【読書感想文】地球にちりばめられて
挨拶
読者諸君、ご機嫌よう。突然だが、諸君らは喋ることが好きだろうか。他人と会話して、心を通わす行程を楽しんでいるだろうか。
noteを弄んでいるのだ。きっと言葉が好きに違いない。諸君らの溢れる語彙力が、日常の営みにもしっかりと有効活用されていることを願う。今日は、読了後に誰かとすぐ喋りたくなるような、そんな本を紹介する。
好きな人と好きなだけ喋っていたい。無類の話好きである私だ。
今日紹介する本は……。
今回紹介する本は、多和田葉子先生の『地球にちりばめられて』である。
母国を失い、手作り言語を喋る女性、Hiruko。彼女の話す独自の言語、「パンスカ」はスカンジナビアならどこの国でも通じる。
Hirukoを起点に集まってくる個性的なキャラクター。彼らはバックボーンも母国語も全く違う。皆が必死に語りかけ、ちぐはぐなコミュニケーションが生まれる。
それでも音のリズムに、声の抑揚に、熱を伝えるその表情に、誰もが触発されずにいられない。人が集まれば、その分語り合える。皆がそれを知っている。だが、我々は初対面や馬の合わない人がいると、話す事を億劫に感じがちなのだ。
もったいない。たくさん喋れば良かった。これからもっともっと人と言葉を交わさねば。きっと諸君らもそう思う。是非、本作品を読んでほしい。
感想
話そう。喋ろう。言葉を交わそう。アイデンティティなんて飛び越えて、文化も人種も関係無く、ひたすらにお喋りを紡いでいこう。
全部理解してくれなくてもいい。少しの意思疎通さえあれば、溢れる言葉の洪水が、やっぱりちゃんとした言語なのだと教えてくれるから。それは、全く無意味な音の連鎖なんかじゃない。
初対面のぎこちなさも、理解の齟齬からの軋轢も、真剣に会話した証。世界のどこの国で、どんな人と膝を付き合わせたとしても、全てはどこまでもくだらないお喋りを繋いだ友達との会話の延長線上。
難しく考えず、素直に頭の中を打ち明ければ、それだけで大きな満足感が生まれることだってある。
言葉に乗せて、気持ちを流し出してほしい。コミュニケーションを諦めて死んだように生きるのはもったいない。他人の頭の中にある、予想もつかない考えを引き出して、あっと驚く体験を増やしていこう。
Hirukoの手作り言語、パンスカ。何となく喋っているうちに出来てしまった、各国で通じる言葉。それは完成しない。
周りの人たちの声に耳を澄まして、音を拾い、反復し、規則性をリズムとして体感する。そうして声を発しているうちに、一つの言語として変化していく。
日本語、英語、デンマーク語、マラーティ語……。パンスカを話すHirukoを中心に、多様な言語が集まった。しかし、誰一人として怖じ気づくことなく積極的に話す。違う言語同士のちぐはぐなやり取りは、時として滞りはありながら、次第に滑らかになる。
その中で、パンスカも鞠のように弾んだ。
一つの言語に対して、ネイティブか非ネイティブかは関係無い。むしろ、常に翻訳の苦悩を重ねている非ネイティブの方が、語彙は広いかもしれない。
Hirukoも饅頭をマジパンチョコレートと訳したりした。
不安定な発音でも、奇想天外な言い換えでも、極論、唇の動きと表情だけだとしても、人の心は通じ合う。
だから、地球全体でお喋りしよう!
僕らは皆、一つのボールの上で暮らしている。
言葉の煌めき。アイデンティティの膨らみ。
そんなもの、いくらでも探せる。
壮大なこの世界で感情を打ち返し合えば。
終わりに
私は今、会話欲が滾っている。誰か私とお喋りしようではないか。誰もいないなら、明日会社へ行く前に近所のお地蔵さんにでも話しかけてみよう。ではまた。
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