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恋しい日々

不健康な休日

ここ最近は割と仕事が忙しく、休日も何かと予定が入ることも多かった。この連休は、これといって予定がない。不思議なことに、忙しい時には喉から手が出るほど何もない一日が欲しいのに、手に入れた瞬間、実はそんなに「何もない1日」を求めていなかったのではないかという、一種の冷めた感情に陥ることがある。

普段なら気晴らしに出かけたり、料理をしたりという時間を過ごすけれど、なぜだか今日は気持ちが入らない。外はこんなにも天気がいいのに、その太陽が一切当たらない屋根の中で不健康に過ごしている。

そんな時に、耳が求めてしまう声がある。不健康な自分を、辛うじて救ってくれる音楽を私は知っている。

ラジオの声

シンガーソングライターのカネコアヤノさん(以下敬称略)を知ったのは、3年前の今くらいの時期だったと思う。

そのころ私は大学3年生で、とある団体で長期インターンをしていた。そのインターン先は小さな音でTOKYO FMを流していた。普段はそれこそ、BGMとして聞き流している程度で、もちろん目の前には取り組むべき仕事がある。けれどその日だけは、その日カネコアヤノがスタジオライブをしている間だけは、その声をBGMにすることが出来なかった。

彼女が出演していたのは、確かグッドラックライブという夕方の番組だったと思う。突然聞こえてきたメロディと彼女の声に耳が掴まれ動けなくなった。一瞬少年が唄っているのかと思うような少し中性的な声にカントリー調のメロディ。今までに聴いたことのない音楽であることは間違いなくて、私が一瞬にして心を掴まれたこともおそらく、間違いがなかった。

そこからはもう、体は全力で仕事をしているポーズをして、耳は帰宅した後、絶対にラジオの中の彼女の存在にたどり着ける手がかりを入手すべく神経を注いだ(当時のインターン先の方、すみません)。

そして私は手に入れた。

冷たいレモンと炭酸のやつ

というワンフレーズ。後に『恋しい日々』という楽曲の1フレーズだということを知る。とにかくその時一番印象に残った楽曲で、このワードでなら彼女にたどり着けるという謎の確信をした。

帰り際、駅までの道で既にスマホを取り出し、検索をかけて、確かこの曲にたどり着いたのだと思う。そこから逆引きして、radikoでグッドラックライブを1週間何度も聴き直した。やはり魅力的な声にメロディ。そしてライブ映像を観たら、想像の何倍も力強く、音楽と一体化して音を奏でている姿があった。

10点の休日に乾杯

それから3年間、ふと思い出してはカネコアヤノの音楽を聴いている。よく聞くアーティストの一人になった。お気に入りの曲は『恋しい日々』の他にもたくさんある。『祝日』『やさしい生活』『カウボーイ』『光の方へ』等々。

彼女の声は、一見クセのある声と感じる人もいるかもしれない。けれどどうしてかスッと入ってくる。そして歌詞もまた、気構えなくていい歌詞が多いように感じる。ほんの日常のような場面が楽曲になっている。

ご都合主義であることは百も承知で言わせてもらうと、私はカネコアヤノの曲に何もない休日を、丸ごと肯定してもらっていると言っても過言ではない。側から見たら10点みたいな休日を、イヤホンの中の自分だけは100点満点と胸を張れるようになる感覚が、どこかある。

頑張れとか、うまくいくとかって言葉がなくても、冷たいレモンと炭酸のやつを自販機で買う。ただそれだけのフレーズに背中を押されることがある。今日は頑張りたくないという日がたまにはあっても、きっといい。それくらい楽に生きたい。

カネコアヤノの音楽で100点になった休日。何もない日の昼下がり。もう10点くらい上積みしたいから、今からレモネードでも買ってこようと思う。


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