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キャリコン的映画レビュー:『正欲』

原作未読ですが、かなり良い映画でした。なんとなくネタに触れているので未見の方はご注意を!
検事の寺井啓喜(稲垣吾郎)は普通の世界を代表しそれ以外の主要人物たちは普通ではない世界の人々です

水フェチの桐生夏月(新垣結衣)、佐々木佳道(磯村優斗)、諸橋大也(佐藤寛太)、矢田部陽平(岩瀬亮)過去のトラウマから極度の男性嫌いの神戸八重子(東野絢香)

「明日生きていたいと思えない」

普通ではない世界の人々は生きる意味を見出せず、SNSでかろうじて繋がっています。みんな居場所がないと感じています。と言うのも、普通側からのプレッシャーが半端ないのです、結婚、出産、育児マイホームなど普通の人々は普通であれと迫るのです。

”普通”って何でしょうかね

夏月と佳道は”普通”の人々に紛れるために”擬態”の暮らしをします。その中でようやく安定的な生活を見つけました。
新垣結衣は複雑な性格のキャラを上手く演じていましたし、稲垣吾郎も本当に”普通”を代表するような演技で良かった。女子大生を演じた東野絢香の感情爆発も見事でした。
水という題材は映画には向いていますね、学校の水道を壊して水を浴びる場面などはなかなか美しく感動的で相米慎二『台風クラブ』の大雨のシーンのカタルシスを思い出しましたよ。

いい映画でしたが正直スッキリ感はないです、何でかと考えてみました。まず思ったのは主要人物に感情移入がしにくいキャラ造形になっているからです。もう少し詳しく見ていきましょう
例えば観客は”普通”とか”正義”に対しては感情移入しやすい。一方でサイコパスとか殺人鬼に対しては嫌悪感とか憎悪ですが逆感情移入というか、ベクトルは違えどそれも一つの感情移入と言えるでしょう
しかしながらこの映画では主役級の夏月(新垣結衣)、佳道(磯村優斗)、大也(佐藤寛太)の3人は”普通”でもないし、犯罪者というほどでもない。”擬態”して普通の暮らしをする中で良さも発見したりする。どっちつかずなのです。
映画を見ていてこの人たちは普通の側に行きたいのか、アウトサイダーでいたいのかはっきりせずモヤモヤします。ただこれは岸監督の狙いなんだろうと思います。

またこの三人の内面が描写されないので感情移入しにくい。水フェチって何?何が原因でそうなったの?と疑問が湧くけども映画内で答えは出ない
興味深いのはこの映画で内面を持つ二人の人物、トラウマ系女子大生の神戸八重子(東野絢香)とペドの教師矢田部陽平(岩瀬亮)。被害者と加害者という違いはあれど、内面に闇があり何らかの原因でそうなったのだろうと思わせます。物語的にはわかりやすい人物ですが二人とも水フェチ組には合わずに物語から退出します。

内面に闇を抱える二人が抜け、残ったのは内面に水しかないような水フェチ三人組だけです

結局この映画は何が言いたかったのか、普通ではないしかといって犯罪者でもない中途半端な変わった人、劇中のセリフにもありますが異星から留学してきたような人、普通を擬態してる人、現代人の居場所の無さってこんな感じなのかもしれないと提示してるように思いました。

キャリコン的には、トラウマ系女子大生やぺど教師などは内面にフォーカスすることで何らかの解決の糸口が見つかりそうです。ただ分野としては精神科医などの専門家に連携し、お任せすることになると思いますが。
一方で、水フェチ三人のような内面の見えない人については、医療の範疇なのでしょうか?

内部に原因がある → 治療する

内部に問題がない為、このような医学的アプローチは効果的でないと思います。まずは共感、傾聴をしっかり行うことでしょう
水フェチの人はどうせ人に相談してもわかってくれない、、、と考えている。そこをしっかりと興味を持ち共感、傾聴すること。

アメリカの心理学者であるカール・ロジャーズはカウンセリングにおいて来談者中心療法を提唱しました。

その3要素とは、
「共感的理解」・・来談者について共感し理解する姿勢
「無条件の肯定的関心」・・来談者を否定せず、肯定的に関心を寄せる
「自己一致」・・カウンセラー自身の状態を自己理解していること

この映画は物語的に水フェチという極端な設定ですが、通常の相談でも様々な好みや傾向、価値観を持った方々がいらっしゃると思うのでロジャーズ先生の3要素はキホンのキとしてしっかり方法に落とし込みたいと思います

ではでは

余談ですが新井素子の80年代のSF『グリーン・レクイエム』は植物型異星人が地球人に擬態して暮らす物語です。同作に出てくる光合成で生命維持する異星人と、性欲がない『正欲』の主人公は重なって見えました

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