見出し画像

最近眺めた画集のことなど

夏だ。相変わらず本を買っている。
30過ぎても3,000円以上する本を買う時は緊張する。良い本をまとめて何冊か買う時はもっと緊張する。

お金足りるかな…と思いながらレジに向かい(だいたい足りない)答えは知っているのに「カードでも良いですか?」と聞いてしまう。良い本屋だ。

花も毎月のように買っている。
僕の通っているblackbird booksさんは時々花屋さんになるので、そのタイミングで花を買う。
花を買うのは楽しい。本を買うのとはまた全然違う楽しさがある。僕の好きな花屋さんは選んだ花に対して必ず一言くれる。前に買った花のことも覚えていてくれる。

良い本屋と良い花屋が歩いて10分の所にある。
大阪に引っ越してきて1番幸せに思っていることだ。


今日はそんな素敵な本屋さんで買った画集や写真集のことを書く。前にも本の話を書いたけど楽しかったから。
仕事の話よりも気合が入ってるね、と言われたりするけれど。分かってるじゃん。


【灯台】木村和平

僕に写真の楽しみ方を教えてくれた友人がいる。

彼とは20歳の時にカナダで出会った。
大学で写真を専攻していた彼は、なんとなくで大学を休学しカナダに来て、英語を学ぶでもなく、ふらふらしながら写真を撮って暮らしていた。
彼が話した写真についての言葉がとても印象に残っている。


いい写真には光を感じられる

ただ被写体を撮ろうとしているか、光を通じて被写体を浮かび上がらそうとしているか

たくさん写真を見たらわかるよって、写真の勉強を始めた時に先生に言われた

いい写真を撮ろうと思ったら、光を感じる訓練が大事なんだ、くらい光、あかるい光、いろんな光を



木村和平の写真を見るといつも彼の言葉を思い出す。

トロントの町外れ、夕方、ドーナツ屋の駐車場でタバコを吸いながら。とりとめのない会話の中だった。
シャイな彼が真剣に写真のことを話してくれたのは後にも先にもその時だけかもしれない。

その数時間前に、彼はドーナツ屋の店内で、さっき骨董市で買ったばかりの中古カメラの試し撮りで僕を撮った。
カメラを構えてから、彼はずっと何かを待っていた。不思議と僕は緊張しなかった。彼は僕を写そうとしているというよりは、その場所の光を掬い取ろうとしていると分かったから。

出来上がった写真には不思議な顔をした僕が写っていた。見たことのない表情の僕だった。自分がこういう顔をすることを初めて知った。

後に帰国した彼は卒業展示が大学のコンペに選ばれ、ドイツで写真展を開いた。フェイスブックで見たドイツの大きな会場には、不思議な顔をした僕が展示されていた。

もう10年も前の話だ。

木村和平の写真にも光がある。
どんな光なのか、ぜひ見て欲しい。
会ったこともない、この年下の写真家が、僕にはなんだか凄く懐かしい友人のように思えるのだ。

【ON THE TABLE】安西水丸

真っ直ぐな線が一本、横に伸びている。
境界線が生まれる。上と下、手前と奥、過去と未来。

安西水丸のことを知ったのは村上春樹のエッセイが最初だったように思う。ヘタウマなタッチで、シンプルな顔の村上春樹や独特な挿絵を描く人。
名前と絵を知ったのが中学生くらいの頃で、そこから10年近くそのイメージのまま時間が過ぎた。

数年前、安西水丸が亡くなった時に、改めて彼の描いた絵について知りたいと思って調べ、衝撃を受けた。


あえて平面的に描かれた世界に、とんでもない奥行きが広がっている。さりげなく置かれたマッチや海外の置物に、積み重ねてきた経験やセンスを感じる。

全然、ヘタウマな人じゃなかった。

ごめんなさい、こんな絵僕にも描けるわい、と10年近く思ってしまっていた…。

線が少ない絵って、それだけで勝手に情報量やテクニックも少ないって思ってしまっていたけれど、間違いだった。
テクニックがあるから、少ない線で伝えたいことが伝えられる。ベタ塗りの背景は無や空白ではなく、空間に物語を生み出す余韻のようなものだった。

安西水丸の絵は、見るたびに新しい発見があって楽しい。上手い下手じゃないんだよ絵は、と言われているような気持ちになる。いや、そんなことすら安西水丸なら言わなさそうな気もする。
ただニコニコ笑って、いいでしょ、って言いそう。

ちなみに、安西水丸はエッセイや小説もとても良い。
僕が好きでたまらない小説の一つに、彼の【手のひらのトークン】があるのだけど、その話までしてしまうととんでもない文章量になってしまうのでやめておく。
いつか時間を作って書こうと思う。


本当はもっといろんな本を紹介したかったのだけど、関係ないことを書き過ぎたので今日はこの2冊。

ちなみにこの2冊は自費出版に近い形で世に生まれている本だ。木村和平の灯台は700部限定。安西水丸のON THE TABLEはこの作品集を出すためだけに立ち上げられた出版社から出ている。

こうした本は都会にある超大型書店か、逆に個人経営の店主の嗜好が反映された小さな書店でしか扱われていない。

僕は完全に後者でしか本を買わない人間なので偏った選書になってしまうのだが、世の中には普通の本屋には並ばない素晴らしい本がたくさんあるよ。と声を大にして言いたい。

世の中には、僕やあなたが知らない素晴らしい本がたくさんあるよ。

それでは。



この記事が参加している募集

読書感想文

人生を変えた一冊

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?