確かにこの店は小説とか結構揃えてますからね」

希望者「あ、そういうことじゃなくて……」

店長 「えっとー、どういうことですか?」

希望者 急に話に熱が入る
「例えば!本棚に、こう、本がズラーッと並んでますよね!その中の本を取ろうとした時に手が触れ合う男女!コレって物凄く物語を感じません!?」

店長 圧に押されて
「確かに、感じる、感じるよ、うん」

希望者「ホントですか?要するに私が言いたいのは、書店という場所は本だけでなく、人との出会いもある場所だってことなんですよ!」

店長 「あなたを一度でも馬鹿だと思ったことを撤回させてほしい」

希望者「そんなこと思ってたんですか?」

店長 「だから撤回するから」

店長 「では、次の質問に。好きな本はありますか?」

希望者「好きな本ですか?いろいろありますけど一番は「産気づき」ですかね」

店長 「さっきの発言を撤回させてほしい。……。「産気づき」ですか。初めて聞くな。ちなみにそれは人が虎になる話……」
希望者の顔を窺う
「ではなく!虎を産む話ですか?」

希望者「え!読んだことあるんですか!?」

店長 「いや、読んだことはないです」

希望者「何で分かったんですか?読んだこともないのに内容を当てるなんて凄いです!」

店長 「出来れば当たりたくなかった……」

希望者「どうかしたんですか?ちょっと顔色悪い出すけど」

店長 「店長悲しい」

希望者「どれくらい?」

店長 「嬉しいか悲しいかで言えば悲しいし、悲しいか物凄く悲しいかで言えば物凄く悲しい」

希望者「例えるなら?」

店長 「例えるなら?授業中に先生が「いつも出席番号一番から当ててるから、今日は後ろ当てていきます」って言った時ぐらい」

希望者「正解」

店長 「すいません。少し取り乱してしまいました。続けます。採用するに当たってのこちら側のメリット、つまり、あなたの自己アピールをお聞かせください」

希望者「そんな取らぬ狸の皮算用じゃあるまいし」

店長 「使い方間違ってるけど、何となく分かるんだよなあ。まあ、難しく考えなくても、簡単な自己アピールで構いませんから」

希望者「はい。……。あ、その本、取ってもらっていいですか?」

店長 「ああ、伝記。はい」

希望者「ありがとうございます。私、こう見えて速読が得意なんです」

店長 「どう見ても、分からない情報ですね」

希望者「見ててください」
本に手をかざす
「ね?」

店長 「いや、「ね?」と言われても……」

希望者「ダメですか?」

店長 「まあ、ちょっと面白かったので、良しとしましょう」

希望者「ヨシッ!」

店長 「調子には乗らないでください」

希望者「はい!」

店長 「最後に確認と言うか、まあ、実際に働く時の役割分担にも関わってくることなんですが」

希望者「何ですか?」

店長 「書店員って結構力仕事なんですよ。こんな事言うのは失礼かもしませんが、そういった点は大丈夫ですか?」

希望者「それは大丈夫です。こう見えても私、体力には自信あるんです」

店長 「へえ!そうなんですか!」

希望者「はい!腕立て伏せとかも結構できますよ。やってみましょうか?」
立ち上がる

店長 「いや、大丈夫ですよ。確認したかっただけなので」

希望者「いえ!店長の信頼を何とかして勝ち取らないと!私の気が済みません!」
腕立て伏せをしようとする

店長 「大丈夫!大丈夫ですから!」

希望者「大丈夫ですか?」

店長 「熱意はちゃんと伝わりましたから」

希望者「ということは?」

店長 「……採用」

希望者「ヨシッ!」

暗転

書店シリーズ「積ん読の人」

()内は必ずしも声に出さなくても良い

B 椅子に座って本を読んでいる

A 引き割から入ってくる
本を五、六冊抱えている
Bの隣の席に座わり
本を机に置く
(ふう~っ)
何となくBの方へ視線を移す

そこには大量に積まれた本

A 二度見して目をこする
積まれた本の数を数える
(一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二、十三、十四、十五、十六、十七……)

まだまだカウントは続く

その本の塔の先は天を仰いでも見えない

暗転

書店シリーズ「速読の人」



椅子が二つ
Aが椅子に座っている
本を読んでいる

A ページをめくり
読み終わる
ストックしてあった本を取り読む
読むスピードが速い

B 引き割から入ってくる
本を三冊抱えている
Aの隣の席に座わり
本を机に置く
(ふう~っ)
一冊手に取り
ページをめくるようと見せかけて、
目を閉じて手をかざす

Bは笑っている
どうやら手をかざすだけで読めるようだ

A 笑い声を不審に思いBを見る
驚いて二度見したり目をこすったり

B 読み終わる
二冊目を同じようにして読みだす
今度は泣いている

A Bの真似をして本に手をかざしてみる
やはり出来ない

A 諦めて普通に読む
少し読むがBの事が気になり集中できない

B 三冊目の本を読もうとする

A 思い切ってBに話しかける
「あの」

B 少し驚いてAを観る

A  「どうやって、やってるんすか?」

ゆっくり暗転
ここからは口パク

B  「ああ、これ?教えてあげるよ」

A  「はい!ありがとうございます!」
自分の座っていた椅子をBへ寄せる

B  「本を閉じて、その上に手をかざす。んで集中する」

A 言われた通りにやるがやはり出来ない

暗転完了

書店シリーズ「争奪戦」



Aが上、Bが下にいる
()内は必ずしも声に出さなくても良い

A・B 本を探して中央へ歩いてくる
本を見つけて手を伸ばす
二人の手が触れ合う
(あっ)
手を引っ込めて会釈
お互いの様子を見ながら手を伸ばしたり
引っ込めたりする
睨み合い
ジャンケン前の気合を入れるポーズ
「んー、ヤンケッツァ」
Aが負け、Bが勝つ
A上着を脱ぐ

暗転
明転

A 上着は脱いだまま

A・B 引き割奥で準備体操
クラウチングスタートの準備
走り出す
攻防が続くもAが本を手に入れる

Aガッツポーズ

B上着を脱ぐ

暗転

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