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町工場で何を作っているのか?#21:84歳社長が死んだら終わる会社

就職先は地方の家族経営の町工場。84歳社長が全てを取り仕切っている。
社長が死んだらどうなるか、誰にも分からない。

建設業&金属加工業

一言で町工場と言っても、作っているものは千差万別。
当社は主に建築用の金物を作っている。

もう少し具体的に言うと、ステンレスの加工品が多い。
手すりとか、流し台とか、幕板などなど。

規格品は作らず、全てがオーダーメイドの受注生産。

多くは元請けの建設会社から図面が送られてきて見積もりをし、その建設会社が入札に勝って仕事を受ければ、当社にも仕事の依頼が来る。

建物は、一つ一つ全て違う。規格品は作らないので、現場に行って打ち合わせをして、図面を描いて、建設会社にOKをもらって、制作をする。
完成したものを取り付けに行ったりもする。

どこか大きな建設会社の下請けではなく、色々な建設会社から依頼が来る。建設会社だけからではなく、大きな工場だったり、家具屋だったり、公共系の所からも仕事が来る。


親会社もなければ、規格品もない。

この会社が面白いと思った理由は、主にこの2つ。
親会社もなければ、売り上げの30%を占めるような大きな取引先もないので、外部から無理やり仕事を押し付けられないし、口出しされない。
規格品を作っていないので、価格競争にも巻き込まれないし、違うものを作るので飽きにくい。

新卒で働いた電器メーカーの工場では、まさに規格品の大量生産をしていた。単価の安いものだったので、0.1円単位でコストを削り、0.1%稼働率を上げたり、0.1%不良品率を下げたり、0.1秒タクトを削るのが仕事だった。

ちょうど普及し始めた製品だったので、毎年生産量が2倍になり、価格も半分になるようなもの。そうやって、日本国内でどれだけ頑張っても、海外で何十倍も生産できる工場ができて、価格破壊が起こる。

結局、数年前にその工場はなくなった。

規格品や大量生産品は、どれだけ投資ができるかの勝負になる。価格競争も激しい。小さな会社が手を出さない方が良い。同様に、下請け企業は仕事はあるかもしれないけど、やりたくはない。


昔は年商10億超えの会社だった

高度経済成長期からバブルまで、日本の建設業は絶好調だった。
まさに、その波に乗って成長し、その後の不景気でダメージを受けている。

昔は業務用の冷蔵庫は規格品ではなく、それぞれの店に合わせて作ったものを設置していた。厨房用品や風呂なども地元の小さな町工場が作っていた。そんな感じの注文が大量に有った。
そういう身近なものから、建物を建てるときの鉄骨まで作り、バブルのころはパチンコ屋からの注文も大量に有ったらしい。
誰もが知っている巨大なビルの手すりを作ったり、大きな駅の前のモニュメントなども作っていた。
業務用の巨大な生ごみ処理機も自社開発していた。

従業員も50人以上いて、社長は業界団体の理事長とかも色々していたらしい。

失われた技術も多いが、過去には色々やっていたので、それだけポテンシャルはある。あと5年たてば、みんな引退して、全ての技術が失われる。


職人魂を受け継ぐ人

もの作りは嫌いではない。だけど、熱中して時間を忘れるほど好きでもない。毎回違うものを作っていて、現場にも行ったり、打ち合わせとかもたまにしていても、3年もすると飽きてくる。

この道50年のベテラン職人さんは凄いとは思うけど、あと何十年も現場で物を作っていたいとも思わない。

僕は、子どもや若者が好きなことを思いっきりできる社会を作りたい。
そのためにこの会社を使って、若い人が好きなことを出来る環境を作り、それが上手くいって広がって、いつかは、子どもたちが勉強よりも好きなことを思いっきりやれる社会になればいいと思っている。

現状、誰も技術を引き継ぐ人がいないから、やっている。

もの作りが好きな人を早く見つけて、職人の心と技術を引き継いでほしい。


84歳社長が死んだら終わる会社シリーズ ↓

”僕”の自己紹介 ↓


登場人物

登場人物 会社の人たち

僕:この物語を実況している人。入社3年目のアラフォーおじさん。

社長:50年以上前に創業した町工場の社長:84歳
奥さん:社長の奥さん。お金周りを担当:70代後半
専務:創業時からいる社長の弟。最近間違いが多い:80代
孫くん:社長の孫。最近会社に来ていない:20代前半
娘さん:社長の娘。月に1週間くらい来て事務をする:50代
ベテラン職人:何でもできるがこだわりも強い。社長の義理の弟:70代半ば
取付職人:現場の取り付け担当。最初だけ丁寧:70代半ば
営業:いつも適当な図面を描いてくる:60代後半

中堅職人:新卒で就職したが独立、従業員ではないが、手伝ってくれている:50代

登場人物 社外の人たち
兄ちゃん:取引先で出会った「何者」かになりたい田舎の工場で高卒で働く兄ちゃん。商品の販売をお願いした。


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